台風ハザード
「何しにきたんだ。上杉」
台風が直撃した月曜。休校の連絡を受けた直後、武田は玄関にいた。
「ブリアムがうまく作れたから」
「おれはおまえの恋人か何かか?」
ドアチャイムを鳴らした犯人に突っ込む。全身ずぶ濡れの上杉は、何故か武田の家にやって来たのだ。
学校が休みともなれば、ひとりの自由を満喫するつもりだったのに。わざわざ生命の危険を冒してまで自分の家を尋ねてきた友が理解できない。
とはいえ、
「風邪ひくから入れよ」
追い返すのも忍びないので家の中に招いてやる。上杉の手土産ブリアムが気になるわけでは決してない。
「武田……」
「おまえ、その顔使うところ間違えてるぞ」
上杉のわずかに浮かんだ喜色を指摘する。目にしたのが女子生徒なら、きっと恋が始まっていただろう。
もちろん、恋など始まらないうちに新手が玄関に滑り込んできた。
「あー。死ぬかと思った」
今度はチャイムすら鳴らさない。
「あ。上杉も来たんだー。武田、遊ぼう」
「おまえは帰れ。伊達」
彼らは休校の意味を知らないのだろうか。
善戦むなしく悪友ふたりは武田邸にあがり込んだ。
「上杉。それ貸せ。温め直すから」
「ん」
「それから、おまえら風呂入ってこい」
「え。上杉と一緒に?」
「俺は構わないが」
「冷めたブリアム食いたいなら好きにしろ」
数分後、バスルームから声が響く。
「伊達。狭い」
「そっちがデカいだけでしょ」
「……」
「キャーッ、タスケテッ! ゲイに襲ワレルーッ!」
変態どもめ、と武田は内心毒づいた。
遅めの朝食後、伊達がバンバンとテーブルを叩く。
「武田。ミルクティー飲みたい!」
「自分で作れ」
「ミルクティー!」
なおもバンバンとたたくワガママ王子は無視して片付けをはじめる。
「手伝おう」
「お。サンキュー」
「ブリアムはどうだった?」
「普通にうまかったよ。ご馳走さん」
「次は、何が食いたい?」
「いや。おれ、おまえの嫁じゃないから」
そんなのは彼女にでも言ってやれ。
洗い物をすませた武田は私室へ向かうと、
「ねー。武田のパソコン、えっちな動画とかないの?」
「武田。このDVD観てもいいか?」
「おまえら、くつろぎすぎだ」
予想通り悪友たちはやりたい放題だった。
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