廃部クライシス






「上杉。ちゃんと部活動してる?」

「それをおまえが訊くのか。バ会長」


 始業ベルがなる直前、話しかけてきた悪友に対して武田は不機嫌そうに返す。


「何だよ。武田。感じ悪いなぁ」

「それはこっちの台詞だ。おまえこそ、ちゃんと仕事してるのか?」


 唇を尖らせる伊達に、仕事しろとストレートに言い放つ。

 上杉は向かいの席でじっとことのなりゆきを見ている。リーダーのノートを開きながら話の落としどころを待っているようだった。


 伊達の方は心外だと言いたげに胸を張る。


「してるよ、ちゃんと。だからこそ、訊いてるんじゃないか」

「あん?」

「ぶっちゃけ、来年度の部費予算どこから減らそうかと」

「それ、かなりえぐいぞ。というか鬼畜だな。上杉のとこを真っ先に潰そうとするか。普通」


 眉をひそめるも、伊達はちっとも気にしていない。 ゲームの進み具合を確かめるような口ぶりだ。


「で、実際のとこ、どうなの?」

「さあ。最近、顔を出してないから知らない」


 上杉が意外な返答をした。

 武田も伊達も驚いた。彼にしては歯切れか悪い。この真面目一徹の男が部活に行かないとは、何か事情でもあるに違いない。伊達も同じ感想を抱いたらしく眉をひそめた。


「さぼり?」

「いや」

 世間話のノリで審査がはじまる。

 ここで上杉は剣道部の実績をアピールしなくてはならない。ただこの男にできるものなのか。

「俺が行くと部員たちが集中しにくいらしい。顧問が『真面目に稽古させるから、たまに顔を出してくれ』と頼まれて」

 部活にくるなということか。顧問の発言に伊達が首を傾げる。

「なんなの、それ。インターハイには出る気ある?」

「それはもちろん」

「じゃあ、結果次第じゃ廃部」

 伊達が指をさして宣言するも、上杉の表情は変わらない。

「顧問に伝えておこう」

 さくさく恐ろしい話が決まっていく中、黙って聞いていた武田は知っていた。

 剣道部員たちは密かに上杉のことを『剣豪』と呼び、恐れていることを。

 彼は幼い頃より道場に通い、腕を磨いている身。にわか仕込みの部員たちでは到底歯が立たない。

 根も真面目だから稽古でも手を抜かないと思われる。味方(試合)では心強いが、敵となると稽古でも恐怖を感じるのだろう。


 剣道部の廃部も近いな。

 武田は、どうでもよさげにひとりごちた。






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