【5分以内で読める】ショートショート

MaiKa

YouTuberにオレはなる。

 放課後の生徒会室。夕闇も迫る頃まで、男子生徒ふたりが作業している。

「急げ。武田。あと30分しかない」

「わぁかってらいッ、もう少しで終わる!」

 ざかざかと荒々しい作業ぶりを披露する武田たけだ颯真そうま。対して向かいに座る上杉うえすぎ優刀ゆうとは丁寧で確実な仕事運びをしている。

 このふたり、外見も性格も正反対である。常に喜怒哀楽を全面に出す武田と常に冷静沈着な上杉。


 実際、

「たっだいま~」

 タイミングのいい闖入者が現れた時だ。

「やぁやぁ、ふたりとも進んでる?」

「ふんッ!!」

「へブッ!!」

 扉を開けて入ってきた男子生徒に武田は思いきりファイルを投げつける。

「痛たたた……いきなり何すんのさ、武田」

「今までどこほっつき歩いていた、伊達のバ会長ッ!」

 悪びれた様子もなく、さらに大声を張り上げる武田。相手は、伊達だて政宏まさひろ。生徒会長であり、腐れ縁の悪友である。

「先生に呼ばれてたの見てたじゃん」

「知っとるわ!」

 伊達も、のろのろと言い訳を始めるもぴしゃりと黙らせる。

「おら、上杉。おまえからも言ってやれ」

 武田は横目で催促する。きっと彼も内心は腹に据えかねているはず。自分よりは冷静に指摘してくれるだろう。

 そう期待する親友は顔をあげた。その表情からは何の感情も読み取れないが。


「伊達。お疲れ」

「上杉くんッ、もっと他に言うことあるだろッ!?」

「さすが。上杉。いつもさんきゅー」

「伊達会長! これはもともとおまえの仕事だろーが!?」

 労いの言葉で和やかな雰囲気になりかけたが武田がそれを制止させる。

 騙されてはいけない。自分たちがやっていた仕事は、生徒会長の伊達がやるべきものだったりする。

 己の職務を押しつけた張本人は、気にしていないのかしみじみ呟いた。

「やー。実は担任に進路のことで考え直せって言われてさ」

「今度は何やらかしたんだ」

「進路希望調査書の【将来の夢】って欄にYouTuberってかいた」

「そりゃそうだろ」

 伊達はこう見えて医学部にも行ける偏差値を叩き出した男である。教師陣たちは慌てたに違いない。自覚のない伊達は唇を尖らせるだけだ。


「どうして教師は、ああも安定と確実を求めるのか」

「いや、他に言いようがないだろ。立場上」

 呆れてそれしか言えない空気の中、上杉だけが黙々と作業していた。

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