第133話 バクー復興 其の五 新しい名産

 突如発生したバクーで米採れない問題。

 米が食べられなくなるという不安からかベルンド、アリア、そしてルネが泣いている。


「ほら、泣くんじゃない。米が無ければ麦を食えばいいじゃないか」

「邪道だ! 私達はもう米が無いと生きていけないのだぞ!」


 とトカゲ顔のベルンドが言う。

 いやお前、ついこないだまで芋虫食ってたじゃねえか。

 究極の悪食に耐えられる竜人でさえ、こんなことを言う始末だ。


「うぅ…… カレーライス……」


 アリアは机に突っ伏して泣いている。

 彼女は俺に出会ってからずっと米を食ってるからな。

 よほどショックだったのだろう。


 しょうがないな……

 それじゃ俺が米に代わる、いやそれ以上の物を作ってやるか。


「おいベルンド! シャキッとしろ! これから美味い物を食わしてやる! 調味料を用意しておけ!」

「グルルルル…… 何をバカな…… 米以上に美味いものなど……」


「いいから持ってこい! それとアリア! 鍋で湯を沸かしておいてくれ!」

「は、はい! でも何をする気ですか……?」


 アリアもまだ分かってないのか。

 ふふ、お前が大好きなものを作るんだよ。


 俺は食料庫から小麦粉を取り出す!

 ボールに水を入れて小麦粉を投入!

 卵を入れて!


 混ぜる!


 ギュッ ギュッ


 よし、こんなもんでいいだろ。

 まな板の上に打ち粉をする!


 バッ


 ごほんッ! むせた!

 気を取り直して……


 俺は腰からいつもの枝を取り出す。

 これにオドを込め……


 シュンッ


 棍が俺の手に握られている。

 別に汚くないぞ。オドを込める度新品の状態で現れるのだから。

 ちょっと長いのでもう少し短くしておこう。


 シュンッ

 

 うん、これでいい。

 打ち粉をしたまな板に先程作った生地を乗せ!


 ギュッ ギュッ


 伸ばしては折るを繰り返す!

 ふぅ、こんなもんでいいだろ。


「タ、タケオさん、それって……」

「ふふ、アリアは分かったみたいだな。もう少し待っててくれ!」


 生地は出来上がった。これに時間操作をかける。

 進める時間は一日。


 ギュォォォォンッ

 

 フワッ


 よし、これで完成だ。


「グルルルル、タケよ、調味料は持ってきたぞ。で、何を作っているのだ? パンのようだが……」

「まぁ見てなって。アリア、手伝ってくれ。スープ作りは任せた!」

「はい!」

 

 アリアは全て理解したのだろう。笑顔で俺に応える。

 味付けに関しては任せても大丈夫だろう。

 では俺も仕上げに取り掛かろう。


 棍を使って、生地を伸ばしていく。

 次は棍から包丁に持ち代えて……


 トントントントントントントントントントンッ


(すごいのー。細いのがいっぱい出来たのー)


 とルネが目を輝かせている。

 そういえばルネには食べさせたことが無かったな。

  

 もうすぐ出来るぞ。

 美味しいラーメンがな……


 切り終えた麺を沸騰したお湯の中にくぐらせる!


 グツグツッ


「こ、これは…… 見たことがない料理だ。異界の料理か。だがこれが米の代わりになるなど……」

「文句は食ってから言ってくれ。そろそろだな。アリア、そっちはどうだ!」

「はい! スープ出来上がりました!」


 よし! アリアはスープを器によそって持ってきてくれた!

 麺をお湯からすくって、チャッチャと湯切りして!


 チャプッ


 これで完成だ! 思いつきで作ったラーメンだ。具材は無く、薬味はネギだけのシンプルなラーメンだが仕方ないだろう。


 これをテーブルの上に並べる。


「わ、割とすぐに出来たな。これは何という料理なのだ?」

「わー…… タケオさんのラーメンだー。久しぶりですぅ……」

「ははは、中々作れなくて悪かったね。それじゃ伸びる前に食べようか! ベルンド、お前はトカゲのくせに猫舌なんだろ? だがラーメンは熱いうちに食ってなんぼだ。我慢して食えよ!」

「わ、分かった…… では食べるとしよう……」

「キュー」


 ルネは箸が上手く使えないので俺が食べさせることに。

 ほらルネ、熱いからフーフーして食べるんだぞ。


(はいなのー。フーフー…… チュルルッ)


 アリアはもう夢中でラーメンをすすっていた。

 ちょっと泣いてるではないか。


「ふえーん、美味しいよぅ…… タケオさんの味だぁ……」

 

 そういえばアリアに初めて食べさせたのもラーメンだったな。

 彼女にとって思い出の味ってとこなのだろう。

 

 トカゲのくせに猫舌のベルンドは無言でズルズルとラーメンをすする。

 こいつの表情は読み取れないからな。

 笑ってると思ったら怒ってたり、またその逆もよくある。


 だが器の中はほとんど空だ。

 一応感想を聞いておこう。


「ベルンド、美味かったか?」

「グルルルル」


 お前それわざと言ってるよな?

 もう持ちネタとしか思えない。

 だがベルンドはスープまで綺麗に飲み干してから一言。


「美味い…… 最高だ!」

「ははは、それは良かったよ。どうだ? これなら米が無くても大丈夫だろ? それに今回は具材が入ってないシンプルな醤油ラーメンだ。

 だがラーメンのバリエーションは無限だ。スープの味、乗せる具材、麺の細さで味が変わってくる。飽きのこない味で毎日だって食べられるぞ」


「なんと!? タケよ、詳しく教えてくれ! これは新しい名産として広めねばならん!」


 ははは、さすがは元復興大臣だ。

 急にやる気が出てきたな。

 ベルンドは俺が知っている限りのラーメンのレシピを熱心にメモを取っていた。


 よし、これで食料問題は解決するだろう。

 米は収穫出来る量が限られるが、これからは小麦の消費量が増える。

 バランスよく消費していけば、どっちかが無くなる心配も無いだろう。


 メモを取り終えたベルンドは俺のとある提案をしてくる。


「グルルルル、すまんがラーデから少しだけエルを連れてきてもいいか?」

「エル? あのダークエルフの? 何をする気だ?」


「残念だが私には農業という仕事がある。だから彼女にラーメンの作り方を広めてほしいのだ」

 

 なるほどね。たしかにノルの町で日本食を広めたのも彼女の料理の腕があってこそだ。

 幸いマハトンにはエルがプロデュース予定の飲食街が建設中のはずだ。

 そこは日本食が食べられる食堂が出来るはずだが、ラーメンを出す食堂があってもいいしな。


「よし、許可しよう」

「グルルルル! 感謝する! ではタケよ! 小麦の生産を始める! 手伝ってくれ!」


 ベルンドは急にやる気を出した。

 俺達は広大な農地の中で小麦を栽培している一画を訪れる。

 後ろには小麦を収穫するために、大勢の獣人達も控えていた。


 それじゃ友人のためだ。

 人肌脱いでやるか!


「タケオさん! 頑張ってください!」


 とかわいい恋人が応援してくれる。

 はは、アリアはラーメンが食べたいだけなんじゃないか? 

 まぁ別に構わないけどな!


 バンッ


 地面に両手を付ける!


 持てるオドを全て使い切るつもりで!


 発動! 時よ進め!


 ギュォォォォンッ


 俺は時間操作を発動する!


 すると青々とした小麦がすくすくと成長を始め、そして一瞬で頭を垂れるほどの穂をつける。

 それを見たベルンドは大声で指示を出す!


「行けー! 収穫だ!」

「「「おー!」」」


 バサッ バサッ バサッ バサッ


 皆一斉に鎌で麦を刈っていく。

 ふぅ、疲れた。魔力を大量に消費したんだ。

 少し休まないと。


 ガシッ


 俺に肩を貸してくれる者がいる。

 もちろんベルンドだ。


「タケよ、感謝する……」

「ははは、お前だけのためじゃないからな。すまんが少し休ませてもらうぞ……」


「分かっている。で、回復したらまた頼むぞ!」


 はぁ? これでかなりの量が採れるはずだぞ? 

 もういいんじゃないの?


 だがベルンドは許してくれなかった。

 俺は湧出で魔力回復温泉を湧かせ、回復したら時間操作で小麦の栽培を繰り返すことになる。

 これを全部で五回だ。めっちゃ疲れた……


「グルルルル、これぐらいで大丈夫だろう」

「そ、そうだな。たぶん三年分はあるんじゃないか?」


 久しぶりに全力で頑張ってしまった。

 だがこれで食料問題は解決だな。

 

 俺達自由連合の中でラーメンが新しい名産として知られる日も近いだろう。

 俺は温泉に浸かりながらそんなことを思っていた。

 

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