第114話 アシュートへ 其の三

 ダッダッダッダッ


 俺はドワーフの少女、チコを背負ってアシュートに向けて全力で走る!


「は、速すぎます! 恐いです!」

「すまん! このまま行く! アシュートはまだか!?」


「も、もうすぐです! うぅ、吐きそう……」


 ごめんな! アシュートに着いたら降ろしてやるから! 

 少しかわいそうなので癒しの気を流しておいた。

 酔い止めになるか分からんがね!


「もうだめ…… あれ? 少し気分が良くなったような…… タ、タケさん! あそこです!」


 チコが俺の背中から指を指す。

 その指が示す通り、松明の灯りがぽつぽつと見え始めた。

 かなり大きい町だな。

 あそこにソーンがいるのか。

 もちろん俺達の敵でもある魔女王軍も駐屯しているだろう。


 だが関係無い。

 全てを殺してでもソーンを見つけてみせる。

 

「と、止まってください! アシュートに入るには門を通らないと。でも門には兵士がいて、町に入る前に検査されるんです。どうしますか? このままじゃタケさんがいるってバレちゃいます……」


 衛兵がいるのか。アシュートは高い城壁に囲まれいる。

 ここを昇るのも一つの手だろう。だが脱出することを考えると衛兵は殺しておくべきだな。


 それと俺の存在がバレたらアシュートにいるドワーフは報復として殺されるかもしれない。

 避難する必要があるな。


「チコ、近くに身を隠せるような場所はあるか?」

「隠れる場所ですか? そうですね…… 鉱山は魔女王の見張りがいますけど、サルーの麓には廃坑があったはずです。そこなら少しは身を隠せるかもしれません……」


 あの山か。ここから割と近いな。だがそれは敵にとっても同じこと。

 入口を塞いでも数日持ちこたえられるかどうか分からない。

 なるべくならドワーフ達も助けてあげたい。


「そこに隠れるんだ。チコは俺がアシュートに入ってから皆に伝えてくれ。廃坑に隠れて大人しくしてるんだ」

「で、でも…… 魔女王軍に見つかったら……」


「その前にバクーを落とす。約束する。必ず助けにくるから。いいね?」

「はい……」


 うぅ、そんな子犬みたいな目で見つめないでくれ。

 約束するとは言ったが、ラーデからここまで二百キロ近くある。

 戦いながらここまで来るには時間がかかる。

 だが何もせずアシュートにいれば命の危険がある。

 そりゃ重要なソーンを奪われ、仲間を殺されたら必死になって犯人を捜すだろうからな。

 その際多くのドワーフが殺されることになるだろう。


 だが俺にはソーンをラーデに連れていく選択肢しか残っていない。

 覚悟を決めなきゃ。


「チコ、今言った通りだ。俺がアシュートに入ったら行動を起こしてくれ」

「…………」


 黙って頷いてくれた。

 頑張れよ。必ず助けにくるからな。


 チャキッ


 俺はハンドキャノンを構えながら、闇にまぎれて門に近付く。

 幸い門はまだ開いている。

 今しかないな。


 確認出来る兵士は四人。

 目測で三百メートル先か。

 当ってくれよ……


 ハンドキャノンを構え……

 兵士の頭を狙う……


 チキッ……


 パスッ パスッ パスッ パスッ パスッ パスッ パスッ パスッ


 ドサッ


 外れることを予想して一人に二発ずつ弾丸を撃ち込んだ。

 だが全ての弾は命中。

 ふぅ…… よかった。腕は鈍ってなかったな。

 FPSで鍛えておいてよかった。

 俺が好きなゲームは歴史シミュレーションだが、それなりに他のジャンルも遊んできた。

 中でもFPSはそこそこ得意で対人戦では常にキルレは二を下回ったことはない。

 よくファンメが届いたのはいい思い出だ。


 それじゃ行くか。

 ルネ、聞こえるか? 今からアシュートに入る。

 ソーンの居場所を教えてくれ。


(はいなのー。真っ直ぐすすむの。あ! ちょっと待ってなの!)


 とルネが俺を止める。どうし……!?


「あー、かったりぃな。これから夜勤だわ」

「そう言うな。これも仕事だろ? 終わったらドワーフでも抱きにいこうぜ」


 ザッザッザッザッ


 あ、危なかった…… 

 目の前を巡回の兵士が歩いていく。

 咄嗟に隠れることで見つかることは無かったが……


 俺も気功を発動しようか? 

 今俺は気を纏っていることで身体能力を向上させている。

 気を遠くに飛ばすことでレーダーのように使うことも出来るが、その際能力向上は解除しなければならない。


(パパ、大丈夫なの。私がパパの目になるの! 悪い人がいたら教えるの!)


 そうだな。ルネは今俺と経路を繋げている。

 俺の見ている風景をルネも見ているはずだ。

 さらにルネは人が持つ敵意、負の感情を読み取れる。

 俺より広い範囲で敵を察知出来るはずだ。


(そうなのー。もっと言って欲しいのー)


 ははは、ルネはすごいよ。

 それじゃ頼むぞ。このまま進んでいいか?


(駄目なの。左の建物を回って進むの。そしたら人はいないの)


 ルネの指示に従いアシュートの町を進む。

 町を歩いているのは兵士ばかりだ。

 本当にドワーフの町なのだろうかと疑ってしまうほどだ。


 きっと夜には不用意に出歩かないよう言われているのだろう。

 だがこれは好都合。

 目撃されるリスクは少しでも下げておきたい。


 そしてそのまま進んで行くと……


(パパ、あそこなの。あそこにソーンがいるの)


 だろうね。建物の前には大きな馬車が三台。

 馬車には大量の荷物が積まれている。

 ソーンが作る薬の材料だろうか?

 間に合ってよかったよ……


「まだ終わらんのか!? 近日中にここに潜入者が現れるのだぞ! さっさと終わらせんか!」

「隊長、お言葉ですがマルカからここまでかなり距離がありますよ。そこまで急がなくてもいいのでは?」

「分かっている! だがアイヒマン様の指示なのだ! お前も分かっているだろ? あの方の機嫌を損ねると、どうなるのかをな……」

「アイヒマン様の!? い、急ぎます! みんな! 早くするんだ!」


 兵士達の会話を聞いた。

 アイヒマンの指示かよ。

 でも奴等は言った。近日中ってな。

 やはり俺がここに来るのは知られていたか。

 さすがだな、リァン。でももう俺はここにいる。

 早く気付いてよかったよ。

 これで結果としてリァンの裏をかいたってことなんだから。


 ルネ、兵士は全部で何人いる?


(んーとね。十人いるのー)


 十人か。目視出来るのは四人。他は建物の中か、馬車の裏だ。

 俺が見つかりそうになったら教えてくれ!


(はいなの!)


 まずはハンドキャノンを撃ち込む!


 パスッ パスッ パスッ パスッ


 ドサッ


「ん? この音は……?」


 兵士が倒れた音に気付いたのか、確認しにくる。

 このままでは死体が見られてしまう。


 兵士が馬車の手前に来た時……


 フォンッ スパッ


「…………」


 悲鳴は出せないだろ。首を失ってしまったのだから。

 俺は棍に気を流している。こうすることで斬撃属性を付与出来るからな。

 音を出さずに殺すならこれが一番だ。


 スパッ ドサッ

 フォンッ ドサッ

 ザクッ ドサッ

 シュパッ ドサッ

 グサッ 


 俺の突きを顔面に喰らった兵士から棍を引き抜く。


 ドサッ


 ふぅ、これで十人。

 ルネ、他にはいないか?


(大丈夫なの! でもこっちに向かってくる人がいるの! パパ急ぐの!)


 分かった! ありがとな!


 俺はソーンがいるであろう建物に足を踏み入れる。

 

 ギィー……


 ドアを開け、最初に目に着いたのは大量の本だ。

 なになに?

 鉱物の種類をまとめた本。

 効果的な植物の煎じ方。

 賢者の石の作り方……


 なるほど、錬金術師らしい。

 ここで間違いないな。

 

 俺はソーンに会うため、更に奥に進む。

 そして突き当りのドアを開ける。


「行くのか…… た、たのむ。同胞の命は助け……?」


 ソーンだ。

 ルネのサイコメトリーで見た男が俺を不思議そうな顔で見つめていた。

 見つけたぞ。これでアリアは…… 

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