第62話 食料生産 其の一

 獣人の難民がやってきた翌日。

 俺とアリア、他回復魔法が使える千人程の竜人とエルフが怪我人を癒していく。

 幸いなことに死んだ者は数名。

 それも怪我ではなく、寿命を迎えた老いた獣人のみ。

 今のところ怪我で死にそうな者は全て救えたことになる。


癒しをディアルマ!」


 アリアが彼女の前に座る獣人に回復魔法をかける。

 すると肩に傷を負った犬獣人が……


「おぉ…… 動く! 腕が動くぞ! 痛て……」

「駄目ですよ! まだ傷は塞がってないんです! 嬉しいのは分かりますけど大人しくしててくださいね!」

「は、はい! ありがとうございました!」

「ふふ、それじゃまた明日来てくださいね。それじゃ次の人!」


 おー、頑張ってるな。

 今のアリアを見ると亡き妻であるララァを思い出す。

 ララァも傷付いた人達を癒してたんだよな。

 聖女なんて呼ばれてたこともある。

 アリアもそう呼ばれることになるかもな。


 でもアリアってサキュバスの血を継いでるんだよな。

 魔物の血を継いだ聖女か。ははは、そんな聖女がいてもいいかもしれない。


 そんなことを考えながら俺も怪我人を癒していく。


「よし、次の人ー」


 俺は次の怪我人を呼ぶと子連れの猫獣人がヨタヨタとこちらに歩いてくる。

 母親と娘だ。昨日俺が治した獣人だな。


「おじちゃん、昨日はありがと。ママ治ったよー」


 と言ってお礼だろうか、木の実を俺に渡してくる。

 母親は涙を流して俺に頭を下げた。


「命を救っていただきありがとうございました…… あなたがいなければ私はこの子達を置いて旅立っていたことでしょう…… うぅ……」

「泣かないでくれ。困ってる人がいたら助けるのが当たり前だろ? ほら治療するから傷を見せて」


 母親の肩に手を置いてオドを流す! 


 パアァッ


 ふぅ、本当だったら完全に治してあげたいところだが、MPを節約しないと。

 怪我人はまだいるからな。


 猫獣人達は俺に礼を言って下がっていく。

 子供達に食べさせてくれと木の実は母親に持たせておいた。



 そして夜になり、俺とアリアは皆が待つ天幕に向かう。


「んー! 疲れましたね!」

「そうだな。でもなんか元気そうに見えるけど?」


「ふふ、だっていいことをすると気持ちいいんですもん!」


 そういうことか。やはりアリアはララァに似ているのかもしれないな。

 俺はいつの間にかアリアにララァの面影を重ねていた。


 このまま星空の下を二人で歩いていたいのだが…… 

 ははは、そうはいかなそうだ。もう皆がいる天幕に着いてしまった。


 中に入ると、集まっているのはルネとベルンド、そしてテオだ。

 バカップルと虎獣人のフゥがいないな。

 彼らにはこれから植える種を持ってきてもらうようお願いしてある。

 時間のかかる作業だ。遅れても仕方ないか。


「先に始めてるか。俺から報告する。今日の治療で重傷者はいなくなった。これで怪我で死ぬ獣人はいなくなるだろ。だが全員完治とまではいかない。もう少し時間がかかるだろうな」

「グルルルル…… そうか。ならば次は私だ。今日の炊き出しで食料の全てを使い切った。だがテオ殿の持ってきてくれた食料がある。あれがあれば十日はもつだろう」


 よかった。間に合ったか。

 そのテオだがとても疲れた顔をしている。

 ここからダークエルフの里までかなり距離があると聞いた。

 かなり急いだのだろう。無理をさせて悪かったな。


「テオ、ありがとな」

「まったく人使いの荒い奴だ。里から備蓄のほとんどを持ってきたことで森に住む同胞が不安に思っている。食料生産だが…… 間に合うんだよな?」


 それについては問題無い。腹いっぱい食わせてやるさ。

 おや? 何故かテオが少し悪そうな笑顔を浮かべている。

 そして懐から小さな種が入った麻袋を俺に渡してきた。


「これは?」

 

 俺の質問にテオが小声で答える。


「ふふふ…… 俺とお前が大好きな物だ…… これも是非植えてくれ……」

 

 なるほど! 言わなくても分かる。これはタバコだ。

 むふふ、こっそり植えるとしよう。


「それなんですか?」


 とアリアが聞いてくる。

 ま、まぁいいじゃないの。俺は種を懐にしまう。

 アリアは何も言わないが、タバコの匂いは苦手なようだ。

 その内文句を言われるに決まってるからな。

 これは俺の秘密の楽しみにしよう。


 バサッ


 突然天幕に入ってくる者がいる。サシャ達だな。


「あー! 疲れた!」

「本当にね…… こんなに森を走り回ったのは初めてかもしれないよ……」


 サシャは文句を、そしてフリンは泣き言を言う。

 そして後ろに控えるのは大量の荷物を持った虎獣人のフゥがいる。


「ははは! 二人共情けないぞ! 私などまだ疲れてはおらん! 筋肉が足らんのだ、筋肉が! この筋肉を見よ!」


 グイィッ


 フゥは俺達に力こぶを見せつける。

 うわ、すごい筋肉だ。ナイスバルク。肩にちっちゃいジープ乗せてんのかい。


 そういえばフゥってかなり強そうだ。

 どんなステータスしてんのかな? 調べてみるか。



名前:フゥ

年齢:35

種族:獣人(虎)

HP:2589 MP:20 STR:1008 INT:3081

能力:火魔法1 水魔法1 風魔法1 土魔法1

ギフト:賢者エレメントマスター



 おまっ!? こいつもギフト持ちか!? 

 見た目からして完全に戦士タイプの能力を持っていると思った。

 それにしてもなんだこのステータスは?

 MPが低すぎる。これじゃ魔法をまともに使うことが出来ないだろう。


 普通だったら能力は一つしか持てないはずだが神の恩恵のおかげか、四大元素魔法の全てを使えるのか。

 弱いけど。これって完全に宝の持ち腐れだな。


「なぁフゥ。あんたの能力だが……」

「む? 気付いたか。そう、私は全ての元素魔法は使えるが魔法の才能が無くてな! しょうがないので体を鍛え、多くの書を読んだのだ! そのおかげかマルカで最も大きい傭兵団を設立することが出来たのだよ!」


 な、なるほど。努力でステータスを上げたのか。

 それにしても勿体ない。これで魔法の才能があったらこの世界でもトップクラスの強者になれただろうに。


 ふふ、だが面白い人材を見つけたな。HPも高いしSTRも中々だ。戦力としては申し分ない。

 それにこの異常に高いINTだが…… これを利用しない手は無いだろう。

 フゥに相応しい仕事が思い浮かんだが、それは後だ。


「それじゃ報告を頼む」

「うむ!」


 ドカッ


 フゥははちきれんばかりにふくらんだ麻袋をテーブルに。

 中を開けるとサシャとフリンが説明してくれた。


「タケに言われた通り種と苗を集めてきたよ。これは豆だね。緑色の綺麗な豆で茹でると美味しいんだ。こっちは葉野菜の苗。生で食べる方が美味いね。少し栽培に時間がかかるけど種芋も持ってきた」


 とサシャが説明してくれる。次はフリンだ。


「えーっと、これが種もみだね。米と麦だ。それとすごく珍しい物を見つけたんだ! これを見てよ!」


 と嬉しそうにフリンが取り出したものは…… 大根?


「これなに?」

「メルケさ!」


 と自信満々に言うのだが、知らんがな。

 嬉しそうなのはサシャとフリン、そしてテオだな。


「なにぃ!? メルケだと! フリン、サシャ! でかした!」

「でしょ!? そうだ! みんなに味を見てもらいましょ!」

「かなり貴重な野菜だぞ! だ、だがタケの力があればこれを栽培出来るのか…… よし! サシャ、準備してくれ!」


 すごい興奮してるな。サシャが採ってきたメルケという根菜は全部で五本ある。

 その内の一本を細かく切って俺達に渡す。どれどれ?


 シャクッ


 ん? 若干青臭い味だが……

 甘い。野菜の甘さとはとは別の甘さ。まるで砂糖のような……?

 分かった! これはテンサイだ! 砂糖大根とも言うな。


「わー! すごく甘い! こんな野菜があったんですね!」

「グルルルル…… もう一切れもらおう……」

「これは!? 筋肉が付きそうな味だ!」


 いや、筋肉はつかないだろ。

 しかしテンサイとはね。そういえばアリアから聞いたが、この世界の砂糖はかなり貴重らしい。

 バルルで竜人族の料理を食べたが甘い物といえば果物だった。

 砂糖があれば料理の幅も広がるしな。これは絶対に栽培せねばなるまい。


 これで栽培する穀物、野菜は揃った。後は植えるだけだ。


「では明日から俺は食料生産に向かう。仕事の割り振りを決めよう。ベルンドはそのまま炊き出し班。テオは回復魔法が使えるダークエルフを集めて怪我人の治療を頼む。 

 フリンとサシャは土魔法が使える者を集めておいてくれ。一日かかってもいい。それとフゥは動く元気がある獣人を焼けてしまった北の森の跡地に連れて来てくれ。食料生産と収穫を手伝ってもらうぞ」

「任せてくれ!」

「「「…………」」」


 ん? フゥは嬉しそうだが他のみんなが不満げだ。

 割り振りに問題があったか? 


「どうした? 何か問題でも?」

「……がいい……」


 とサシャが呟く。え? なんて?


「私も食料生産がいい! そっちの方が楽しそうなんだもん!」

「ぼ、僕もやりたい!」

「私もだ!」

「グルルルル!」


 うるさい! 与えられた仕事をこなさんかい! 子供かおまえら!?


「ふふ、みんな食べ物のことは私と先生に任せて下さいね。やったね! 先生の弟子で良かった!」


 とアリアが笑うのだが。


「え? アリアは治療班でしょ。水魔法が使えるし」

「……なの……」


 え? なんて!? サシャの時と同じ流れじゃないか。


「えーっと、アリア?」

「ついていきます」


「さっき獣人を助けられて嬉しいって……」

「言ってません」


「我がままを言わないでくれ……」

「先生の助手は私以外にあり得ません」


「お前なぁ……」

「一緒に行くの……」


 ガシッ


 アリアは俺の胸に顔を埋めてから俺の顔を見上げる。その目をすっごいウルウルさせてから……


「一緒に行くんだもん……」


 うん。みんなごめん。


「すまん。アリアも連れていく」

「「「ぶーーー!!」」」


 俺に向けたブーイングが飛んでくる。だって断れないだろ。


 という感じで割り振りが決まった。


 アリアは隠れスキルで魅了を持っているに違いない。

 やはりアリアはサキュバスだと再確認した。

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