第63話 食料生産 其の二

 俺とアリア、そしてフゥ率いる一万人を超える獣人は焼けてしまった北の森の跡地に向かう。

 これからそこを開墾して野菜を植えに行くのだ。


 それにしてもみんな大きい体をしている。戦士なのだろうか?


「よくこれだけ集まったな」

「ははは! そう思うか! 彼らは傭兵仲間でな。特に力が強い者に声をかけたのだ」

「傭兵だって?」


 フゥの話では獣人の国マルカは土地が痩せており食料はあまり育たないとのことだ。

 だが獣人は生まれつき体躯に恵まれている。

 その体を使って他国に赴き、自分の体を商品として働き外貨を得ていたそうだ。


 だが傭兵といっても戦争に加担するわけではなく、種族間における小競り合いに参加する程度でほとんど死人は出ていないとのことだ。

 傭兵というよりボディーガードといったところか。

 他にも力仕事が必要な場合も彼らが呼ばれるらしい。


 最近だとドワーフの国バクーでの需要が高く、鉱山の掘削作業に従事していたそうだ。


「へぇ、鉱山か。大変そうだな」

「まぁな。だが支払いがよくてな。好んでバクーに行く連中も多かったよ」


 なるほど。鉱山か。

 どのような鉱石が採れるのだろうか? 気になるところだ。

 俺達だって武器がいるからな。自国に資源となる鉱脈があればそれを加工して武器が作れる。


 ヴィジマにも山はあるのだ。というか山脈だな。

 バルルからヴィジマまで続いている大山脈だ。北の海岸線に位置している。


「あそこの山からは鉱石は採れないのか?」

「ナジャフ山脈か。あれはただの岩山だ。何も採れないよ。ただ無駄に高いだけさ。あの山脈は私の国マルカまで続いている。あれのおかげで北の海岸に行けないのだ。くそ、ナジャフ山脈がなければ海に出て資源を採れたのにな」


 たしかに高い山だ。六合目辺りから雪で白く染まっている。それがマルカまで…… 

 海には行けないが、安心出来たこともある。

 魔女王軍が海路を使って他国にここに攻め込むのは無理だろう。

 大軍勢を引き連れあの山を越えることは出来ないはずだ。


 だが南側にも海岸はある。あそこはどうなのだろう?


「南にも海岸はあるよな?」

「沖までは出られないがな。海岸付近で釣りをするのが精一杯だ。マルカからヴィジマの海域はサーペント、リヴァイアサンの巣だ。船で海に出たらあっという間に喰われてしまうよ」


 リヴァイアサン…… 大海蛇か。

 嬉しいニュースだ。少なくともヴィジマを攻めるには陸路を通るしかない。

 挟み撃ちになる危険が無いのは大きい。それは敵にも言えることだが。


「ナジャフ山脈ならコアニヴァニアにもありましたよ」


 とアリアが話に参加してくる。

 マジで? 確かこの世界は日本列島に似ていた。

 アリアの国コアニヴァニアは東北に当る位置にあったはず。

 ナジャフ山脈は西の海岸沿いだな。


「東の海は?」

「さすがにリヴァイアサンは出ませんでしたね。船も出てましたし、海のお魚も売ってました」


 そうか、コアニヴァニアでは海路を使った襲撃もあるかもしれない。注意しよう。



◇◆◇



 話しながら歩いていると、ようやく北の森の跡地に到着。

 改めて見ると…… 木が一本も無くなっている。黒く焦げた大地が広がるのみだ。


 俺は思わず手を合わせる。


「成仏しなよ……」

「我ら魔族の神よ…… 憐れな魂をお救い下さい……」


 アリアも手を組んで祈っていた。

 ここで死んでしまったエルフのみんな。すまない、俺達が生き残るためだ。

 ここを農地として使わせてもらうよ。


 祈りを終え、俺は獣人達に指示を出す。


「それじゃ開墾を始めてくれ! まだ地面には木の根が埋まっているはずだ! 全て取り除くつもりで鍬を振るってくれ!」

「作業開始だ! 同胞達よ! 進めー!」

「「「うおー!!」」」


 ザクッ ザクッ ザクッ


 ものすごい勢いで地面を耕し始める。すごい力だな。

 やはり地面の中には多くの木の根が埋まっていたが、彼らの力の前ではあまり意味は無いみたいだ。


「うわー、すごいですね。先生も手伝うんですか?」

「俺? 俺には別の仕事があるからな。そうだ、アリアも手伝ってくれ」

 

 俺はサシャにもらった葉野菜の苗と豆、種芋を取り出す。

 それを耕したばかりの地面に植えてっと。これでよし。


「アリアは地面に水を撒いてくれ」

「は、はい! 恵みをウオル!」


 アリアが水魔法を発動すると地面がしっとりとしてくる。

 こんなもんでいいだろ。それじゃ次は俺の番だ。


 とりあえず十日ほど時間を進めてみるか。


 目を閉じて時計をイメージする。


 イメージの中の時計の針が回っていく……


 そのイメージのまま、時間操作を発動!



 パアァッ



 地面が眩しく光る。

 そして植えたばかりの苗がニョキニョキ大きくなって、そして丸まっていく。

 この野菜は……


「キャベツだ!」

「キャベツ? エルムリーフですね。ふふ、私もこのお野菜大好きなんです!」


 エルムリーフか。覚えられそうにないのでキャベツと呼ぼう。

 本当だったらここで収穫して食べてみたいところだが、種を取らなくては。


 キャベツはそのまま成長を続け、花が咲き、そして枯れる。

 よし! ここで時間操作を解除!


「あーん…… 枯れちゃいました……」

「それでいいの。アリアは種を集めてくれ!」


 アリアは丁寧に種を取りだしていく。

 まずは数を増やしていかないといけないからな。


 それじゃ次だ。今度は豆に向かって時間操作を発動すると、芽吹いてきたのは……

 枝豆だ! これで大豆が作れる! 納豆や味噌が作れるぞ! 醤油だって!


「やった!」

「え!? ど、どうしたんですか!?」


 思わず声に出して喜んでしまった。


「この豆があれば味噌や醤油が作れるんだ!」

「本当ですか!? んふふ、嬉しいな。先生のお味噌汁ってすごく美味しかったです。もうお味噌無くなっちゃいましたしね」


 アリアにはよく日本食を作ってあげた。

 だが食材が切れてからは簡素な食事が続いていたんだ。

 肉を焼いてパンを齧る程度だ。料理とも呼べん。


 だがこれらがあれば食が豊かになるぞ。それに納豆だって作れるし。

 アリアは嫌いみたいだが。


 その後、ジャガイモによく似た芋にも時間操作を使って数を増やしていく。


 ふふ、もう笑顔が止められない。

 アリアも嬉しそうに種、豆、そして種芋を収穫していく。

 一時間も繰り返すとかなりの量が集まった。ふぅ、ちょっと休憩するか。


「んー! 疲れた! 少し休もうか!」

「先生、お疲れ様です。コーヒー飲みますか?」

「はは、それは嬉しいな。お願いしていいか?」

「はい!」


 獣人達はまだ作業中だが、少し休まないと。

 種は出来たが、今からそれらを植えて、さらに広範囲に渡って時間操作を発動しなければならない。

 大量のMPが必要になる。


 種を作るのにMPを消費してしまったからな。

 休んで回復しないと。そうだ、どれくらいのMPを使ったか調べてみるか。

 多分三割は減っていると思うのだが…… 

 自分に向け分析を発動! どれどれ?



名前:タケオ

年齢:???

HP:9999 MP:6851/9999 STR:9999 INT:9999

能力:杖術10  

ギフト:

時間操作:大年神の加護

空間転移:猿田彦の加護

多言語理解:思金神の加護

分析:久延毘古の加護

魔銃:吉備津彦の加護

気功:日本武の加護


New!

湧出:少彦名の加護



 うん、やっぱり三割は減ってる……?

 ん!? なんかステータスが変なことになってる!?

 それになんか一つ増えてる! これは一体……?

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