第52話 二人で…… 其の一

「構え…… 放て!」


 ヒュンッ


 フリンの指示を受け、エルフ達が弓を放つ。

 かなり距離があるのに、全て的の真ん中に命中。すごいな。


 ここはエルフ達のために用意した練兵場だ。

 百人を超えるエルフが一斉に弓を放つ姿は中々壮観だ。


「お見事。しっかり練習してるみたいだな」

「タケ! 見に来てくれたんだ! どうだい、みんなの腕は」

「いい腕だ。すまんな邪魔をして。そのまま続けてくれ」


 フリンは戻り、エルフ達は再び修練を開始する。

 みんな頑張ってくれよ。


 俺達が最初の軍議を行ってから今日で半月が経つ。

 フリンだけではなく、皆着々と戦う準備を進めている。

 だが、悲観的な顔をしている者は誰もいなかった。

 勝てる。その自信が表情に浮かんでいる。

 だからここ、南の森はいつも笑いに包まれていた。


(パパー。こっちに来て欲しいのー)


 ん? 経路を使ってルネが俺を呼ぶ。

 ルネ、今どこにいるんだ? 


(アリアと一緒におっきなテントの中なの。ベルンドが来てるのー)


 ベルンド? そうか! 

 ようやく竜人の援軍が来たか! 


 俺は急いで軍議のため使用している天幕に向かう。

 中に入ると……


「グルルルル…… 御子様、お久しぶりです…… うぅ、こんなに立派になって」

「キュー」


 ベルンドがルネの前で跪いて泣いている。

 まだ別れてから一月ちょっとだけだろ。変わってるとは思えん。


 だが遠路はるばるよく来てくれた。労ってやらないと。


「ベルンド、お前が来てくれたんだな。会えて嬉しいよ」

「この声は…… クンクン。お、お前はタケか!?」


 そういえば竜人は人の顔の区別がつかないんだったよな。

 俺の顔に鼻を近付けて匂いを嗅いでいた。それで判断するんだ。


「あぁ。それで疲れているところ悪いが、報告を聞きたい。顔合わせもしたいしな。時間あるか?」

「少しだけ待ってくれ。部下に休息を取らせてくる」

「そうか、じゃあその間俺はみんなを呼んでくるよ」


 俺達は共に天幕を出る。

 ふふ、これで全ての駒は揃ったな。


 三十分後、いつもの面子が天幕に集まる。

 エルフ達は見慣れない竜人がいるので少し戸惑っているけどな。

 それじゃ自己紹介も兼ねて軍議を始めるとしよう。


「ベルンド、頼む」

「あぁ。お初にお目にかかる。私は竜人族の代表として参ったベルンドと申す。此度は憎き魔女王軍と戦えることを嬉しく思う。タケよ、呼んでくれたこと感謝するぞ」

「え? わ、私アリアですけど……」


 ベルンドはアリアに向かって喋っているのだ。

 ははは、いつ見ても面白いな。


「むむ、相変わらず他種族の顔は見分けが付かん。では報告を始める。我ら援軍は一万、内訳は水竜族二千、飛竜族五百、そして竜人族が七千五百だ。その他、穀物を粉にした物など日持ちのする食料、予備の矢と槍を持ってきた」

「上出来だ。ちゃんと伝わってたみたいだな。ルネ、ありがとな」

「キュー」


 ルネの頭を撫でると嬉しそうに笑顔を返してくれる。

 ちょっと心配だったんだ。

 離れた竜人族と連絡を取るにはルネのギフト、経路パスを使う必要がある。

 だがルネはまだ一歳にもなってないから細かい指示が伝わってない可能性もあった。

 だが杞憂で終わったようだな。


「では最初に決めた通り、作戦決行は三日後。ベルンド、今の内にしっかり休んでおいてくれ」

「グルルルル…… 分かった。ふふふ、今から戦うのが楽しみだ。タケよ、我らはお前に出会ってから勝ち戦の快感を知ってしまったからな」


 それを聞いたテオは高笑いをする。


「ははは! そなたもか! 我らダークエルフも早く戦いたくてうずうずしているのだ! 異国の友よ。今日は楽しい酒が飲めそうだな!」


 と言ってベルンドの肩を叩く。

 ま、まぁ楽しむのはいいけど、ほどほどにな。

 どうやら二人は話が合ったようで、夜に宴会を開くことになった。

 まぁ士気を上げるためだ。俺も参加するかな。


 今回幹事はダークエルフがすることに。

 サシャはフリンを連れて、楽し気に準備に向かう。


「グルルルル…… では失礼する。テオ殿、また夜に会おう」

「あぁ! 楽しんでくれよ!」


 二人も天幕を出ていった。

 少し疑問に感じる。アリアの話だとこの世界では種族同士仲が良くないと聞いたことがある。

 だがテオとベルンドを見るとすぐに打ち解けていた。


「なぁアリア。なんで二人は仲良くなれたんだろうな?」

「ふふ、先生でも分からないことがあるんですね。でも私は知ってますよ」


 いたずらっぽくアリアは笑う。

 知ってるのか。是非聞かせてもらいたいな。


「んふふ。後で言いますね。それじゃ先生、戻りましょ」


 と言って先に天幕を出ていってしまった。

 他種族が仲良くなれる秘訣か。一体何なんだろうな。

 まぁ後で教えてくれるって言ってたしな。

 さて一度戻ってから飲み会の準備をするか。



◇◆◇



 夜になり、森のあちこちから笑い声が聞こえくる。

 早速宴会を始めたか。俺も楽な格好に着替え、外に出る。

 するといきなり声をかけてくる者がいる。その声の主は……


「タケさーん、一緒に飲みましょー」

「うふふ、ご一緒させてください……」

「タマゴヤキ作ってきましたー! 食べさせてあげますねー!」


 ダークエルフのエル、リリン、ルージュだ。

 みんな扇情的なドレスを着ている。

 胸元はざっくり開いており、スリットからは太ももがチラチラと。

 みんなかわいいんだが、実はちょっと苦手なんだよな。

 こうもグイグイ来られると、どうも引いてしまう。

 っていうか、俺のどこがいいんだ?

 見た目は普通のおっさんにしか見えないと思うのだが。


「さ、誘ってくれたのは嬉しいんだが、テオとベルンドと飲む約束をしててな」

「あ、それなら大丈夫です。テオ様とベルンドさんならもう酔いつぶれて寝てますから。実はあの二人は先に飲んでたみたいですよ」


 あいつら……

 部下が宴会が始まるまで我慢してただろうに。

 悪い奴等だ。後でお仕置きだな。


「んふふー。それじゃタケさんを連行しまーす」


 ムギュッ


 エルが俺の右腕を。


「ふふ、タケさん赤くなってますよ」


 ムギュッ


 リリンが左腕を。


「あー、照れてる! かわいいー!」


 ムギュッ


 ルージュが俺の背に胸を押し当てる。

 なんでそんな積極的なんだよ! 


 俺に有無を言わせぬよう、強引にエル達に連れていかれる。

 どこにいくんだろうか? 

 ん? 道中俺達に向かってひそひそ話す声が聞こえる。


「おい見ろよ…… タケがおっぱい三連星を連れてるぞ」

「うぅ…… 羨ましい」

「リリンさん…… 憧れの人だったのに……」

「ハーレムじゃん……」


 うぅ、ダークエルフ男子のやっかみの視線が痛い。

 それにしてもおっぱい三連星って…… 

 どこの世界でもおっぱいが大きい方がモテるのかな? 

 ふふ、甘いな。ダークエルフ男子共よ。

 おっぱいに貴賤無し。小さいなら小さいでその良さがあるのだ。

 俺は決してロリコンじゃないけどね。


 くだらないことを考えつつ進んで行くと、次第と静かになっていく。

 おいおい、どこに連れてくんだ? 

 まさかこのまま襲われるなんてないよな?


 心配を余所に連れてこられたのは小高い丘だった。

 南の森が見渡せるな。

 丘の上には何故か敷布が敷いてあって、その上に酒瓶と摘まめる物が置いてある。


 パッ


 突然エル達が俺の腕を離す。ここで飲むのか?


「うふふ、大丈夫ですよ。食べたりなんかしませんから。ここでちょっと待っててくださいね。それじゃみんな帰りましょ!」


「うん! タケさん、楽しんでね!」


 え? 帰っちゃうの!? 

 安心と同時にガッカリも去来する。

 これから誰か来るのか? 

 まさか一人で飲めなんて言わないよな?


「まったく何考えてんだよ……」


 俺はしょうがなく敷布の上に座る。

 下を見ると森の中から焚き火の灯りが。

 みんな楽しんでるかな? 


 ペキッ


 おや? 森の中から物音が。

 誰か丘に向かってくる。

 藪を掻き分け現れたのは……


「せ、先生? どうしてここに? きゃあ! み、見ないで!」


 アリアがそこにいた。

 恥ずかしそうに胸元を押えしゃがみこんでしまう。

 いつもとは違う。

 エル達が着ていたような胸元を強調したドレスを着ている。

 髪はいつもは下ろしているのだが、今日はオシャレにまとめあげていた。


 これは一体どういうことなのだろう? 


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