第53話 二人で…… 其の二
「せ、先生? どうしてここに? きゃあ! み、見ないで!」
突然藪の中から出てきたアリアは胸元を押えてしゃがみ込む。
胸元を強調するような扇情的なドレスだ。恥ずかしいんだろう。
って、なんでアリアがここにいるんだ!?
俺はダークエルフの三人娘に捕まって、小高い丘の上に連れてこられた。
で、そこには誰もいなくて、敷布の上に酒瓶とおつまみが置いてあったわけだ。
ここで飲むのか?
と思ったのだが女の子達は俺を置いて森の中に消えていった。
そしたらアリアが来たってわけだ。
「アリアこそどうしてここにいるんだ?」
「私はエルさん達からお誘いを受けたんです。景色がいいところで飲もうって……」
「その服は?」
「こ、これは少し前に渡されたんです。せっかくだからオシャレしてきてって。私、女の子しかいないって聞いてたから、恥ずかしかったけど着てみたんです……」
うん、なるほど。これは……
「「はめられた……」」
エル達はサシャの友達だ。
俺達の関係を知っているのだろう。
つまり彼女らは俺とアリアを強引にでもくっつけようとしているのだ。
これはどうしたものか。
アリアの俺への気持ちは知っているのだが、俺自身は……
いや、自分に嘘をつくのは止めよう。俺はアリアのことが好きだ。
これだけ一緒にいれば情は湧くし、なにより好みのタイプでもある。
そんな可愛い子が俺のことを好きでいてくれる。
こんなに嬉しいことは無い。
だが俺の中で迷いを捨てきれていないことがある。
それは過去に犯してしまった過ちだ。
俺にはララァという妻がいた。
異世界人だけどな。
ララァは俺と結婚したことで不老長寿になってしまった。
望まぬ生を与えられたことでララァの心は壊れてしまう。
そしてララァは……
アリアにもララァと同じ想いをさせるのか?
アリアはララァが幸せだったと言ってくれたが、俺はまだ踏ん切りがつかないのだ。
どうする?
ここにいると危険だ。俺自身何を言いだすか分からん。
このままみんなのところに戻るか?
「アリ……」「先生……」
言葉が被る。
なんか変な空気になった。
「ど、どうぞ……」「せ、先生から言ってください……」
アリアは胸元を押えつつ、上目遣いで俺を見上げる。
うわ、今日は一段とかわいいな……
危険だ。このままでは理性が吹っ飛び間違いを犯すかもしれん。
俺の想いを伝えるのはもっと後だ。
せめて魔女王を倒してから……
そう思っていたのだが、俺はカウンターを喰らうことになる。
「よ、よかったら一緒に飲みましぇんか!?」
「え!? べべべ、べつにいいけど!? 飲んであげなくもないんだからね!?」
アリアは言葉を噛み、俺は何故かツンデレっぽくそれに応える。
自分でもびっくりしてしまう程焦ってるな。
「…………」
「…………」
微妙な空気のまま、敷布の上に移動する。
アリアは胸元を気にしつつも俺にワインを汲んでくれた。
「ど、どうぞ……」
「ありがと……」
なんだか落ち着かないな。
少し酒でも飲んで気を静めるか。
酔い方は人それぞれだ。
明るくなる者、笑い転げる者、他人に絡む者。
だが俺はそのいずれでもなく、俺は黙ってしまうんだよな。
俺と飲むのがつまらないと会社の同僚に言われたことがある。
アリアも飲むかな? ワインに口をつけたままアリアに視線を向けると……!?
チラッ
「ぶはぁっ!?」
「え!? せ、先生大丈夫ですか!?」
げぼっ! げほぉっ! き、気管に入った!
アリアは心配そうに俺の背を擦る。
ど、どうしよう。見えてしまったのだ。
ドレスの隙間からピンク色のかわいいサクランボが。
どうやらこのドレスはアリアには少し大きいようだ。
心配そうに俺の顔を覗き見るが、俺は視線を合わせられない。
だって、まだ見えてるんだもの。
アリアの裸は見た事がある。初めて出会った時のことだ。
気を失い、傷付いたアリアを治療するために服を脱がせたんだ。
その時は治療を優先していたのでやましい気持ちで見てはいなかった。
だが今は俺の気持ちも変化し、アリアのことが好きになってしまっている。
見てしまったことに対して申し訳ない気持ち以上に見たいという気持ちのほうが強い。
だ、駄目だ! 気持ちをしっかり持て!
俺は男である前にアリアの師匠なんだ!
「はひゅー、はひゅー。も、もう大丈夫だ。驚かせてすまん」
「はひゅーって…… 明らかに駄目な息の仕方ですけど!? ほんと大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。そうだ! アリアも飲むか?」
「は、はい。ちょっとだけ……」
俺はアリアの胸元を見ないようにコップにワインを注ぐ。
たしか苦手って言ってたな。半分くらいにしておくか。
「これぐらいな……」
「はい、ありがとうございます!」
アリアは嬉しそうに笑いワインに口をつけ……
ぐぃーっ
あれ? 一気なの? 一瞬でワインは無くなってしまった。
不思議に思っているのは俺だけじゃない。
飲んだアリアも不思議な顔をしてる。
「あ、あれ? このワイン美味しい…… 私お酒って苦手なのに。それになんか舌がピリピリしますね」
「ん? そういえば……」
俺はワインを焚き火のそばでコップに注いでみる。
すると……
シュワシュワッ
なるほど。これなら飲みやすいだろうな。
発泡している。しかも割りと甘口だ。
これなら酒が苦手なアリアでも飲めるだろうな。
「もう一杯いる?」
「はい! いただきます!」
酒を酌み交わしていくと、次第に緊張感が薄れてくる。
俺達はワインを飲んで、摘まみを食べて、そしてお互いのくだらない話をして時を過ごす。
ワインの瓶が空になる頃、アリアに変化が出てきた。
酔ってきたんだな。俺の肩に寄り添ってくる。
「んふふ。なんだか気持ちいいです。そうだ! 私このドレス似合ってますか!? うふふー、見て見てー」
アリアは立ち上がって俺の前でクルクル回る。
綺麗だな…… 俺は純粋にそう思ってしまった。
アリアは胸が小さいことを気にしているが、それはこの世界の基準で比べているのだろう。
サイズは地球でいうBぐらいで貧乳というより美乳といったほうがしっくりくる。
って、おいおい。俺は何を考えてるんだ?
俺も酔ってきたのかもな。酒に? それともアリアにか?
そうだ、アリアはサキュバスの血を引いている。
本人は自覚は無いだろうが、男を魅了する才能に長けているのかもしれないな。
ふふ、自分に自信が持てないサキュバスか。
アリアになら魅了されてもいいかな……
「ふふ、かわいいドレスでしょ? って、わわっ!」
酔ってるんだろうな。アリアはバランスを崩した。
転びそうになったので咄嗟に支えようとしたが……
ドスンッ
「うわ!」「ふぎゃ!?」
押さえきれなかった。俺はアリアを抱いたまま、仰向けに地面に倒れる。
いてて。アリアは大丈夫かな?
「アリア、怪我はな……」「ん……」
チュッ
言葉を遮られた。
キスをされた。
唇を重ねるだけの軽い口付けではない。
ゆっくりと、慣れない様子でアリアの舌が入ってくる。
アリアの舌が物欲しそうに俺の舌に絡まってくる……
「ん…… アリア、これ以上は駄目だ」
「先生…… 大好き……」
そう言ってアリアは目を閉じる。
ゆっくりとアリアの顔が近付いてきた。
アリア、止めてくれ!
…………
……………………
…………………………………………
あれ? いつまでたっても二回目のキスが始まらない。
ど、どうしたのかな?
「ぐぅ……」
「…………」
アリアは動かなくなった。
その代わり聞こえてくるのはアリアの寝息。
あ、危なかった…… もう少しで理性がぶっ飛ぶところだった。
「どうするかな……」
ここから眠るアリアを担いでテントに戻るのも一苦労だ。
俺はアリアを敷布の上に寝かせる。
「すー…… すー……」
俺は眠るアリアの髪を撫でる。
すると寝ているはずなのに……
「んふふ…… タケオさん大好き……」
そう言って微笑んだ。
アリア、今はまだ言葉に出来ない。
でもな、戦いが終わったらちゃんと気持ちを伝えるよ。
それまで待っててな。
◇◆◇
翌日、目を覚ますとアリアが不思議そうな顔で辺りを見ている。
「あ、あれ? 私どうしてここに? それにこの格好って…… キャー! 先生見ないでー!」
覚えてないんかい。まぁこれは俺の思い出として取っておこう。
俺は恥ずかしがるアリアを連れてダークエルフがいる森に向かう。
道中イタズラ三人娘がいたのでお尻を叩いておいた。なぜか喜ばれたが。
宴会が終わった翌日から森の空気が変わる。
みんなの覚悟が伝わってくる。
そして当初の計画通り三日が経つ。つまり……
ヴィジマでの最終決戦が始まるのだ。
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