第37話 心中の理由 其の二
ヴィジマで出会った初めてのエルフ、フリンとサシャ。
彼らは恋人同士であると同時に敵同士でもあるようだ。
戦場で花開いた恋。
これが彼らが命を絶とうとした原因なんだろうか?
「なぁ、エルフ達が戦争をしていることと、君達が死のうとしていたこと。何か関係があるよな? 話してくれないか?」
俺の問いに今度はダークエルフのサシャが答えてくれた。
「はぁ…… 分かったわ。あなたの言う通り私達は敵同士よ。そしてフリンは北の森で一番の戦士。私も南の森で一番の使い手よ」
「やはりか。でもどうして二人が一緒にいるんだ? 下衆の勘繰りじゃないが恋人同士なんだろ?」
「ふふ、分かっちゃうわよね。私は将軍の娘でね、昔から父さんに鍛えてもらった。これでも剣の腕は一流のつもりよ」
だろうな。サシャが起きた時の殺気は凄まじいものだった。
恐らくステータスは俺の方が上だろうが、剣を使っての戦いならサシャに勝てないだろう。
そうだ、サシャには悪いが調べさせてもらおう。
オドを目に送り分析を発動……
名前:サシャ
年齢:95
種族:ダークエルフ
HP:1543 MP:425 STR:1201 INT:511
能力:剣術7
ギフト:
ほう、やはり能力に剣術が。かなり強いな。
ステータスも一流の戦士といったところ……?
あれ? サシャってギフト持ちじゃん。
魔法無効化か。
これがサシャが一番の使い手と言われる理由だろう。
魔術師相手なら無敵だし。
それに武術スキルも高い。
戦士であれば喉から手が出るくらいのベストな組み合わせの一つだろう。
「でね、私は父さん、仲間と一緒に北のエルフの討伐に向かったの。でもね、そこでフリンで出会ったの。初めて彼と出会った時、私は死を覚悟した。それほどフリンは強かったの」
「ははは、それは僕も一緒さ。自慢の能力が使えない相手にどうやって勝つことが出来る? 逃げながら戦うので精一杯だったよ」
ほう? フリンは優男に見えるが、それほど強いのか。
ちょっと分析してみよ。
名前:フリン
年齢:70
種族:エルフ
HP:892 MP:1725 STR:256 INT:1856
能力:魔導弓8
ギフト:貫通
フリンもギフト持ちかよ!?
しかも貫通ってかなり稀少なスキルだぞ。
貫通を持っていればレジストされることなく相手にダメージを与えることが出来る。
魔導弓は魔法属性の攻撃だろうが、サシャの魔法無効化を以てしても無傷とはいかないだろう。
「私達は激しく戦ったわ。でも必死過ぎたのね。いつの間にか仲間とはぐれちゃったの。気が付いたらフリンと私の二人だけになってた」
「で、決着がつかなくてお互い退くことにしたのさ」
その後も彼らは何度も戦場で出会い、命のやり取りを繰り返してきた。
結局決着はつかないまま時は流れていく。
そして幾度目かの戦いの後、決着がつかないまま二人は別れる。
◇◆◇
『はぁはぁ…… ふん、今回も勝負が着かなかったわね』
『あぁ、そうだね。そうだ、僕はフリンという。君は?』
『なんですって? 殺す相手に名乗る名前なんて無いわよ』
『ははは、違いない。なら次に会ったら教えてくれ。それじゃ』
◇◆◇
「ふふ、懐かしいわ。最初はおかしな奴だと思ったけどね」
「でもそこからは早かったね。次会った時も決着がつかなくってサシャの名前を教えてもらった」
あれ? こいつらなんだかノロケ始めたぞ。
サシャとフリンはお互いの手を握りながら、そしてアリアは頬を染めながら話に聞き入っている。
そんなに興味あるの? 俺はむず痒くなってきたぞ。
正直、人の恋の話なんか興味も無い。
普段ならその手の話は飲み会でやってくれと退散するのだが、今は彼等の話にヒントがあるはず。
我慢して聞くとしよう。
「それからかな。いつの間にかフリンに会うのが楽しみになってきてね」
「僕らは戦うふりをして、仲間から見えないところで会うようになっていった」
なるほど。隠れて逢い引きしてたってことか。
敵同士なのにねぇ。まるでロミオとジュリエットだ。
だがここで二人が死を選ぶ理由ってなんだ?
理由を聞くとするか。
最初に口を開いたのはサシャだった。
涙目で語り出す。
「魔女王よ。全部あいつらのせい。奴等は森を焼き、住む場所を奪われた。今残ってる森は以前の半分に過ぎないわ。私達は許せなかった。でもね、これはチャンスかもしれないとも思ったの」
「チャンス?」
「えぇ。エルフとダークエルフが和解するチャンスよ。一緒に戦えばもしかしたら魔女王達に立ち向かえるかもしれないでしょ?」
「僕もサシャと同じ気持ちだった。僕達が一緒になるためにも共に戦うべきだと長に言ったんだけど……」
二人の表情が暗くなる。
なるほどね、トップに共闘の提案を断られたってとこか。
「長は魔女王に戦いを挑む気だ。どうせこのまま戦えば全滅するだけなのに……」
「分かったよ。でもさ、死ぬことはないんじゃないか? 二人なら逃げることも出来るだろ?」
敵が強大なのは分かる。
大局を無視する仲間に失望する気持ちも分かる。
なら逃げればいいのに。
どうも二人が死を選ぶことと繋がらない気がしてな。
「ふふ、それも考えたわ。でもね、私達は森の民よ。ここが私達の国だもの。見捨てるなんて出来なかった。でもこのまま戦ってても死ぬだけ。なら死ぬ時くらい好きな人と一緒にいたいじゃない……」
「サシャ……」
そう言って二人はますます自分達の世界に入っていく。
イチャイチャする二人は少し放っておこう。
少し一人で考える。
この国で魔女王軍に勝つにはエルフ、ダークエルフの両方の協力が必要だ。
だが両種族は仲が悪く、話し合いで解決することは出来ないかもしれない。
仲の悪い者に手を組ませる方法は二つ。
一つは簡単だが人道的にあまり使いたくない手だ。
ならあの手を使えるかもしれないな。
まずはアリアに話しておくか。
夢中になって二人の話を聞いていたアリアの手を取る。
「少し向こうで話そうか」
「え? も、もしかして…… 分かりました。私も勇気を出さないと…… 覚悟は出来てます! って、あいた!?」
なんか違う想像をしていたのでチョップしておいた。
フリンとサシャから聞こえないくらいの距離を取る。
「いたーい…… ど、どうしたんですか?」
「あの二人だが、どう思う?」
「もちろん助けたいです! だってこのままじゃ二人は一緒になれませんよ! そんなの悲し過ぎます……」
「目的が違うだろ。俺達は魔女王を倒すために戦ってるんじゃないのか?」
「うぐ……!? 分かってます…… でも身近な人すら助けられない人が世界を救えるとも思えません!」
ははは、分かってるじゃないか。
ならばこれからどう動くかを決めることが出来る。
少し時間がかかるが、平和的に両種族の協力を得られるだろう。
俺はこれから何をするのかアリアに話すことにした。
「俺も二人を助ける。だが二人の恋を利用させてもらう」
「利用? ど、どうするんですか?」
「兵法三十六計、混戦計の一つ、混水摸魚。それと併戦計の反客為主だ」
「何ですかそれ?」
分かるはずもないか。
俺はアリアにこれから何をするのか話す。
すると目を丸くしてたな。
だが最後には少し悪そうな笑みを浮かべていた。
「ふふ、先生も悪い人ですね」
「それは賛成ってことでいいな? それじゃ二人のところに戻ろう!」
この作戦が成功すれば俺達は勝てるだろう。
きっと上手くいくはずだ。
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