第22話 作戦会議 其の二

「あのな…… 不利なら不利なりの戦い方があるんだよ。逃げて体制を整える。それから作戦を考えるんだ。いいか。今から俺達が勝つ方法を教えてやる。まずやることは…… 食料集めだ」

「「「食料!?」」」


 そう、食料集めだ。これが勝利の鍵となる。

 だが長老連中は不満そうに俺を睨む。

 まぁ気持ちは分からんでもないが。


「俺のこと疑ってるだろ?」

「もちろんだ。お前は勝つ方法を教えると言った。だが食料集めだと? 竜人の里には一年食い繋げる備蓄はある。そんなことに費やしてる時間は……」


 あるんだな、これが。

 むしろこれが一番重要と言っても過言ではない。


「聞いてくれ。恐らく二週間後魔女王の軍勢はここに到着する」


 トンッ


 俺は地図に上に置いた人族に見立てた人形を沼と沼の間の街道に配置する。

 重い甲冑を着こんでいては沼を渡れないし、物資も運べない。

 それに沼はかなり大きい。

 回り道するには効率が悪すぎる。


「敵は馬鹿じゃない。道が一つしかないのであれば、そこで待ち伏せがあると思うだろう。だが魔女王の軍勢は俺達より数が多い。圧倒的な物量で俺達に攻めかかる。そうなっては、あんたらはひとたまりもない」

「貴様舐めてるのか!? それが分かっていながらのんきに食料集めだと!?」


 長老様達の興奮は収まることが無い。

 しょうがない。作戦を教えてやるかな。


「調虎離山と釜底抽薪だ」

「な、なんだそれは? 何を言っているのだ?」


 調虎離山。

 兵法三十六計、攻戦計の一つだ。

 要は自分達に有利な地形で戦えってことだ。

 俺は水竜族の長老、ウルキに質問する。


「なぁウルキさん。あんたらの能力に高速泳法ってのがあるだろ? 沼の中でも泳げるか?」

「ふん、膝下までの水位があれば問題無い。飛ぶように泳ぐことが出来るぞ」


 さすがワニだ。水の中ではめっぽう強いんだろう。


「水竜族は直接戦闘には参加しない。沼から奇襲をしかけてくれ」

「そうか! 正面と両側面から挟み撃ちにするのだな!?」


 ちょっと違う。

 たしかに奇襲は有効な作戦の一つだ。

 だがやって欲しいのはそれではない。


「一撃かましたらすぐに逃げてくれ。そして敵の注意が再び正面に向いたら再び奇襲をしかける」

「だ、だがそれでは敵を全滅させることなど……」


 ほらこれだ。

 そもそも彼らは勝利の定義を間違えている。


「ちょっとみんなに質問だ。俺達の勝利ってなんだ? 敵を全て殺すことか? そのまま戦線を押し上げて魔女王の国に攻め込むか? 魔女王を殺せば俺達の勝利か? 違うだろ。俺達の勝利は生き残ること、そして魔女王の軍勢をこの国から追い出すことだ。それ以上は考える必要は無い」

「…………」


 どうだ? 目から鱗だろ。

 まぁこいつらは全身鱗だらけの竜人だけどな。


 そして釜底抽薪だ。

 兵法三十六計、混戦計の一つ。

 これは簡単に言うと敵の兵站を壊滅しろってことだ。

 参考として俺は長老達にとある話をする。


「俺の世界にもな、似たような戦いがあったんだよ。敵の数はまともに戦える数じゃない。しかも相手は潤沢な兵糧を抱えていて持久戦に持ち込んだ。だがそこに勝機はあったのさ。兵糧基地を襲撃し、食うに困った敵はこれ以上戦えないと逃げ出した」


 曹操と袁紹がぶつかった官渡の戦いだな。

 こうして数の劣る曹操は大戦力を有していた袁紹に勝つことが出来たわけだ。

 だがそれだけじゃないぞ。


「奇襲に乗じて補給線を絶つ。それはウルキ長老、水竜族の役目だ。街道での奇襲が終わったら水源を使って北上してくれ。その際敵に見つかってはならない。完全隠密行動で頼む」

「ふふ、ならこれだな」


 ズズゥ


 ウルキの体の色が変わっていく。

 ワニよろしく全体に緑色だった鱗が床材と同じ茶色に…… 

 すごい! カメレオンかよ! 

 奇襲にはもってこいだな。

 っていうか、こんなすごい特性があるならもっと優位に戦えただろうよ…… 

 まぁ完全ステルスってわけにはいかんから油断は禁物だな。


「我らは何をするのだ?」


 今度はトカゲ型の竜人であるシバの番だな。


「一番危険な仕事だ。前線に出て魔女王の軍勢を食い止める。無傷ではすまない。やれるか?」


 怪我どころか確実に死者が出るだろう。

 引き受けてくれるかどうか……


「やろう。この命に代えても魔女王達は里に入れさせん」

「死ぬ必要は無いんだけどな。ま、まぁ無理はしないように。それに敵が来るまで時間がある。戦場になる沼地近辺の喰える物は全て採ってきてくれ」


 シバ達、トカゲ型の竜人達が一番の戦力だろう。

 ステータスはワニ型に劣るが魔法を使える者がいるのがでかい。

 近距離と遠距離、両方こなせるだけで作戦の幅が広がるからな。


「すまん…… 我らは役に立てそうにないな……」


 と、申し訳なさそうに飛竜族のロロは言う。

 ステータスが低く、魔法も使えない。

 戦闘には向いていないだろう。

 だがな、この戦いにおいて一番重要なのは彼らだ。


「ロロさん、あんたらには最も重要な役目がある。敵に見つからない高度から偵察を頼む。敵の配置、補給線の数、兵站の位置。見たもの全て教えてくれ。全ては飛竜族の働きにかかっている。頼めるか?」

「そ、そうなのか? 我らも役に立てるのか……」

 

 ロロは安心したみたいだ。

 戦争という非常事態に何も出来ない自分達の存在が歯がゆかったのだろう。

 だが戦いにおいて一番重要なのは情報だ。

 その情報を仕入れるのに彼ら以上の適任はいない。


「以上だ。敵の動きによって多少作戦は変わるが、奇襲と兵站の破壊。これを成し遂げれば俺達は確実に勝てる。何か質問はあるか?」

「…………」「…………」「…………」


 どうやら無いみたいだな。


「それじゃ魔女王の軍勢が近付いてくるまで食料の確保を頼む。木の実一つ奴等にくれてやるなよ。それと逐一報告頼む」

「わ、分かった…… しかしお前は本当に何者なのだ? 勝てる気がしてきたぞ……」


「ははは、しがない歴史好きの転移者さ。それじゃ俺は休ませてもらうよ」


 俺は長老達に背を向け、小屋を出る。

 さて客室に戻って一眠りするかな。

 だが客間に戻ると……


「キュー」「お、おかえりなさい!」


 ルネがアリアに抱かれて待っていた。

 なぜかベルンドも中にいる。


「どうしたんだ?」

「いやな、御子様が泣き止まなくて困っていたのだ。お前達が恋しいのだと思ってな」


「そうだったのか。ありがとな。でもなんで分かった? 経路パスか?」

「違う。御子様はまだ幼い。ギフトの力を使いこなせていないようだな。だが強い負の感情を感じると、一時的に経路が繋がるようだ」


 それでベルンド達はルネの心の声が聞こえたのか。

 以前ルネと話せるのは俺だけってことだな。


「お前なら御子様を預けても大丈夫だろう。世話係には私から言っておく」

「そうか。ルネも嬉しそうだしな。このまま一緒に休ませてもらうわ」


 ベルンドはルネに一礼して部屋を出ていく。

 ルネは満足そうに俺の膝に座って、後頭部を俺の胸にクリクリ押し付けてくる。

 かわいかったのでつむじにキスをしておいた。


「…………」


 な、なんかアリアが羨ましそうに見てる。

 駄目だぞアリア。お前にはしてやれんぞ。

 少し話題を変えようかな……


「ご、ごほん。何とか竜人達を協力関係を結ぶことが出来たよ。あと数週間で戦いが始まる」

「本当ですか!? 戦いですか…… 私も連れてってくれますよね?」


 もちろんだ。

 アリアと俺にしか出来ないことがあるからな。

 今の内に伝えておくか。



◇◆◇



「はぁー…… す、すごい作戦ですね」

「そうか? でも割と単純な作戦だと思うんだけどな」


 兵糧を狙うなんて戦の基本戦術だろ。

 腹が減っては何とやらだ。


「で、でも今の話だと、本隊の兵糧を叩くのは誰なんですか? 奇襲で相手は混乱するでしょうけど、敵の本隊の中の兵糧庫を襲うんですよね?」

「ん? それは俺とアリアに決まってるじゃん」

「…………」


 アリアが黙るのだが。

 別に変なことを言ってるつもりは無いぞ。

 まぁ後で説明してやるか。

 さて今日は疲れたので、さっさと寝るかな。


「ルネ、一緒に寝ようか」「キュー」

「ちょっと先生! 一体どういうことですか!? って、私も一緒に寝たいなぁ……」


 俺はルネを抱いて眠る。

 こっそりアリアが俺のベッドに入ってきたが今日は特別だぞ。

 さぁ明日から忙しくなる…… おやすみ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る