第21話 作戦会議 其の一

 竜人の里に着き、俺は籠牢に入れられたまま長老に交渉を続ける。


「あんたらが協力してくれたら一月で魔女王をバルルから撤退させることが出来る」

「…………」


 落ち着かせるためっていうか、黙らせるために大量のオドを放出したんだ。

 ほとんどの者が腰を抜かしている。

 ワニタイプの長老が兵士に肩を貸してもらい立ち上がる。


「お、お前は一体何者なのだ? 死を恐れぬ我らがここまで気圧されるとは……」

「何者と言われたら、あんたらを助けに来たってだけだ。なぁ俺をこのままにしておくのか? 狭くって話も出来ん」


 俺は籠牢に入れられたままだ。

 逃げ出そうと思えば出来るのだが、こいつらの手で外に出してもらいたい。


「出せ……」

「はっ!」


 ガチャッ


 籠が開けられる。

 ふぅ、座りっぱなしだったから尻が痛くなってしまった。

 それじゃ話をする前にっと。


「すまんが少しだけ休ませてくれないか? あんたらも今のままじゃ落ち着いて話が出来ないだろ?」


 俺の提案に飛竜の長老が応える。


「客室を用意しろ。お前、こいつらを案内してやれ。それでは各自持ち場に戻れ!」


 竜人達はヨロヨロと立ち上がり、この場を去っていく。

 さて旅の疲れを癒すかな。

 アリアも籠から出され…… 

 あれ? 出てこないぞ。


「どうした?」

「せ、先生……? こ、腰が抜けちゃって…… だってあんな恐い先生、初めて見ました……」


 アリアもかい。ちょっと本気を出し過ぎたかな? 

 しょうがないな。俺はアリアに背を向ける。


「乗れる?」

「は、はい!」

 

 籠牢から出てきたアリアを背負い、用意された客間に向かうことにした。

 道中アリアが耳元で独り言を言っているのが聞こえてくる。


「んふふ、でも抱っこのほうがよかったかも……」

「聞こえてるって…… それは彼氏が出来たらやってもらいな」


「え!? わ、私何か言ってましたか!?」


 はは、おかしな子だな。



◇◆◇



「くー…… くー……」


 客間の中にはアリアの寝息が響く。

 疲れていたんだろうな。ベッドに横になった途端に寝てしまった。

 俺もひと眠りしたいところだが、そろそろ話し合いが始まるはずだ。


「一服するかな……」


 部屋の外に出ようとすると、ちょうど竜人が俺を迎えに来た。

 一服は無しだな。タバコを懐にしまうと竜人が声をかけてくる。


「タケよ。先程はすまなかったな」

「ん? ベルンドか? 竜人族は見た目じゃ誰か分からないな。みんな同じに見える」


「ふん。それはこっちのセリフだ。私にはお前とアリアの区別がつかん」

「ははは、種族が違えばそう見えるのかもな。で、行くんだろ?」


「あぁ。長老様がお呼びだ。ついてきてくれ」


 ベルンドと共に里を歩くのだが、あちこちから飛んでくる鋭い視線が痛い。

 まぁここは竜人にとって特別な場所なのだろう。

 本来人族である俺が入っていいところではないって言ってたしな。


 普段はどうなっているのか知らんが、今は戦時だ。

 武装している兵士達とすれ違う。


「みんな戦うつもりなんだな。女子供はどうしてるんだ?」

「子供達か? 西の海岸まで避難している。ここにいるのはオスと卵を産めなくなったメスだけだ」


 なるほどね。女も戦場に出るのか。

 それにしても卵って。

 ん? それじゃルネも卵から産まれたのか? 

 ちょっと気になるな。


「何を考えてる? ほらこの小屋だ。中に入ってくれ」

「あ、あぁ、すまんな。お前は来ないのか?」


「私は一介の兵士に過ぎん。ここからはお前だけだ」

「分かった。ありがとな」


 ベルンドと別れ、案内された大きめの小屋に入る。

 家というより会議室っぽいな。

 中はテーブルと椅子だけがあり、長老が三人座っている。


「来たか。座れ」


 トカゲ型の長老が睨みをきかせて着席を求められる。

 サイズが竜人のものだからな。

 椅子に座ると足が床に着かない。

 子供になった気分だ。


「我らはお前を信用した訳ではない。それにお前は罪人だ。御子様に勝手に名をつけよって。これで御子様は……」

「タケだ。俺の名だ。覚えておいてくれ。それに俺はそんな話をしに来たんじゃない。俺を断罪するのは全てが終わってからにしてくれ」


「く…… 人族というのは無礼で困る。しょうがない。私はシバ。竜人の里で最長老をしている。こっちは飛竜族のロロ、そしてこっちは水竜族のウルキだ」


 なるほど。

 トカゲがシバで、プテラノドンがロロ、ワニがウルキね。

 それじゃ自己紹介も終わったし、話を始めるか。


「俺はさっきこのままだとあんたらは三か月で全滅って言った。これは遅くて三か月ってことだ。何も手を打たないともっと早くなると思ったほうがいい。で、対策を練る前に情報が欲しい。持っている情報は全て話してくれ」

「…………」


 三人はお互いの目を見つめた後、口を開く。

 まずはワニ竜人のウルキだ。


「戦況はかなり悪い。正確な数は分からんが、魔女王の兵は二十万人はいるだろう」

「二十万か。こっちの戦力は?」


「多くが死んでな…… 戦えるのは四万にすぎん」

「なるほど。充分だ。竜人族の能力についてはある程度把握している。それじゃ次だ。ロロさん、あんたならこの国の地形を他の誰よりも理解してるだろ? 地図はあるか?」


 ロロは立ち上がり、壁にかけている地図を持ってくる。


「これがバルルの地図だ。竜人の里はここ。ほとんど西の端だな。で、魔女王の軍勢は今ここにいる」


 トンッ 


 ロロは人形を地図の上に置く。

 バルルの北寄りだ。

 今まで歩いてきた工程を考えると…… 

 ここから二週間ってとこだな。

 それにしても精巧な地図だ。

 さすがは上空から見てきただけある。

 まさにスカイアイだな。


 おや? バルルの中央辺りに大きな丸が二つある。

 これは何だろう。


「湖か?」

「違う。双子沼と言ってな。それは雨期になると発生する沼だ。足元がかなりぬかるみ、まともに行軍出来なくなる。南に向かうには沼に挟まれた街道を通るしかない」


 ふふ、これは利用しない手は無いな。


「分かった。二回だな」

「二回? 何が二回なのだ?」


 トカゲ顔のシバが尋ねてくる。


「二回勝てば魔女王の軍勢はバルルを出ていく」

「お前…… 大口を叩くのもいい加減にしろ!」


 おおぅ。皆さまお怒りになられた。

 だがむしろ怒るのは俺の方だ。

 ちょっとこいつらには反省してもらわないと。


「なぁ、あんたらはこの国のトップだろ? 自国の戦力を把握してるし、地の利もあんたらにある。なのに最初に俺が見たのは竜人と人族の死体の山だったぞ。正面から戦ったろ?」

「当たり前だ。人族相手に背を向けるなど言語道断……」

「馬鹿野郎! 戦いってのはな! 相手より十倍の兵力であれば囲み、五倍であれば正面攻撃! 二倍であれば敵を分断して攻め、同数であれば必死になって戦う! 相手より少ない場合は逃げるんだよ! 何も考えずに戦ったって勝てる訳ないんだ! どうせお前らは人族より強い体を持ってるからって油断したんだろ!? これがその様だ!」


 これは孫子の兵法謀攻編に書かれている一説だ。

 戦いの基本とも言える。


「だ、だがお前の話では敵を相手に逃げるだけではないか! それでは我らは滅ぼされるだけだぞ!」

「あのな…… 不利なら不利なりの戦い方があるんだよ。逃げて体制を整える。それから作戦を考えるんだ。いいか。今から俺達が勝つ方法を教えてやる。まずやることは…… 食料集めだ」

「「「食料!?」」」


 三人の長老が声を揃える。

 まぁ作戦って言っておいていきなり食い物を集めてこいって言われても困惑するよな。

 だがこの一手が勝利の鍵となる。

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