第5話 おっさんの話
俺が作り出した結界とも呼べる転移の森に迷いこんできた少女、アリアの話を聞こうとしたが、なんか流れ的に俺の話をすることになってしまうことになった。
別に話しても減るもんじゃないし、この子自身俺に危害を加える力もないだろう。
さて、信じてくれるかどうかは別として俺から話すとするか。
「何から話すかな…… まずは俺はこの世界の人間じゃないってことだ。地球っていう世界から来た」
「チキュウ? この世界の人じゃないって……? どういうことですか?」
これは俺も分からない。
兄貴の結婚式に向かうため、北海道に行く飛行機に乗ってたんだが……
どういう訳か墜落した……みたいだ。
機内に轟く悲鳴、落下する感覚、飛び交う手荷物。
死を覚悟したのだけは覚えている。
そこからの記憶は無い。気絶したんだろうな。
そして目が覚めたら、一人地面に横たわって気を失っていたことに気付いたんだ。
そのことをアリアに話すと……
「信じられない…… タケさんは異世界人なんですか?」
はは、俺にしてみればアリアが異世界人なんだけどね。
「まぁそういうことさ。俺は生きるために町に向かったんだ。そして何とか仕事を見つけてね」
「仕事? 異世界人なのに雇ってくれたんですか?」
そこは昔取った杵柄だ。
俺は食品関係の仕事についてたから、マネジメントから接客調理とお手の物だ。
一件の食堂を見つけた俺は飛び込みで仕事は無いかと尋ねた。
運よく求人中でね。給料は安かったが住み込み三食付きという破格の条件で雇ってもらったのだ。
「で、でも言葉はどうしたんですか? 異世界人であれば意思疎通は難しいでしょう?」
「それは俺も不思議に思ってたんだ。それは順を追って話すよ。俺が働き始めてからその店は繁盛店になってね。経営も軌道に乗ってきたところで、その店の女将さんに教会に連れてってもらったんだ。そこで俺の能力が分かった。これは説明するより見てみてもらったほうがいいな。アリア、ちょっとごめんな」
「え? な、何をするんですか!?」
たじろぐアリアのおでこに手を当てる。
そして俺自身に分析をかける。
名前:タケ
年齢:???
種族:人族
HP:9999 MP:9999 STR:9999 INT:9999
能力:杖術10
ギフト:時間操作 空間転移 多言語理解 分析 魔銃 気功
自分のステータスを確認するなんて久しぶりだな。
この情報をオドに変換、そしてアリアに流す!
パアァッ
これでアリアは俺のステータスを見ることが出来るはずだ。
あれ? すごく驚いた顔をしてる。
この世界では分析魔法は無いのか?
「信じられない…… このステータス。それにギフトが六つも…… タ、タケさん、あなたは一体何者なんですか……?」
「ただの異世界人さ。少しばかり長く生きてるだけのね」
どうやらどの世界でも能力ってのは魔法であったり武術であったりと、一つしか使えない。
これは生まれ持った才能で決まるようだ。能力は後天的な努力で増えることはない。
俺は教会でステータスを調べてもらった時、杖術っていう微妙な能力にがっかりしたんだよな。
だが、アリアが驚いたように付与されているギフトの数が異常だったのだ。
俺も未だによく分からんが、ギフトってのは神様が与えてくれる能力らしく、ギフト持ちっていうのは僅かにしか存在しない。
ギフトを持っている者は超人的な力を持っている。
RPGでいうところの大魔法や一騎当千の武力などだ。
だが俺のギフトの多くは生活を便利にする物が多く、戦闘に役立つものは魔銃と気功ぐらいなもんだ。
それに当時の俺のステータスは一般人と変わらなかったし。
「俺は教会で自身の能力を知った。空間転移っていう能力があった時は嬉しかったね。これで地球に帰れるって思ってた。でもそう上手くはいかなくてね」
俺のギフトである空間転移ってのは狙った場所に転移することが出来ない。
どこに行きつくかは全くのランダムなのだ。
俺は何度も空間転移を試した。
だがいつまで経っても地球に辿り着くことはなかった。
このままじゃ寿命が尽きて死んでしまう。
だから俺はもう一つのギフトである時間操作を自身にかけた。
寿命を止めたんだ。
「こう見えても俺は何万年も生きている。時間操作っていうギフトを使ってね」
「な、何万年も…… タケさんは神様なんですか?」
ははは、神様か。
以前訪れた世界でも同じようなことを言われたな。
神様とか、英雄王とか。
だが俺は一介の地球人。
そんな御大層な者じゃないさ。
「ただのおっさんだよ。まぁ俺はいつか故郷に帰れる日を信じて異世界転移を繰り返してるってわけ」
「そ、そうなんですか。タケさんはどんな世界に行ってたんですか?」
これは何の罰ゲームなのかは知らんが、俺が行きつく世界はいつも争い事ばかりだった。
魔王がいたり、戦争があったり、独裁者が他種族を滅ぼそうとしてたりとか。
「平和な世界は無かったね。何度死ぬ思いをしたか分からないよ」
「で、でもそんなに強いのに……?」
アリアは不思議そうな顔をしてる。
確かに俺のステータスは一騎当千と呼べる物だろう。
俺自身も多少なりとも腕に自信はある。
だが俺は最初から強かったわけじゃない。
はっきり言って平均以下だった。
だから俺は生き残るために自分を鍛えた。
「ここで鍛えたのさ」
「ここ? この森でですか?」
この森は転移の森。
俺が作り出した空間だ。
基本的に俺しか入ることが出来ない。
最初に辿り着いた世界も突如スタンピードが発生し、魔物が人々を殺し始めた。
俺は生き残るためにこの能力を発動して、この森の中に逃げ込んだ。
このまま他の世界に逃げようと思ったが……
恩人を見捨てて逃げることが出来なくてね。
幸いこの森にいれば外界の時は止まったままだ。
だから俺はここで自身を鍛えた。
鍛えまくった。
薄皮を張り付けるように少しずつステータスを上げ続け、何とか魔物と戦えるぐらい強くなった……と思ったのだが、どうやらやり過ぎたみたいだ。
そもそもステータスの上限なんて知らなかったしな。
いつの間にかカンストしてたんだ。
だが一騎当千の戦闘力をもってしても世界に溢れる魔物を一人で何とか出来るわけがない。
いくら強くても、限界ってものがある。
だから俺は人々をまとめ上げ、自身も先頭に立ち戦った。
そして何とかスタンピードの主であるドラゴンを倒すことが出来たんだ。
あれ? アリアがポカーンとした顔で俺を見てる。
信じてないな? まぁしょうがない。
こんなおとぎ話みたいな話されても信じられないだろう。
「ざっくりだがこうやって俺は生きてきたんだ。信じられないだろうが……」「助けてください! 私達の世界を救ってください!」
わわっ!? 被せてきたな。ちょっとびっくり。
でもアリアは真剣な眼差しで俺を見つめる。この目……
完全に信じてるな。
それにしてもいきなり助けてか。
「お願いです! 私達の世界を助け……!」「ちょっと待つんだ」
今度は俺が言葉を被せる。
助けるにしてもまずは状況を掴まないと。
「アリア、次は君の番だ。ゆっくりでいい。何があったか話してくれ」
「はい……」
アリアは一呼吸おいてから、自分に何があったのかを話し始める。
俺は黙ってアリアの話に耳を傾け続けた。
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