第4話 アリアの過去
ん……? ここはどこなのかな?
不思議な感覚…… すごく眠いんだけど、目の前にビジョンが見える……
これって何なのかな?
ビジョンの中に映し出されたのは……
幼い頃の私とお母さんの姿だ。
お母さんはすごく綺麗な人だった。
私と同じ金色の髪と長い耳。そして山羊の角と蛇の尻尾を持っていた。
綺麗な蝙蝠の翼も生えてたね。
これは…… 昔の記憶? それとも夢なのかな?
幼い私はお母さんの尻尾に抱きついて遊んでいる。
痛かったのかな? お母さんが諌めるように私に話しかけた。
『ほらアリア、ふざけないの』
『だってお母さんの尻尾ってツルツルして気持ちいいんだもん。私も大きくなったら尻尾が生えるかな?』
『ふふ、どうかしらね? いい子にしてたら神様が尻尾を下さるかもしれないわ』
『アリア、いい子だよ! だからきっとお母さんみたいな尻尾が生えるよね!』
ふふ、懐かしい思い出……
私達魔族は神様が与えてくださった加護によって受け継ぐ部位が異なる。
私に与えられたのは小さな山羊の角だけ。
他の子は翼だったり、尻尾だったりして羨ましかったのを覚えている。
角しか生えてない私は、よく友達にからかわれたっけ。
くやしくてよくお母さんの前で泣いてたんだよね。
夢の中の私はお母さんのお腹に顔を埋めて泣いている。
『うえーん、ねぇお母さん。私はこのまま角しか生えてこないの? 私が駄目な子だから?』
『ふふ、そんなことはないわ。アリアは特別な子なのよ。角しかなくても神様が与えてくれたギフトがあるもの』
ギフト…… それは神様からの贈り物。
ギフトを持った者は極稀にしか存在しない。
私は町で唯一のギフト持ちだった。
神様からギフトを得た者はすごい魔法や強い肉体、他にも特殊な力を得ることが出来る……んだけど、私に与えられたギフトは神官でも分からないものだった。
発動方法も分からない。
私は使えないギフトを与えてくれた神様を恨んだんだよね。
使えないギフトよりも立派な尻尾、綺麗な羽が欲しかった。
他の子を羨みながら私は少女時代を過ごしたんだ。
ゴォォォォォ……
突如ビジョンが切り替わる。
これは…… 最近見た光景だ。
『うわー!?』
『助けてー!!』
『命だけはー! ぐおっ!?』
町の人が甲冑を着込んだ兵士に殺されていく。
私は燃える町を隠れるように進み、家の付近まで辿り着く。
お母さん!
お母さんのことしか考えられなかった。
お母さんを連れて逃げなきゃ。
もう少しで家に着く……ところで、兵士達が縄で縛りあげたお母さんを囲んでいるのを見た。
兵士はお母さんに剣を突き付け……
『おい、娘はどこだ』
『…………』
お母さんは答えない。
黙って兵士達を睨みつける。
次の瞬間。
パァンッ
『くっ!?』
兵士がお母さんの頬を叩く。
頬は瞬く間に赤く腫れあがり、お母さんの口の端から血が滴り落ちた。
『答えろ。さもなくば斬る』
『ペッ』
ピチャ
美しいお母さんから想像もつかなかったけど、兵士に向かってツバを吐く。
兵士の頬は血の混じったツバにより赤く染まる。
ブォンッ ザシュッ
『きゃあぁぁー!!』
兵士はお母さんの綺麗な尻尾を斬り落とした。
お母さんは痛みにのたうちまわり、地面がお母さんの血で赤く染まる。
炎の赤。
お母さんの血。
もう夜だというのに世界は赤く染まっていた。
私は動くことが出来ず、藪の中からその光景を見ることしか出来なかった。
次第とお母さんの息づかいが弱くなっていく。
そしてお母さんの視線が私に向けられていることに気付く。
お母さんは声を出さずに口を動かした。
に げ て
そう言ってお母さんはニッコリ笑った。
そして……
ザンッ ボトッ
ナニカガコロガルオト。オカアサンノクビガジメンニコロガル。ワタシハコエモダスコトモデキズソノバカラニゲダシタデモドコニニゲレバイイノナンデアノヒトタチハワタシタチヲコロスノワタシハコタエモワカラヌママミナミニムケテハシッタナンデミナミニイッタノカハワカラナイホカノヒトタチニツイテイッタダケデモヘイシハワタシタチヲオイツヅケタチカラツキタヒトハヘイシニコロサレテイクツギハワタシノバンナノイヤダイヤダイヤダイヤダソンナノイヤダワタシハマダシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイ死にたくない!!
◇◆◇
「死にたくない!」
「うぷぁっ!? ど、どうした!?」
び、びっくりした。
人が一服しながら貴重なコーヒーを楽しんでるってのに……
噴き出しちゃったよ。
俺は飛び起きたアリアを落ち着かせるため、彼女に近付くが……
「いやー! 来ないで! 殺さないで!」
混乱してる……
この怯えようはよほど恐い目にあってきたんだろうな。
アリアはガタガタと震え、恐怖の眼差しで俺を見つめていた。
どうするかな……
こういった場合は下手に刺激しない方がいいだろう。
俺はカップを取り出し、アリアの分のコーヒーを淹れる。
それを彼女の前に差し出す。
「飲みな。熱いから気をつけるんだよ……」
「う…… ふえーん……」
泣きだしたアリアから少し離れる。
落ち着くまで少し時間がかかるだろうな。
予想通りコーヒーから湯気が消えた頃、ようやくアリアは泣き止んだ。
そろそろ大丈夫かな?
俺は立ち上がり、アリアの横に座る。
近すぎると驚くだろうから、適度に距離をとると……
「ぐすん…… ごめんなさい…… 助けてくれたのに……」
「いいさ。でも落ち着いたらそろそろ君の話を聞かせてくれないか? 俺は君の名前がアリアってことしか知らないしね」
「はい…… でもどこから話していいのか……」
アリアは不安そうだ。
そうだ、アリアはまだコーヒーに口をつけていない。
冷めてしまったが、コーヒーには気持ちを落ち着かせる効果があったような無かったような……
「アリア、その飲み物を飲んでごらん」
「え、は、はい! いただきます!」
ゴクンを喉を鳴らし、アリアはコーヒーを飲み始める。
子供でも飲めるよう、砂糖とミルクは多めにいれておいた。
多分口に合うはずだ。
「これ…… 美味しい!」
良かった。気に入ってくれたみたいだな。
アリアはコーヒーを半分ほど飲んだところで口を開く。
「あの…… 私の話をする前に…… ここはどこなんですか? 私は大陸の南端の国、バルルにいたはずなのに…… それにタコさん、あなたは何者なんですか? 人族には間違いないみたいですが……」
タケだってば……
まぁいい。アリアは少し警戒しながら俺に話しかける。
この世界は異種族間で仲が良くないのか?
まぁこの子に信頼してもらえたら話を聞かせてくれるかもしれない。
だが俺の話をする前に……
「アリア、すまないが君のことを調べさせてもらう」
「し、調べるって……?」
アリアの警戒の度合いが強くなったみたいだ。
別に身体検査をするわけじゃない。
この子は悪い子には見えないが、どんな力を秘めているか分からないからな。
俺は目にオドを込め、そしてジッとアリアの目を見つめる。
「な、なんですか?」
「いいから。目を反らさないで」
しばらく彼女を見つめていると、視界の中に数値と文字が浮かび上がる。
いわゆる分析魔法ってやつだな。
どれどれ?
名前:アリア
年齢:16
種族:魔族
HP:91 MP:115 STR:63 INT:125
能力:水魔法2
ギフト:鍵
平凡なステータスだ。
魔法も水魔法しか使えないか。
これなら俺のことを話しても安心だな。
ん? この子ギフト持ちか?
なるほど、ならこの森に入れるのも納得だ。
それなりに潜在能力が高いのだろう。
だが彼女のギフトだが……
鍵? 聞いたことがないな。
色々聞きたいところだが、まずは俺の話からだな。
不思議そうな目で俺を見つめるアリアに話しかける。
「ごめんな。これで君のことが分かった。それじゃまずは俺から話すよ。改めまして、俺はタケという。本当の名はあるんだが、今はこれで勘弁な」
「タケ? タコじゃないんですね?」
これで名は覚えてくれるだろ。
彼女に本当の名を教えなかったには訳がある。
昔、悪い魔術師に本名を言ったところ従属の魔法をかけられたんだよな。
真の名を使い相手を支配する魔法もこの世には存在する。
以来俺は名前の一部だけ名乗ることにしてるんだ。
さぁ話の続きだ。
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