出会い
第2話 出会い
ここは森の中……とはいっても通常の森ではない。
結界に守られた特別な空間だ。
その森の中央でフカフカの草のベッドで寝ている男がいる。
男は滅多なことで起きることはない。
唯一起きるのは森に異常があった時。
それを知らせてくれる鳥の声が聞こえる。
鳥は男の枕元に降り立ち、涼やかに鳴き始めた。
◇◆◇
『ピチチ、ピチチ』
ん…… なんだ? 人がせっかく気持ちよく寝てるってのに。
もう次の世界に着いたのか?
っていうか、どれくらい寝てたんだろうな?
「ふぁー。さてと、今度はどんな世界なのかね? 地球に戻ってくれたんなら嬉しいんだけど…… まぁどうせ異世界なんだろうな」
『ピチチ! ピチチ!!』
ん? この鳴き声は……
いつもと違うな。誰か森に入ってきた?
この森に人が入るなんて何千年ぶりだ?
確かめないとな……
「なぁ、誰かいるんだろ? 案内してくれ」
『ピチチ!』
バササッ
「おい、ちょっと待ってくれよ! こっちは寝起きなんだよ!」
気怠い体に鞭打って体を起こす。
いてて。寝すぎたな。背中が痛い。
実際の歳は忘れたが、こっちに来た時は四十だったからな。
若い時みたいな元気も無いし。
さて、後を追うか。
ゆっくり飛んでいく鳥を見上げつつ森を歩く。
ふー、それにしても森歩きなんてどれくらいぶりなんだろう。
普段は魔法を使って強制的に眠ってるからな。
まぁそんなこと考えてもしょうがないか。
それにしても鳥が鳴くってのは異世界に着いたか、森に異常があった時だけだ。
だがあんな大きな鳴き声ということは…… 一応用心しておこうか。
腰にさしてある枝を取り出す。
それに気を込める。すると……
シュンッ
手には俺の身長と同じくらいの棍が握られている。
ただの棍じゃないぞ。これは神木ユグドラシルの若木を削った物だ。
折れず曲がらず、そして無用に敵を傷付け過ぎない。
俺は平和主義者の日本人だからね。こういった武器がちょうどいいんだ。
『ピチチ』
むっ? なんだか笑われてる気がするな。
バカにするなよ。剣豪宮本武蔵を唯一破った夢想権之助も杖術使いだったんだぞ!
突けば槍、払えば長刀、持てば太刀ってな。
まぁ鳥に言っても仕方ないか。
ともあれこの得物は長い事、俺の相棒だ。棒だけに。ぷぷっ。今の面白かったな。
『ピチチ……』
う!? なんだか呆れられてる気がする!?
言葉にしなくてよかった。
こんなくだらないこと考えるなんて俺もオヤジになったもんだ。
ん? 違うな。
鳥は俺の心を読んだんじゃない。
異変の下に着いたことを教えてくれたんだ。
って、女が倒れてる……
遠目からでも分かる。酷い傷だ!
ザッザッザッザッ
俺は女の下に駆け寄る!
死ん……ではいない。弱々しいが背が動いている。
女の顔を覗き込むと……
まだ子供だな。十五、六ってとこか。
金色の髪と長い耳。エルフか?
いや違うな。頭に角が生えてる。違う種族だろう。
かわいい顔はしてるが、あちこち汚れて傷付いてる。
だが結界を破りこの空間に入ってくるんだ。只者じゃないんだろうな。
ステータスを確認……するのは後だな。
まずは助けないと。
女の子に手を伸ばそうとした時……
「ん……」
ゆっくりと目が開き、視線が俺に向けられる。
いかんぞ、いきなりおっさんが目の前に現れたんじゃ不審者と思われかねん。
痴漢と間違えられたんじゃたまらんからな。
ここは精一杯の笑顔で……
「誰……?」
先に声をかけられた。
警戒している。なんて答えるかな……
ええい! 考えても仕方ない!
「はは、もう大丈夫だからな」
「…………」
答えは無かった。
女の子は再び目を閉じてしまった。
っていうか気を失ったみたいだ。
安心してくれたということだろうか?
これから治療をしなければならない。
意識が無いのは好都合だ。
「ごめんな」
謝った後、女の子を抱きかかえる。
今は起きるなよ……
俺は彼女をお姫様抱っこしつつ寝床である森の中央に向かう。
「ん……」
時折女の子の顔が歪む。
どこか痛む……わけじゃなそうだ。
傷は多いが浅い物ばかりだ。
うなされてるんだろうな。
聞こえないだろうが、俺は女の子に声をかけた。
「心配無いからな。すぐに良くなるよ」
この程度の傷を治すのなんか造作もないが、心の傷は魔法じゃ治せないしな。
それに俺が使えるのは、いわゆる自然のマナを使った魔法じゃないし。
そうこうしていると寝床に着いた。
女の子を寝かしてっと……
「ごめんな……」
謝りながら服を脱がす。
最初は綺麗にしておかないとな。
傷口からばい菌が入ったら破傷風になりかねん。
スルッ
無抵抗の女の子の裸を見るってのもな……
なるべく見ないようにしつつ、濡れタオルで女の子の体を拭いていく。
「ん……!?」
う!? 起き……てはないな。
傷に触れたから痛かったのか?
頼むから今は起きるなよ。
そしてようやく体を拭き終える。
さぁ次だな。傷を癒さないと。
とは言っても俺は魔法が使えない。
魔法というのは大地や宙を漂うマナを利用し、奇跡を起こす術のことだ。
一介の地球人たる俺がそんなこと出来るわけがない。
俺が使えるのは魔法もどきみたいなもんだ。俺はマナは使えない。
だが体内に宿る魔力、いわゆるオドってやつが桁違いに多いらしい。
それを利用して魔法みたいなことが出来る。
なんか昔漫画で読んだ気功ってやつに似てる気がした。
俺が使えるのが気功なのかは知らんが、厳密には魔法ではないようなので気功と呼ぶことにしたんだよな。
「ごめんな……」
俺は女の子の膨らみかけた胸に手を置く。
気功で相手を癒す時は直接触れる必要がある。
心臓に近い位置であればなお効果的だ。
触れなくても癒せないこともないが、気が流れが悪くなる。
幸い相手は意識を失っている。今の内に……
丹田でオドを練りつつイメージする……
細胞の一つ一つが活性化し、傷を癒す……
イメージのまま練りあがったオドを少女の体に……
流す!
パアァッ
手を置いた女の子の胸が優しく光り……
頬の、肩の、足の切り傷を治していく。
ふぅ、こんなものだろ。
これでもう大丈夫。後は目覚めてもびっくりしないように服を着せる……
汚れてるな。洗濯してやるか。
服が乾くまで俺の服でも着せてりゃいいだろ。
俺はリュックから真新しいシャツを取り出す。
女の子に男物の服を着せるのって萌えるよな。
はは、変態だな。
女の子が起きないように首からシャツを着せてっと……
スルッ
これでよし。
次は大事なところが見えないようにお尻までシャツを伸ばして……
「ちょ…… 何してるんですか……?」
ん? この声は……
俺は恐る恐る視線を声のした方に向ける。
すると……
女の子が顔を真っ赤にしてワナワナと震えている。
やば。これは言い訳出来ないぞ。
そうだ! ここは自己紹介をして誤魔化そう!
「こ、こんにちは。俺はタケ……」
「いやー!!」
バチーン
うん。もうこの子は大丈夫だ。
だってこんなに力いっぱい俺をビンタ出来るんだから。
っていうか、久々に起きて人助けをしたってのにいきなりこんな目に会うとは……
この世界も前途多難だな、きっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます