2 背中合わせの時間
背中合わせの時間
切れた糸を結び直して、小さく笑う君。切れた糸はまた結び直せばいい。何度でもね。そんなことを(泣いている私に向かって)君は言った。
高校生時代
キスしてください。
「おっす」
そう言って美空は天文部の部室のドアを開けて部屋の中に入った。
部屋の中には二人の人間がいる。
二人とも美空のよく知っている人。
藤野昴と畔野美樹だった。
昴はなにかを本を読んでいる。(読んでいる本にはカバーがかけられているので、どんな本を読んでいるのかはわからなかった)
「なんの本読んでいるの?」
空いている椅子に座りながら、美空はいう。
「……別に」
とちらっと美空の顔を見ただけで、またすぐに本を読み始めた昴はいう。
「相変わらず愛想ないね、君」
つまらなそうな顔をして美空はいう。
「小説だよ、小説。日本の昔の小説だよね、昴」
ふふっと笑いながら美樹がいう。
「昔の小説って、どのくらい昔の? 昭和とか明治とか大正時代の小説?」と美空はいう。
「もっと昔。平安時代とか、室町時代とかそんな時代の小説だよね」
笑いながら美樹は言う。
「それくらい昔って言うと、源氏物語とか、平家物語とかそういう小説?」美空はいう。
「そうそう。そういう小説。昴はそういうのすごく好きだもんね」
テーブルの上に両手を置いて、顔を埋めながら美樹は言う。
「そうなんだ。全然知らなかった」美空はいう。
それは本当にそうだった。
今の今まで、昴がそういう小説(というか物語?)が好きということを美空は全然知らなかった。
二人がそんな会話をしていると、昴が急に本を読むのをやめる。
それから昴はじっと美空の顔を見る。
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