第162話 ファッションヤンキー、水虎に挑む
『むむ、ぷりちーな儂の姿を見てなんじゃその顔は』
「なんの顔ってそりゃ……」
自分の顔なんて鏡でもなけりゃ見えないでしょと言いたいところだけど、スクショ機能を内部カメラモードにすれば自分の今の表情を見ることは可能だ。そんなことをせずとも、どんな顔してるくらいわかるんだけども
「気持ち悪ぃなって顔じゃけど」
『なっ……!?』
おっと、水の子虎さん割とガチなショック顔だ。結構な自信があったのだろう。
いやね?私だって姿だけ見れば可愛いなーくらいは思ったことだろう。それは何故か?いくら自分の愛らしさを理解したような仕草をした所で声が爺声だからだよ!その声で頑張って甘ったるい声を出そうとするんじゃないよ!
『ば、馬鹿な……わしのこの姿を一度見たものは頬を緩ませるというのに……』
「それお前が口開いた時点で表情冷めんかった?」
『そう言えば数名顔が固まっておったような……?』
その言い方だと爺声のままでも頬緩ませた人はいたんだね。どこに需要有るかは分からんね。
今も頭を抱えて転がる様はミュートさえしてしまえば可愛い虎が転がっているという笑みがこぼれてしまうシーンだ。ミュート解除すればチャンネル切り換えものだけど。呻くな呻くな、爺声だとちょっと怖い。
「のぉ、そろそろ落ち込んどらんで話すすめぇや」
『やれやれ、もうちょい嘆かせてくれてもいいじゃろう。ま、よかろう。簡単な話じゃ儂に挑むか?』
「話簡単すぎん?」
『勿論、戦わずとも帰してやるぞ?』
「挑むけども」
『呵々、躊躇せんのぅ』
そりゃまぁ、番長やらせてもらっている以上、戦いから背を向けるわけには行かないからね。
即決した私を虎は愉快気に笑い――その笑みを獰猛な獣のそれへと変貌させる。おおう、子供の虎の姿とは言え迫力がある。こんなに小さいのにダリグリカ以上の威圧感を感じる。
『では来い。あらゆる意味で曖昧な者よ。我が名はシャンユエ。永く生きた水虎よ』
おっと名乗ってきた。これは私も答えねば失礼に値するだろう。
私は足を肩幅より少し開き、腕を組む。そして大きく息を吸い、言い放つ。
「俺はオウカじゃあ、夜露死苦ぅ!」
よし、中々に決まったんじゃないだろうか。……あれ?思えばこのゲーム始めてから夜露死苦って言ったことなかったかも知れないね……ちょくちょく言った方が良いかな。
おっと、今は目の前に集中しなければ。相手はトルネイアとも知り合うほどの存在。油断は禁物だ。とりあえず様子見として――
「おらぁ!」
少し距離もある事だし、久しぶりのゴブリン棍棒を投擲!投げてみて分かったけど、どうやら肩力も上がっているようで今まで以上のスピードでシャンユエに向かってゆく。さて、この攻撃をどう避ける?普通に回避してくれるのが一番嬉しい。逆に一番あってほしくないのは、ゴブリン棍棒がシャンユエの体を突き抜け、ノーダメージになることだ。自分の攻撃だけ当たって相手の攻撃だけ水のように透過する某ライダーのようなことは是非ともしないで欲しい。
『ひょいと』
良かった、避けてくれた……透過されたら私に成す術は目からビームしかなかった。とりあえずは安堵。したのも束の間、シャンユエが水弾を複数放ってきた。こちらも中々の速度。勿論避けれそうはないので、ダメージ覚悟で"猪突"を発動。
「行くでぇえええええええ!!」
鈍足の私からは考えられないスピードでシャンユエとの距離を詰める。水弾が右肩と腹に当たるが、大したダメージでも衝撃でもなく私の足を止めることは出来ない。
全く避けはしないとは思いもしなかったのか、シャンユエが一瞬固まり、笑う。
『呵々、傷を恐れぬか!良い!』
「おう、褒めていただき光栄じゃあ!」
缶を蹴るように蹴りつけるが、これも容易く避けられ、躱しついでに顔面に水弾を浴びせられる始末。分かっていたことだけど、こうもあっさり避けられるとなぁ……
が、私も黙ってやられてるわけじゃない。ご丁寧にこっちを見ているシャンユエと視線を交わし、"暴龍眼"を発動!
『ぬぅっ……?』
「おう、すまんのぉ!」
困惑する声と共にシャンユエの動きが静止する。このチャンスを逃すわけには行かない。
見た目も相まって少し躊躇してしまうが、すぐに爺声を思い出すと、何のためらいもなく奴の腹部に蹴りを叩き込むことが出来た。
サッカーボールのように蹴り上げられたシャンユエは空中ですぐに体勢を取り直し華麗に着地する。
『ぐっ、ほー!効くのぅ!力もあるが、それ以上にその眼やはり厄介じゃのぉ』
「爺さんがビビるとは思わんかったけどのぉ」
『呵々、"ビビる"か。お主からしたらそれぐらいの認識か』
「ん?」
それぐらいの認識ってどういう意味よ?
私がそう疑問を問いかけようとしたところでシャンユエに変化が起こった。現れた時同様、雨が奴の体に集い始めているのだ。
『いや、すまんな。この姿じゃとお主との戯れを十全に楽しめそうもない。相応の姿をとろう』
小虎の体が水分を得てみるみるうちに体積を増していく。そして変化が収まったころには、そこに小さく愛らしい虎は存在しなかった。代わりに昔動物園で見たアムールトラよりも2倍ほど大きな虎がそこにはいた。
『呵々、どうじゃ第二形態というものじゃ』
まさにその姿にふさわしい、しわがれた声でシャンユエは口角を上げた。
あぁ、これから本番なんですね。しかも相手は私との戦いを戯れと来た。ハハッこれはこれは
「おうおう、やりやすい姿になったのぉ……それじゃあ遊びじゃ済まんくしてやるけぇのぉ!!」
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