第161話 ファッションヤンキー、招かれる

 常雨の荒野に潜って数十分が経過。私はと言うと、難なく進んでいる。いや、パワフルホッピングフロッグの集団とか面倒くさい相手は結構いたんだけれど、苦戦するほどではなかった。DEFが上がってダメージが少なくなり、ポーションの消費量が減ったこともさることながら、ATKが上がったのがデカい。ゆっくりだった戦闘スピードがちょっとだけ速くなった。もしかしたらヤンキーのままだったらこのようにはいかなかっただろう。

 難点と言えば、考えていた通り存在強調も強化されていたようで、念のため確認してみたらモンスターの遭遇率上昇+になっていた。いや、いつの間に+がついたんだよ!?サイレント強化しないでもらえます!?

 そんな訳で少し歩けばモンスターに絡まれるという事案が多発してしまった。挑まれた以上逃げるわけには行かないから一々相手してたんだけどね。その甲斐あってレベルも上がってる。ただ……うん、疲れる。犀繰で轢こうにも轢けないようなモンスターが多いし。

 そうして地道に歩きながら絡んできたモンスターと闘りあっていると、私の目の前に変なものが現れた。


「ン?扉……?」


 壁もないのに木製で両開きの扉が現れた。うん、明らかにおかしい。ファンタジーなゲームだから何でもありかもしれないけど、これは普通の現象じゃないでしょ。これ開いたりしたら別の場所に強制転移されたりするんじゃないだろうね。食堂とか転移されても困るよ?

 どうしよか。入ってみたい気持ちはあるけど、罠という可能性も拭いきれない。ここは慎重に……しんちょうに……


『入るがy』

「おらぁ!」


 はい、扉を蹴り開けましした。壊せはしなかったけど

 ハッハッハ!まごついてどうする私!ヤンキー、いや番長であれば多少の罠なんて踏みつぶしていくのが番長!だから即死トラップは止めていただけると幸いです!そんで今さっきなんか頭に声が響かなかった?気のせいだね!

 さて、扉の奥は……ふむ、雨は変わらず降っているけど、予想通り風景が一変している。今さっきまでいた空間は、ちょくちょく沼がある開けた草原だったんだけど、今私がいるのは砕けた石の柱や詰みあがった石材のある廃れた遺跡のような場所だ。


「変な場所に出たのぉ……おっと入った扉は……消えとるか」


 振り返ってみると、私が通り抜けたはずの扉は影も形もなくなり薄暗い森が広がっていた。

 これ帰れるのかな?死に戻りじゃなきゃ脱出できないとかやめてよ?とりあえず進んでみようか、何かあるかもしれないし。


『呵々、豪気じゃのぉ』

「誰じゃあ」


 頭に響くしわがれた老人の楽しそうな声。はい、さっきの声は気のせいじゃありませんでした。姿形も見えないのに一方的に声を掛けられたことで心臓が跳ね上がったけど何とか顔には出さず声を絞り出した。ビビったこと、察しないでいただけるとありがたい。


『ほほう、おくびにも出さぬか。以前に招いた奇怪な槌を持った女ドワーフ以来じゃの』

「奇怪な槌」


 すっげぇ心当たりあるんですけど同一人物なのかな?あの人なら私よりも先にこのダンジョンに来ていても何ら不思議じゃないけども。

 んでもってこの謎の声、招いたって言ったな?こいつがあの扉を出現させたのかな?


「おう、姿見せんのんかァ?」

『呵々、急くな急くな。ヒューマの身の癖に龍を宿したちぐはぐな者よ、お主どこぞでその眼を手に入れたんじゃ?』

「あン?この眼のことならトルネイアからじゃあ」


 私が持っている龍の力関係となるとやっぱり暴龍眼のことだろう。それを私に宿したのはトルネイアになる。トルネイアからしても想定外の出来事だったけどね?今でも不思議なんだよね、この暴龍眼。


『トルネイア?ほぉ、彼奴めまだ生きておったか、久しく名を聞いたのぅ』


 あ、アカン。この謎の声、トルネイアをまるで同格のように言ってる。騙りの可能性もあるけれど私の中で警戒レベルが上がった。ま、まぁ?トルネイア初遭遇の時とは違い、この謎の声に敵対心は感じられない。いや、仮に敵対されてもプレイスタイル的に挑むしかないんだけどね。


『いや、よく見るとお主本当に変な存在じゃのぉ?何じゃ?何でそこまで龍の気配濃いのにヒューマなんじゃ?普通そこまでいったら龍人種じゃろうが』

「ハッ!龍人種とか興味ないのぉ。俺ぁずーっとヒューマのつもりじゃあ」

『お主のようなヒューマがおってたまるか』

「知らん」


 いるんだから仕方ないじゃん!私だって、暴龍眼とか龍拳とか好きで入手した訳じゃないからね!?全部不可抗力だよ!?だーれが好き好んでダリグリカの生肉喰いたがるもんか!

 もういい!さっさと話題変えよ!


「で!お前はいい加減出てこいや!俺を質問するだけに呼んだんか!」

『そうじゃが?』

「そうなんかい!!」

『そりゃ変な存在が現れたら確認したくなるのが虎の性と言うものじゃ』


 ん?


「虎?」

『おっと、ついうっかり。まぁよかろ、姿を見せるとするかの』


 その言葉が頭の中に流れた瞬間、振っていたはずの雨水が静止する。時でも止まったかと思ったけど、私は普通に動ける。時止めの世界に入門出来たわけではないので、雨だけ止まっているのだろう。これが第一の異常事態。

 次に静止した雨が一か所に集まり始めた。しかも集まった雨は全て透明なはずなのに次第に色が付き始める。透明感のある水色だ。これが第二。

 そして最後の異常事態。集った雨が形を変え始めた。……まぁ謎の声がネタバレしていたしどうせ虎になるんでしょ。



 うん、確かに虎になりました。まごうことなき虎ですね。多少、瑞々しいというか水そのものな体してますけど確かに虎ですね。あぁ、普通にまた雨降り始めるんですね。で、虎なんだけどさ。


『どうじゃ、ぷりちーじゃろ?』


 何で子供の虎?いや、確かに見た目だけなら可愛いのかもしれないよ?でもさ、爺声でぷりちーって言って可愛いポーズされても……ただただ不気味。せめて若い女性の声にしてくれなきゃダメでは?

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