第160話 ファッションヤンキー、雨に打たれる

「オォラッ!」

「ゴゴォッ!」


 私のヤンキーキックを諸に食らったリトルゴーレム君は敢え無く爆発四散。ドロップアイテムを確認。……まぁ金核は落ちんわな、分かっていましたとも。

 リアンと別れた私はそのままの足でトレトゥスの近くにあるダンジョン、"常雨の荒野"に来ている。目的としては単純にヤンキーがクラスアップした番長の慣らしだ。まぁ、慣らしと言っても大きく戦い方が変わったわけじゃないからね。体で受け止めて殴って蹴って木刀で斬るだけの相も変わらずの脳筋職業ですよ。……暴龍眼のレーザーはヤンキーと番長に由来したものじゃないからノーカン。


「にしても酷い雨じゃのぉ」


 このダンジョンは名前に違わず常に雨が降っているダンジョンなのだ。それも小雨とかじゃなくて結構な大雨。篠突く雨という表現が似合うかな。現実世界だったら傘が必要になるんだろうけど、生憎ヤンキーは傘を差さないのだ。……多分。おかげで濡れるわ濡れる。頭の先からつま先までびしょびしょさ。

 でさ、服が濡れるということは……そう、私も女性の端くれ。気にしなければいけないことがあるんじゃないか。だが安心してほしい。このゲーム濡れはするが透けてその下が見えたりしないのだ!!そりゃそうだ全年齢だぞこのゲーム!!

 まぁその仕様を知っていたから傘も用意せずにこのダンジョンに入ったんだけどね?

 おっと次のお客さんだ。


「ゲッゲッゲココ」

「今度は見事に水属性なモンスターじゃのぉ……」


 私の目の前に現れたモンスターは、鳴き声からも分かる通りでっかいカエルのモンスターだ。名前はパワフルホッピングフロッグ。うーむ、背中の紫色のイボイボが気持ち悪さを引き立たせる。こう、ツルっとしたアマガエルみたいなのは可愛いんだけどね。

 む、カエルが地面に手をつき後ろ足を縮こませる。ははぁん、名前の通りホッピングするつもりだなぁ?まぁその巨体で潰されたらそれなりのダメージ――


「ゲコォ!」

「ぐふぇ!?ビックリしたぁ!」


 途端、カエルの口が開いたかと思うとその奥からピンク色の物体が飛び出て私の腹を強打した。いや、ベロでの打撃かよ!カエルならあり得る攻撃だけど名前にふさわしい攻撃しろよお前さ!変な声出ちゃったじゃん!


「チッ、オラァ!」

「ゲッ」


 お返しとばかりに不動嚙行を突きあげるが、掠めることなく空を切った。今度こそカエルは高く跳躍したのだ。奴は私目掛け落下してくる。普通なら回避行動を取るべきなんだろうけど、私はそれをしない。寧ろ今は攻撃のチャンスだからね。


「空中じゃ避けれんよなぁ!?」


 私の目が光る。比喩じゃなくて直喩ね?その暴龍眼から放たれるは一筋の閃光。閃光は一直線にカエルの腹へ向かって飛び、やがて奴の腹を貫く。


「ゲゴォ!?」


 ハッハッハッ!いやぁ、最近の漫画は回避行動不能の空中でも躱したりするのがざらだからね!もしかしたらこのカエルもと思ったけど杞憂で良かった!うん!まぁ私も私でこれから落下するカエルに潰されるんだけdぐふっ


「重いんじゃボケゴラァ!!!」

「ゲブゥ!」


 私、余裕で生きてました。ダメージ的にも微々たるものでそのタフさに私自身ビックリだよ。ただ、潰されたという不快感は普通にあるので怒声と共に今度こそ不動嚙行で突き飛ばしました。カエルはボールのように上空飛び上がり少し離れた所に落下した。いい一撃が入った気がしたけど、カエルもそこで終わらなかった。


「ゲッゲッゲゲゲ」


 怒りを表すように前脚で地団太を踏むと再び私目掛け、舌を伸ばしてきた。が、先程とは違うことが起こった。伸びてきた舌が途中で裂け、2本となったではないか!いや、どうなってんのその舌。しかも分けたことで攻撃力が下がったわけじゃないし、むしろ2倍ベシベシで痛いし!

 これには私も対応できずに喰らうだけになってしまう。だが、勿論やられてばかりのつもりはない反撃の機会を待つんだ。ステイ、ステイだ私の中のヤンキー魂。


「ゲコォ!」


 とどめと言わんばかりの鳴き声をカエルが上げると、2本の舌が絡み合う。元の一本ではなく複雑に絡み合い硬度が増した舌が私の腹を貫く。いや、私のDEFもとい腹筋が硬いお陰で貫通はしていない。それでも酷く痛い。痛いけれど……


「捕まえた」

「ゲッ」


 私は未だ腹に接触しているカエルの舌を掴む。正直気持ち悪いけれどこれはゲームだと自分に言い聞かせ離さないように手に力を籠める。カエルも負けじと舌を口に戻そうと力を籠めるが、させはせんよ。


「こっち見ろやぁ!」

「ゲコォ!?」


 暴龍眼を発動。私と目が合ったカエルは硬直し折角込めた力が霧散してしまう。ふはは、残念だったなカエルさんよぉ!


「んでもってこっち来いやぁ!」


 綱引きの要領で思いっきり引っ張り上げる。硬直したカエルに踏ん張る力は残っておらず、抵抗らしい抵抗も出来ず体が浮き私に引き寄せられる。

 カエルさん、こっちゃ来いこっちゃ来い。来たらこの不動嚙行の一撃をくれてあげるから。


「ゲギョオオオオオオオオオオオ!!」

「往生せぇやああああ!!」


 これから自分の降りかかる悲劇を察したのか、カエルはジタバタ手足を振るうがまぁ意味はないわけで。力の限り振り下ろした不動嚙行は奴の脳天と叩き、更にはその勢いのまま地面へと減り込ませた。

 さて、カエルのHPは……よし尽きて消滅したね。ドロップアイテムは蝦蟇の油?あー何か聞いたことある。なんだったっけ?あ、回復アイテムなのこれ。でもこれだけじゃ回復量低いね。何かと掛け合わすのかな?


「ふぅむ、単純に強くなっとるのぉ。こりゃ結構楽勝かもしれんのぉ」

「ゲコォ」

「ん?」


 カエルの声?今さっき倒したはずでは?いやな予感がするんですが、もしかして私フラグ立てちゃいましたぁ?蝦蟇の油から視線を外して周囲に目を向けてみると……私を囲むようにパワフルホッピングフロッグがいるじゃありませんか。

 え、ちょ、ここのモンスターアクティブすぎません?いやもしかして……存在強調とかも強化されてないかこれ!?


「「「「「「ゲコォオオオオオ」」」」」」

「あーもう!かかってこいやああああああああああああああ!!」

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