第154話 ファッションヤンキー、またゴリラと殴り合う

「シッ!」

「ウホァッ!」


 私とゴリラが森で出会った。そうなってしまえばやることは1つ――互いに合図を必要とせず駆け出し、目の前の存在に拳を叩き込んだ。私の拳は奴の懐に減り込み、奴の拳は私の顔面を捉え、互いを退かせた。ゴリラはダメージを負ったはずなのにどこか楽しそうに口を歪める。もしかして今の私も笑っているのかな?

 それを皮切りにラッシュの応酬の始まりだ。私は不動嚙行やバンテージを装備せず龍拳のみを発動させる。対するゴリラも初っ端から電撃モードだ。……ん?待って君それHPが僅かになったら発動する発狂モードじゃないの?普通に痛いし。まぁこちらから殴る分には龍拳の状態異常無効効果があるから大丈夫。殴られた箇所?痺れますとも。気合でカバーしてるよ。

 ただまぁ……殴り合いにプラスで龍拳のスリップダメージは結構きついかもしれない。HPゴリゴリ削れちゃう、ゴリラだけに。


「うぉらああああああああああああああ!!!」

「ウホオオオオオオオオオオオオ!!!」


 だが、殴り合いを止めるわけには行かない。私もゴリラも今最高にハイになっている。こんな楽しい時間を止めるなんて悪魔のすることだ。如何に聖人だってこんな素晴らしい時間を止めちゃいけないんだ。

 ってか殴り合いに集中しすぎて忘れていたけれど、リアンはどうしているだろうか。私としては雄姿を見ていて欲しいが、ゴブリンに対してあのビビり様ならそこら辺の草場に隠れているのかもしれない。とは言え今気にする余裕はないんだけどね。


 気付けば私の体力は残り半分を切っていた。恐らくゴリラの方もHPは後僅かだろう。って言うか僅かなはずだ。龍拳で私ATK上がっているはずなんだよ?単純に倒すスピード早まってもおかしくないはずなんだよ。なのに体感早まった感じがしない。もしかしなくてもこいつもまた強くなったりしてる?

 疑問に思いながらも攻撃し続け……ついにその時が来た。奴がどうかは分からないが、私は次が最後の一撃だと察した。互いの拳が交差し――私の拳は奴の顔面を捉え、奴の拳は私の顔面を掠めるだけに留まり、最後の力を振り絞ったゴリラは白目を剥き倒れた。


"ワンズフォレストのBOSS コング・コング・コング を討伐いたしました。"

"ボスを討伐いたしましたので10分間、半径20メートル間にモンスターは発生いたしません。"


 ふぅ、勝てた勝てた。ゴリラが最初から発狂モードだったお陰で中々苦戦させられたけど勝てて良かった。これで負けたりなんかしたらリアンに恥ずかしいところを見せるところだったよ。

 さて、リアンはーっと……あれ?


「なんじゃあ、近くにおったんじゃのぉ」


 そう、驚いたことにリアンは逃げていなかった。それどころか結構近くにいた。そんでもってその顔はゴブリンに恐怖していた時のものではなく、まるで私と会った時のようにとても輝いていた。何その落差。


「アネキ、滅茶苦茶格好良かったっス!!」

「そうじゃろうが」


 称賛は素直に受けとる。実際今の私は自分で言うものなんだけど中々に泥臭くて格好良かったのではないだろうか。結構理想的なヤンキー喧嘩出来た気がする。


「リアン、俺みたいになりたいか?」

「なりたいっス!」

「なら、どうすべきかは分かるじゃろうが」


 私の問いにリアンは少し目線を落とし「ハイっす」と小さい声で答えた。それでもやっぱり怖いみたいだ。まぁすぐに恐怖が克服出来たら世話ないよね。


「俺になり切ってみぃや」

「アネキにっスか?」

「そうじゃ、リアンとしてじゃなくお前の中の理想のオウカとして戦ってみいや」

「いやいやいや!自分なんかが――」

「いいからやりぃや。それとも何なら。お前の中での俺はゴブリンの前でへっぴり腰晒すんか?」

「そんな訳ないっス!」


 おっと、力強く否定したな。実際ゴブリン程度にはビビらないけどね?


「じゃあそんな俺を真似してみぃや。強者の皮を被ってみぃ。まずはそこからじゃ」

「アネキの皮……」


 その言い方止めて?私の皮被って成り代わる感じするんだけど?

 少しは効果があったかな?リアンはぶつぶつと呟いてはいるが、そこに先程までの恐怖は感じられない。このモンスターが発生しないフィールドが消えたら今一度森を探索してみようかな。

 ……たださぁ、今このフィールドにいままでではありえないものがあるんだよね。


「何で消えとらんのんじゃろうか」


 倒したはずのコング・コング・コングが消滅せずにその場に留まっているのだ。

 大抵のボスはアイテムをばら撒きながら消えるのが常だ。今まで倒したコング・コング・コングだって例外じゃなかったはずだ。それが今こうしてこの場に存在し続けている。


「もしかして……生きとるんか?」


 不動嚙行でツンツンしてみると……うぉお、倒したはずなのに普通に起き上がった。後ろでリアンの短い悲鳴が聞こえる。まぁ、ビビるよね。

 私とコング・コング・コングの視線が交差するが、奴の目には敵意を感じられない。寧ろ私を見るその眼には知性が垣間見える。


「ウホホ」

「いや、ウホホ言われても」


 申し訳ないけどゴリラ語は履修してないんだ、すまんね。いや、お前何驚いてるんだよ。お前もしかしてあれか、私のことゴリラと思ってたということか?お?喧嘩売ってんのか?

 凄んでみるとコング・コング・コングは違う違うと言いたげに顔の前で両手を振る。何でそんな人間臭い動きしてるんだお前?うん?何か差し出してきた。


「受け取れ言うんか?」

「ウホッ」


 私の問いに頷くコング・コング・コング。まぁくれるというのなら貰っておこうか。

 それを受け取ると、コング・コング・コングは満足したように頷き、「ウホッ」と短く鳴き片手を上げると、素早い動きで森の中へと消えていった。


「何じゃアイツ」


 よく分からんコング・コング・コングの一連の行動に首を傾げながらも私は奴から受け取ったアイテムに目を落とす。


"森の賢者の手形を入手しました"

"スキルチケット雷獣化を入手しました"

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