第153話 ファッションヤンキー、妹分のために

 無事、クラスアップクエストを受けることが出来た。達成条件はリアンの職業を"ヤンキー"にすること……悪いことさせればいいんじゃないですかねと思ったけどそれだと犯罪者になっちゃうね。実は私自身どうしてヤンキーになれたかは定かじゃないんだよね。それっぽく振舞ってレベル上げたらそうなったとしか。少なくとも戦闘はしなきゃいけないよね?


「おうリアン。お前レベルはなんぼなら」

「2っス、アネキ!」

「2」


 思った以上にレベルが低いことに驚いたが、許容範囲内だ。当たり前だけど私だってレベル1からヤンキーになれたんだもんね。となると次は装備関係だ。ボロ着のリアンだけど実は武器を持ってたりは……


「武器は持っとるんか?」

「ないっス!」

「防具は」

「ないっス!」

「スキル」

「ないっス!」


 予想通りだったけどアカン。この子始める当初の私よりハードモードでは?私でもメリケンサックと威圧眼あったよ?よくそれでヤンキー目指そうと思えたねぇ。まぁいいや、クラスアップの為なら多少の出費も問題ないでしょ。そもそも何の装備も持たせずにモンスターに挑ませるのは人として宜しくない。リアンにはまず武器として私の使っていた初心者用メリケンサックを贈呈した。


「家宝にするっス!」

「頼むけぇ使ってくれ!」


 冗談じゃなく本気で家宝にしそうだったので全力で止めました。これで武器はOKだろう。続いては防具……これもあげれるもんならあげたいけど、これに関しちゃおさがりは無いんだよね。私この学ラン脱いだことないから。となるとだ。頼れる人はただ1人。早速メッセージを送ってお願いだ。



「ほら、御注文のヤンキーファッション一式だ。それと旗はもう少し待ってくれ。今、デザインを詰めている」

「すまんのぉ、竹輪天さん。旗はゆっくりでええけぇ、出来たらメッセージ送ってくれや」

「了解だ。イビルシープの極羊毛も貰ったし、この学ラン装備は割り引かせてもらおう」


 私の学ラン装備を作ってくれた竹輪天さんに相談してみたらあっさり売ってくれた。聞けば私が装備しているものとほぼ同じの量産品を彼の店で取り扱っているらしい。ほぼ同じと言うのは見た目だけでセット効果は付与されていないらしい。それ故安く済んだというのもあるけど。その量産型を着ているリアンは今凄いノリノリで鏡に向かってポーズを決めている。流石の私もそこまではやったことないが?

 ところで……


「このヤンキーファッション、売れとるん?」

「あぁ、結構売れているぞ。ただ冒険用ではなく、学パロSSを撮るためようだな」

「そっちかぁ」


 学ランだしね、分からないでもない。

 これでリアンは見た目だけならヤンキー……彼女の溢れ出る純粋さがヤンキーさを打ち消している。いやほら、ヤンキーは見た目じゃなくて心構えとかそんなとこあるから。

 次はいよいよレベル上げだね。


「おらリアン行くぞ」

「あぁっ待って欲しいっスアネキ!あとちょっとでポーズ決まりそうなんス!」


 お前がやってるポーズ、ヤンキーはヤンキーだけど幽体従えてるタイプのヤンキーがしてる特殊なポーズじゃないか!それ一般的じゃないから!ヤンキー座りにしときなさい!ってか何でゲームの住人が知ってるんだよ。



「ア、アアアアニキ……」

「アネキじゃ言うとるじゃろうが」

「ででで、でもアレ」


 そう震える声で言い、リアン恐る恐る視線の先の存在を指さす。そこにいたのは――何の変哲もない1匹のゴブリンだ。付け加えると私見て腰抜かしてズッコケている状態のね。リアンちゃん、君は何でビビって腰抜かしている相手にビビって及び腰なのかな?


「強くなりたいんじゃろうが」

「ハハハハハイ」

「ならあれぐらいぶん殴れるようになれや。倒せとは言わん、殴れ」


 突き放すように、少し強めに平手でリアンの背を叩きゴブリンの前へと押し出す。不意の衝撃にもたつきながらも、彼女はゴブリンの前に辿り着く。依然として震えあがっていたゴブリン。だが、目の前に現れたのは自分と同様に震えているリアン。

 リアン相手なら勝てると思ったのかゴブリンの目から恐怖が消え去り自信満々に立ち上がりその手に持っていた棍棒を振り上げる。攻撃される、その瞬間でも彼女は動けずにいた。私のようにわざと受けるためじゃなく、純粋に恐怖で動けないようだ。

 舌打ちを打ち、暴龍眼発動する。発動した瞬間、ゴブリンの視線が再び私に向いた。するとゴブリンはそれはもう恐ろしい物を見たかのように顔を恐怖で歪んだと思えば、白目を剝き倒れた。

 暴龍眼って力の差があれば気絶までされられるんだな……思わぬところで勉強になりました。


 まぁそんなことよりも……リアンだね。恐怖心から膝をついて蹲っているリアンの服を掴み上げ、無理やり立たせて私の方に向かせる。


「リアン」

「ア、アネキ……すいません、自分……」

「怖いんか」

「怖くなんか……」


 強がりにしては無理がありませんかね。


「ハッキリ言うけどの、ビビるような奴はヤンキーに向いとらん」

「そんなっ!」

「そうじゃろうが。ヤンキーは殴られたら殴り返す。いや、殴られる前に舐められたら殴るくらいの気概がないと務まらん」


 こういう時さー格好いいこと言ってビシィッと決めるべきなんだろうけど、私にそんなアドリブ力ないんだよね。なんだよヤンキーの気概って。こちとらファッションヤンキーやぞ?どうやってリアン元気づけて恐怖心なくさせようか。とりあえずそれっぽい事言っておこう。


「喧嘩を楽しめや。少なくともその服を着とる間はのぉ」

「楽しむ……?」


 リアンが私の言葉をオウム返ししたその時だった。私の耳にある音が届いた。ガサガサと草を掻き分ける音だが、私は経験則からその音の正体を悟り、感謝から口角が上がった。


「アネキ?」


 私が笑みを浮かべたことに気付いたのか、リアンが不思議そうな声を上げる。そんな彼女を後ろに放り投げ、私は音のする方向を向き、それに向かって言葉を吐いた。


「久しぶりじゃのぉ、ちょっと今妹分がおるけぇよ。喧嘩付き合えや」

「ウホ、ウホホホ」


"ワンズフォレストのBOSS コング・コング・コング と遭遇しました"

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