第152話 ファッションヤンキー、請われる
「おいガキ」
「リアンって呼んで欲しいっスアニキ!」
知り合いの狼魔法少女を幻視してしまうから、そんな目キラキラさせて迫ってこないでもらえますかね。まぁ目の前のリアンという子はヒューマみたいだけれどね。
どう逃れたものか、とりあえず定番の誤解から解消しておこう。
「アニキと呼ぶな。俺は女じゃ」
一睨み聞かせて凄むように伝える。女の子である事は驚いたけど、猶更私の強面は効くだろう。精々怯えて腰抜かせてついてこようだなんて思わないでくれれば……
「これは失礼しましたっス!でもアニキも……じゃなかった、アネキも自分を男と間違えてたっぽかったからお相子っスね!改めて自分を妹分にしてくださいっス!」
え、何この子。意識していないとはいえ、暴龍眼見てもビビった様子すらないんですけど?メンタル強すぎない?寧ろ更に迫ってきたんですけど。
んー、どうしたものか。私のロールプレイは一匹狼なヤンキー。そういうキャラに限って慕われて付いてくるキャラがいるというのもまた定番なんだけど……よし、一度突き放そう。私の返答を撫でてもらうのを待つ犬のようなリアンの後ろ襟をつかみ持ち上がる。うわ、リフトアップ使ってないのに、何の抵抗もなく持ち上がった。この子、軽いな。
「え、なんスか?なんスか?」
「俺に妹分はいらん」
「ふぎぇっ」
「じゃあの」
流石に投げつけて怪我させるのは違う気がするので、私の目線の高さまで吊り上げそのまま手を離し、落とした。咄嗟の出来事にリアンは対応しきれず、上手く着地できずにすっころんでしまう。私はその隙にさっさとその場から離れる。全く、私みたいなヤンキーになんて憧れずにもうちょっとまともなプレイヤーに指示仰いでくれないかな。
ま、折角助けたんだ今度はリンチに遭ってないことを祈るよ。
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「追いついたっスよアネキ!」
普通に追いつかれました。いや、私のDEXの低さを忘れていたわけじゃないですけどね?そこ追いつきますか?せめて一日経過してから見つけない?何で振り切ってから5分も掛からないうちに見つかっちゃってんの?ってかリアン足にしがみ付かないでもらえる?
「離れぇ」
荒っぽく足を振るうと「うひゃー」だの楽しげな声を上げてリアンが吹っ飛び――すぐにこっちに戻ってきた。君やっぱりビーストの血入ってませんか?実は尻尾とか生えてるんでしょ?呆気にとられてるうちにまたしがみ付くのもやめなさい。
「俺に教わらなくとも他のヤンキーじゃない強いプレイヤーならいくらでもおるじゃろうが。」
「嫌っス!自分はアネキがいいんス!」
「知らん知らん!そもそもヤンキーなんて憧れるもんじゃねぇわ!」
「じゃあ何でアネキはヤンキーなんスか!」
「……」
アカン、今この状況で馬鹿正直に「ヤンキーに憧れたからヤンキーやっとるんじゃ」は流石に恥ずかしすぎる。憧れるな言っておいてその理由は恥ずかしすぎる。正論で言ったつもりがとんでもないピッチャー返しが来ちゃったよ!
「お、俺はあれじゃあ!なるべくしてなったんじゃ!」
「自分もなるべくしてなりたいんス!」
「……何でそこまで拘るんなら」
普通に考えてヤンキーなんて目指すものじゃない。増してや遊びでやっているプレイヤーじゃなく住人がだ。しかし、リアンはそれを伏して私に教えを請いている。その理由が知りたくなったのだ。さっきのリンチも原因の一つかもしれないが、それだけでヤンキー道を進むとは考えにくい。
リアンは私の言葉に一時、視線を落とした。が、やがて決心したように顔を上げ――告げた。
「アネキが格好良かったからっス!」
はい?
「アネキがあの輩どもをあっさりと追い払ったその迫力!自分とても感銘を受けたっス!同時に思ったんス!自分はこの方について行きこの方のようにあるべきだと!」
あ、深い理由ないわ。マジで純粋な憧れだわ。
うーん、憧れるというのは気恥ずかしさはあるけど、少し嬉しいものがあるなぁ。けれど私の中の天使が告げているんだよね。「住人を悪の道に引き込んではいけません」とまぁ「ヤンキー仲間増やしちゃえよ」って悪魔もいるんだけど。今のところ天使が優勢かな。
そのまま天使に従ってどう断ろうと考えようとしたところで私の目の前にウィンドウが表示された。ん?クラスアップクエスト?なにこれ
"クラスアップクエスト 無頼の輩 が発生しました"
"クラスアップクエストとは、その名の通り現在の職業の上位職へと進化するためのクエストとなっております。職業によっては予想もつかない場所で発生する場合もございます。クエスト内容・クエスト結果によって進化先の職業が分岐する可能性もございます。"
"例 剣士→道場にて発生するクエスト→侍 剣士→騎士団によって発生するクエスト→騎士"
すんごい重要なクエストが発生したんだが!?え、ヤンキーって進化するの!?何に!?
はい、私の中で今悪魔が天使の顎にアッパーカット決めちゃいました。脳を揺さぶられた天使は敢え無く膝から崩れ落ち……K.O.
「お願いしますっス!どうか自分を妹分に――」
「勝手にせぇや。ついてこれんかったら置いてくけぇの」
足にしがみ付くリアンを振りほどき、私は歩き出す。
遠回しの承諾に、リアンは反応が遅れたようだが、すぐに背後から元気な声が聞こえた。
「はいっス!これからお世話になるっス!」
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