第150話 ファッションヤンキー、腕に起きた変化

「よしよし、だいぶ慣れてきたのぉ」

「メメーッ!」

「だまらっしゃい!」


 私は今日10匹目のイビルシープの顔面に裏拳を叩き込んだ。こいつら、イビルなんて名前付いているくせに羊毛は滅茶苦茶ふわふわで打撃ダメージを激減させている。であれば私は不利か?なんてことは無い。打撃がダメなら不動嚙行の斬モードで斬りゃいい話だし――そもそもイビルシープ顔面は毛に埋もれず露出してるんだよね。そりゃ殴る。

 まぁそれでもHP結構あるから一撃で倒すってのは無理だけどね。

 でだよ。イビルシープ狩りのついでに折角だしダリグリカ戦で手に入った龍拳を使ってみることにしたんだよ。


龍拳 パッシブスキル

拳の硬度が増し、攻撃時ダメージに補正が入る。

また、このスキルを意識することで真の姿となり、その状態の場合、手から腕に接触した状態異常は無効となり、30秒ごとに2ダメージ受ける


 最初の一文は鉄拳と一緒だったんだけど、問題は次だった。真の姿……嫌な予感がしながらも書かれてある通り龍拳を意識してみた。すると――何と言うことでしょう。腕にむず痒い物を感じ学ランの袖を捲ってみると、まぁビックリ!蛇みたいな黒い鱗が生えてた。手の方も薄汚れたバンテージを外してみたら、まーこっちも鱗ですわ。もっと言うと、爪も黒くなってる。


「人外化が進んどらんか?いずれ身も心も龍に変貌とか……龍版山月記かのぉ?」


 それだけは勘弁してほしいなぁ。もしそうなったらキャラロストとか?もしくは、そうロールプレイングをしなきゃならなくなるか。やだやだ、私まだヤンキーやっていたい!

 とは言えこのスキル自体は有用なので使いはする。手と腕限定だけど接触した状態異常無効は普通にヤバいのよ。異常が見えてきたら使うのは控えようかな。


「なぁ、あいつの手なんか変じゃね?」

「そうか?よく見えないけど」


 おっと、遠巻きに見てるやつがいたのね。慌てるのは格好悪いのであくまで落ち着いた様子で袖を戻しバンテージをまき直し、暴龍眼を発動させないようにして一睨み。私に睨まれた2人のプレイヤーは慌てて目を逸らし足早に去っていった。さて、狩りの続きっと。中々イビルシープの良羊毛落ちないなー……後3つでいいんだけど。



 何とか必要数まで達したけど、なーんで一番ドロップ率の低いはずの極羊毛が連続でドロップして良羊毛にこんなに時間かかるんですかねぇ!運がいいのか悪いのか分からないよ!

 まぁいいやクエストは無事クリアしたし、こう言うこともあるということにしよう。メッセージを確認してみるけど竹輪天さんからの連絡は無い。であればどうしようかなーっと……おん?何かこちらの方からー穏やかじゃ無さそうな声が聞こえるなーっと。

 喧騒が聞こえてきたのは大通りから外れた荒れた小道。数人の男が何かを囲むようにして立ってる。ふむ、見る限り住人のようだね。なにやってんだろ。


「おいおい、どうしたんだよ数発殴っただけだろ?」

「ハハッ、ヤンクンやり過ぎだろーこいつ立てなくなってんじゃん」

「こりゃ俺達が毎日鍛えてやんねぇといけねぇかなぁ?」

「そいつはいい!俺達はストレス解消できてこいつは体を鍛えられる!winwinって奴だな!」


 はい察しました。この男たちの中心にサンドバッグにされてる奴がいるのね。

 んもー、ゲームの世界でもこういう輩はいるんだねぇ、やだやだ。さて、リアルの私だったら隠れて通報なりしたんだろうけど、この世界での私はヤンキーだ。取るべき行動は1つ――


「よぉ!楽しそうなことしとるのぉ」

「……あぁん?ンだてめ……ッ!?」


 私の声に反応して不愉快そうな顔を浮かべた男がこちらを振り向き、私の顔を視線に捉え息を呑んだ。

 続いて他のならず者達もこちらも向いたがどいつもこいつも一様に驚いてくれた。


「俺も混ぜてくれんかのぉ?」


 出来るだけ凶悪そうな笑みを浮かべると、ならず者たちはカクカクと壊れた人形のように頭を縦に振ると道を開けるので、円の中心へ歩みを進める。そこに横たわっていたのは、顔にいくつもの痣を付け、服もボロボロになった少年だった。

 眉を顰めたくなるほどに凄惨な状況。殴ったのは1発2発では収まらないだろう。

 でさ、こいつら道を開けたということは私がこの少年を殴ると思ってるのかな?違うんだなぁ。

 私は振り返り、とりあえず一番近くにいた男に近づき――


「ど、どうした?殴んねぇのか?」

「おぉ、殴るぞ?――お前らをなぁ!」

「ぶあっ!?」


 私がそう行動に移すと何となく分かっていたんだろう。漢が防御しようと腕を交差させようとするが、それよりも私の拳が早い。漢の顔面にストレートパンチを叩き込んだ。本当は龍拳を発動させたいところだけどね、もし頭パーンさせたらと思うと……怖い。

 私のパンチをもろに食らった男は意識が刈り取られたのか、何の抵抗もなく地面に倒れ込んだ。

 さて、周りの男たちは突然の出来事に動揺している。そんな奴らに私は声を掛ける。


「さっきと状況変わらんじゃろ?1対多じゃ、さっさとかかってきんさいや。おどれら、しごうしちゃるけぇよ!」

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