第149話 ファッションヤンキー、散策する

 あの後、フェリーン達御一行の御威光もあり私は門番の皆さん方に訝しげな顔を向けられながらも無事トレトゥスに入ることが出来た。早速街を探索したかったところだけど――残念ながら本日のゲーム時間はここまで。


「んじゃあ俺ぁそろそろ落ちるわ」

「あ、じゃあ私も落ちる!リアルお腹減って来ちゃった!」

「落ちる……?あぁ、渡界者の方は消失してお眠りになられるというのは聞いたことありますが、それなのですね」


 住人側から見たらそうなってるのね。目の前から人が突然消えたら事情の知らない人はビビりそうなものだけれど、住人はもう慣れてるんだろうね。

 シャドルは「じゃあね!」と手を振りさっさとログアウト。私もそれに続きログアウトしようとしたその時、不意にウィンドウを操作するもう片方の手をフェリーンがそっと包み込むように握った。え?何?


「オウカ様、此度はありがとうございました。貴女のお陰で私は命を救われました。」

「お?おぉ、それはもう気にしんさんな。あの時も言ったが、気に喰わん奴がおっただけじゃ」

「えぇ、それでもです。是非、我が隠れ里に着くことになれば、私をお尋ねくださいませ。黄金龍様にお取次ぎさせていただきます」

「おぉ、その時は頼むわ」


 花が咲いたような笑顔で告げられ、私も笑って返しログアウトした。いやー、黄金龍に会える繋がりが出来ちゃったなー。クエスト受けて良かった。でも――隠れ里って滅多に見つからないから隠れ里って言うんだよね?ヒント言ってなかったよね?……いつになるんだろう。



 翌日、ログイン。もしかしたらログインしたら目の前に昨日と変わらずフェリーンがいないかなーって淡い期待を抱いたけれど、そんな上手い話もなく、通り過ぎる人の背中しか見えなかった。

 立ち止まっていては通行人の邪魔になるため一旦端に寄りトレトゥスを見渡してみる。うん、今までのどの街とも規模が一回りも二回りも違う。道行く人――この場合は住人――の数も多い。


「都会じゃのぉ……」


 あれ?これだと私、田舎から上京してきたイキったヤンキーなのでは?「都会で一旗揚げてやるぜヒャッハー」的な。うーむ、その場合展開は2つだね。共通するのは都会のヤンキーに「テメェ見ねぇ顔だな」とかなんとか絡まれて喧嘩になる。分岐点はここ。だ。まず1つは普通に返り討ち。もう1つはボコられちゃってボロ雑巾みたいになったところに「俺も混ぜてくれよ」みたいに1人のヤンキーがやってきて集団ヤンキーをボコる。この場合、上京ヤンキーはその助けてくれたヤンキーをアニキと呼んで鬱陶しがられながらもついて行く……というのがある。いや、私は前者だよ。後者にはなりたくない。

 まぁこんなものは妄想だよ妄想。実際そんな面白い展開があるわけないじゃん。とりあえずトレトゥスを歩いてみますかね。そんで教会を見つけ次第祈りでも捧げとこう。リスポーン地点登録しとかなきゃね。


"トレトゥスの教会をリスポーン地点として登録完了いたしました。これにより、ドヴァータウンの教会のリスポーン地点の登録を解除しました。"


 すんごいあっさり見つかりました。いやー、街の規模も違うと教会の規模も比例して豪華になるのは当然か。人に聞かずとも見つかるというのはいいね。どうせ聞いても怖がられる可能性高いし。

 さてと、登録は済ませたしぶらりトレトゥスの旅を再開……あれ?あそこに見える周りから頭一つとびぬけた長身の見慣れた顔は……


「おーい、竹輪天さん」

「む、オウカか。久しぶりだな。」


 声を掛け手を振ると、あちらも私に気付いたようで小さく手を振りながら近づいて来た。

 相も変わらずの長身でお洒落なエルフさんだこと。現実に居たらファッション誌の取材来るのでは?


「君の服を手掛けた私が言うのもなんだが、背の高さ・目つきの悪さも相まって出で立ちは目立つな。とてもよく着こなしている」

「目立つという点では竹輪天さんもじゃろうが」

「自覚はある」


 自覚あるんだ。


「っとそうだ。竹輪天さんにお願いがあるんじゃけど……これにデザイン描いて欲しいんじゃけど」


 そう言って私が取り出したのは職業おしゃれボックスから出てきたアイテムのうちの1つ、旗棒だ。今は何の絵も描かれていない白旗。竹輪天さんならこの旗にデザインを描き込めるのではとそう思った次第だ。

 白旗を受け取った竹輪天さんは顎に手を添え思考し始めた。


「なるほど、中々大きいな。旗のデザインは初めての依頼だが……うん、可能だ。ただヤンキーっぽい旗と言えば旭日旗だが」

「ちょっとそれはパスで。何かいろいろ怖いけぇ」

「了解だ。何かリクエストあればそれに沿るが?」

「そうじゃのぉ。やっぱ俺のイメージの桜とこの龍は欲しいかもしれん」


 学ランの背中を指しながら言うと竹輪天さんも「それはそうだな」と特に反論もなく了承してくれた。


「文字は何か入れるか?"喧嘩上等"とか」

「喧嘩上等はちょっと……」


 別に周りに喧嘩売りたいわけじゃないしなぁ。

 犀繰に挿す予定だし、それに合わせた……そうだ


「"神風"で!」

「分かった。では早速制作に入らせてもらおう。出来次第メールでいいか?」

「おぉ、俺はここに来たばっかじゃけぇしばらくはこの街におると思うわ。メールが来たら早く受け取りに行けると思うわ」


 その後、料金の相談をし私と竹輪天さんは別れた。

 私の装備一式を作ってもらったことから、竹輪天さんのことは信頼している。旗がどうなるか今から楽しみで仕方ない。

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