第128話 ファッションヤンキー、友と会う

「な、なぁ!アンタその目はどうなって――」

「情報屋に聞いてくれや、アイツに高く売ったけぇよ」


 情報屋のアジトから出てから私は何回この台詞を告げたことでしょうか。

 ぱくあぷさんさんとの戦闘後の周りの反応からこうなることは予想出来てたけどここまでとはね。情報屋が「絡まれたらこう言っとけ」と教えてくれたこの言葉は非常に効果がある。言えばみんな苦々しい表情して離れてくれる。時には食い下がろうとするけど……そうなれば情報屋第二のアドバイス「不機嫌そうな顔して一睨みすればいいぞ」ってことで睨むと青い顔してあっさり退いてくれる。


「にしても……これどうすかのぉ」


 そう呟き私はステータス画面に表示された項目に目を向ける。所持金のところなんだけれども。

 犀繰でさえ大きな買い物だったはずなのに、その10倍だからね?使い道にちょっと困る。道具を買い漁る……うぅんこのゲーム、流通とかそう言うのあるから買い過ぎると物価が上がったりしていいこと無さそう。よし、一旦保留ね。宵越しの金は持たないって言いたいところだけど規模が違う。

 さて、再びイベントに潜りましょうかねーっと。暴龍眼の検証もしたいしねー



「安定性が増したのぉ」


 暴龍眼大活躍でしたとも。そんで何回か使ったことで分かったことが。最初、ぱくあぷさんに使った時、行動阻害だけじゃなくて喋られなくなっていたあの状態。あれが恐慌状態ってものらしい。口が一時的に利けなくなり、言葉がトリガーのスキル及び魔法が発動できなくなるし、言語でのコミュニケーションが取り辛くなる。私、ソロだから後者はどうでもいいけどパーティからしたら溜まったもんじゃないよね。対象が司令塔なら猶更ね。

 さて、レーザーの方だけど曲げることは出来なかった。発動させたら一直線に進んで、一定の距離に達したら消滅する。それまでは貫けるものは貫いていく。ただ、貫くたび威力は落ちていくみたいね。ただねぇ……MPの問題的に乱発できない。ギリギリ2発って感じ。でも1発撃てばそれだけでも警戒はさせられるね。それに、バンテージのMP極微吸収で上手くいけばもっと撃てるかもね。


 そんでもって面白いのが、マッチングしたみんながみんな暴龍眼のこと聞いてくるんだよね。だが残念だったな!その情報は情報屋で買ってね!値段は……高いんだろうなぁ、私にあんだけお金渡したんだもん。取り返せるほどの金額なんだろうなぁ、考えたくない。

 さーてと、そろそろログアウトしよかなーって何か背後から走ってくるような音が聞こえる。また情報聞き出そうって輩かな?少しイラっとしながら振り向き、音の発生源を確認したところでそのイライラは霧散した。


「オウカああああああああああああああ!!」

「お前かぁ、シャドル」


 はい、全力でこちらに駆けてきたのは狼みたいな尻尾ぶんぶんとさせたシャドル。走ってくるのはいいんだよ?でも近づけば近づくほどスピードって緩めないかな?なんであなたはトップスピードのまま近づいて待ってそろそろぶつか


「おぶっ!」

「わひゃー!」


 もはやハグじゃなくてボディタックルですよ、これ。私じゃなければ吹っ飛んでいたが?倒れもせずに受け止めた私を褒めて欲しい。しかも腹だけじゃなくて顔にも衝撃が来たんだが?そのせいで今お空が見えます。お腹は分かるよ?シャドルだもん。小さいからね、頭が丁度腹に来る。だけど、顔は何故?理解が出来ないまま上に向いていた顔を正面に戻すと、見知らぬものがあった。


「ヒヨコ?」

「クルルルァ……」


 目の前で浮いている、いや羽ばたいてるし飛んでる?それは大まかに言えばヒヨコなんだよね。まん丸で嘴生えてるし。でもそれはあくまで大まか。ヒヨコは普通黄色だよね?大昔にはカラーひよことかいうヤバいのがあったらしいけど、目の前で飛んでるこのヒヨコ、紫色なんだよね。目の辺りに黄色と緑色のラインも入ってるけど。

 そもそもヒヨコって飛ばないよね?間違っても「クルルルァ」なんて鳴声出さないよね?


「うっわー!すごい!近くで見るとなお凄いねオウカ!格好いい!もう掲示板オウカの話で結構持ちきりだよ?」


 私の困惑に気付かず矢継早に言葉を紡ぐシャドル。あぁ、相変わらずだなぁ……ある意味安心できるけどさ。しかし、掲示板にも書かれてるのね。いい話題の種だろうし、そこはしょうがない。

 そういえばぶつかった衝撃で気付かなかったけど、シャドルの装備最後に会ったワールドクエストの時と変わってるね。……あの、君魔法職なんだよね?魔法職って基本後衛だよね?そんな戦場駆け巡りそうな装備しないよね?格好いいけども。


「まぁ、のぉ。この目に関しては流石に内緒じゃけど」

「あー、情報屋案件ね!了解了解!買うから!」


 買うのね。


「で、シャドル。このひよこ……ひよこ?」

「そう、この前の卵が孵ったの!」

「あぁあれかぁ……」


 高額のプレゼントボックスをシャドルが開けてそこから出てきた卵。ワールドクエストの時は、卵から羽根だけ出ている状況だったけど無事孵ったのね。それでよ、一番聞きたいことを聞こうかな。


「こいつ種族とかあるん?」

「分かんない、種族名ひよこ!」

「ひよこが種族名なん?」

「そう!名前はシギョク!毒を吐くよ!」


 そうか、シギョクね。毒を吐く、ね。え?こいつ喋るの?件のシギョクに目を向ける。再度「クルルルァ」と鳴いたそいつはペッと何かを吐き出しそれは私の足元に落ち――短く焼けるような音を立てて煙を立てた。

 ……えっ、毒を吐くって物理的な意味で?

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