第127話 ファッションヤンキー、情報を売る

 辛くもぱくあぷさんに勝利した私。HPのある相手に暴龍眼のビームを撃つのは初めてだったけど命中した上に倒せてよかったよ。ただ、発光からビームまでの切り替えは練習が必要だね。理想としては光ってない状態から即ビームを放つこと。今回はぱくあぷさんが油断してくれたから当たったようなものだけど、あんなにあからさまに光っておいて何もしないって思う相手は少ないだろう。警戒させて一直線のビームを避けられるのが関の山だ。MPの問題もあるからね!

 さて、今後の課題を決めたところで……


「で?その眼どうやって手に入れたんだよ、ヤンキーちゃん?」


 分かっていたことだけど、戻ってきて早々情報屋に絡まれました。対戦前から迫ってきてたもんね。出待ちするよね、そりゃ。ってか思った以上にグイグイ来るなぁ、トルネイアの事について話した時以上の食いつきだ。

 別に情報を秘匿したいわけでも無いし、話すのは吝かじゃない。それに情報屋のことだから高く買い取ってくれるのだろう。それならば話してあげようじゃないか――そう思い口を開こうとしたところで情報屋に口を抑えられた。


「もごっ……何するんなら」


 不満の声を漏らす私に情報屋は、私にだけ聞こえる程小さな声を発した。


「いやいや、ヤンキーちゃん。話してくれるって事でいいんだよな?」

「お、おう」

「じゃあここじゃあ不味いな。いい場所があるからついてきな」


 場所を変える?その意味が一瞬分からず、疑問の声を上げようとしたけど、数人のプレイヤーが、それぞれ一定の距離を保ちながらこちらに背を向けていたのが見えて口を閉じた。これはあれか、盗み聞きしようとしてるのね。それで情報を売りさばく情報屋としてそれは防ぎたかったと。

 その意図を察した私は黙って頷き先導する情報屋の後に続いた。辺りにいたプレイヤーもついて来ようとしたが、振り向き一睨みしたら硬直しちゃった。……あぁ、睨んじゃったから暴龍眼発動しちゃったか。



 情報屋に案内されてついて行った先は、奴と最初に出会った小路の行き止まりだった。ここで話すのかと思いきや、情報屋が行き止まりに手を当てた。するとただの壁だったはずのそれは、一切の音を立てず引き戸のように横にスライドした。その先は行き止まりではなく、細道が続き、その先に光がライトによって灯された部屋が見えた。


「ようこそ、俺のアジトへ」

「え、えぇ……?」


 困惑する私を尻目に、さっさと奥へ進む情報屋。慌ててついて行き、壁ではなく扉だったそれを通り過ぎたところで、扉は自動的に閉まった。……自動ドア?いや、こんな現象、私は見たことがある。


「クリカラのドア開けゴーレム?」

「そうそう、隠し扉に便利なんだよ。いやー、それにしてもヤンキーちゃんをここに招くことになるとは。いずれとは思ってはいたけどな」


 通された部屋は――何かすごい量の紙が敷き詰められていた。これってもしかしなくても、情報屋がこれまで集めてきた情報とか?でも、あいつ気にせず踏みながら進んでるけど……って待て?踏んで進んでいる割に紙を踏む音聞こえないんだが?


「あぁ、それそういうデザインの床ね」

「ややこしいのぉ!?」


 ほんとだよ、よく見ればただの絵だよこれ!需要無さそうな床のデザインだなぁ!?

 にしてもここ……まさに探偵事務所って感じだな。それも外国ものの探偵事務所。テーブルも椅子も雰囲気がある。けどその部屋の主が黒ローブに身を包んで、顔も隠してるってのはミスマッチでは?


「じゃ、ヤンキーちゃんそこに座ってくれな」

「おぉ」


 言われた通りに椅子に座り、テーブルを挟んで私と対面するように情報屋も椅子に座る。


「んじゃあ情報について聞かせてもらいたいんだけど……まず、俺の予想。その目の周りの鱗っぽいのを考えるに、龍関係。ヤンキーちゃんならトルネイアが関係してるな?」


 私は頷くことで、情報屋の言う予想が正しいことを示した。トルネイアのことは既に話してるからね。結びつけるのも訳は無いか。


「……トルネイアと戦って勝ってもらったとか?」

「冗談言うなや、あれには勝てん。お詫びのしるしで貰ったんじゃ」

「え?お詫び?」


 聞き返したくもなるよね、でもお詫びってのは事実なんだよ。とりあえず、入手に至ったまでの経緯を教えておこう。別にトルネイアは目について話すななんてことは一言も言ってなかったからね、大丈夫でしょう。


「うーん、この場合お詫びってのは一旦置いて、龍は好意的な相手に武器・防具・スキルいずれかを渡すことがあるのか」

「俺は消去法じゃったけどの」


 武器は合わないし、防具は女性的過ぎたからね、仕方ないね。

 

「んで、ヤンキーちゃんが貰ったスキルが何か変質して目がそんなんなっちゃったと」

「こんなんなっちゃったのよ」

「あれだ、好きな人は好きな目だな。――で、龍からの贈り物並みに重大なのがスキルがアバターに影響を及ぼしてるって点」


 情報屋が今まで集めてきた情報の中でもスキルを取得したら体に変化が起こったなんて事は無かったらしい。精々が体の周りにキラキラエフェクトが舞ったりするくらいらしい。それも大概だと思うけどなぁ?


「ヤンキーちゃん、そのスキル無効化できる?」

「え?出来るん?」

「パッシブスキルは無効化できるぞ?まぁ、縛りプレイする人くらいしか使わないから知らなくても無理はないか」


 情報屋に教えてもらった通りにメニュー画面を操作。スキルの欄を選んで"暴龍眼"……っと。おっ無効化ボタンあった。……あれ?えっと、"存在強調"を確認……おっとぉ?


「どした?」

「解除できん」

「え?マジで?」

「無効化ボタン自体はあるんじゃけど、透けとるんよ。他のスキルはハッキリしとるのに」

「一回タッチしてみたら?もしかしたら原因分かるかも」


 確かに。ポチっとな


"このスキルは、アバター依存のスキルのため無効化できません"

"どうしても無効化したければ、目隠しするか目を潰してください"


 勧めるの目隠しだけで良くない?なんで目潰しも推してるの?前者はともかくとして後者は絶対しないよ?


「目隠しするか、目潰ししろって」

「え、怖」



「いやぁ、良い情報が手に入って俺は満足だ!ただ、龍の居場所がよく分かってないのがネックなんだよな」

「トルネイアもあの湖が家とは言っとらんかったしのぉ」

「分かってるのは精々サラマーダくらいだ。けど……」

「行けるプレイヤーがそもそも少ないんか」


 トッププレイヤーであるムラムラマッサンが行くような場所みたいだからね。そういや、ムラムラマッサンもサラマーダから何かもらったりしたのかな?サングラスは拾ったって言ってたし。

 情報屋がこの情報売りだしたらみんなこぞって龍探しに行くのかな


「でもま、それを差し引いても売れることは間違いなしだ。これ、今回の報酬な」


 そう言って情報屋は画面を操作し――今回の情報料を渡して……!?


「おまっ、これいいんか!?」

「勿論。それほど価値のある情報だと思ってるからな」


 その金額は、かつて私が犀繰を作ってもらうためにクリカラに支払いしたGの10倍だった。

 私、いきなり金持ちになっちゃいました。

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