第122話 ファッションヤンキー、低迷したから気分転換

 2日目、メゾフォルテさんに勝利した後もイベントで戦って戦って、息抜きに冒険して昼食を食べてまた戦って――夕方に差し掛かったところで気付いた。負けの比率が高くなってきてる。午前中までは勝ち越していたんだけれどなぁ……原因は分かっている。プレイヤーの質が変わったんだ。

 今までは単純に勝てた。勝て過ぎた。相手の攻撃を耐えて、そのまま近づいて不動嚙行で殴れば勝てた。が、それも通用しなくなってきた。時たま勝てることもあるけどそれでも負けの割合が大きい。


「よくない傾向じゃのぉ……」


 一応の隠し玉であった御弾鬼もバンテージも正直あまり出番がない。いや、前者はまだあったけど、バンテージはね……封じられでもしない限り不動嚙行使った方がどうしても強いし。

 ともすればどうするのが吉か。戦い方を変えてみるという手もあるかもしれないけど私のステータス的に他の戦いが出来るのかは分からない。難しい方だろう。じゃあどうする?



「そういう時は修行編と相場が決まってるけぇのぉ」

『姉貴、近年は修行編は人気が無いと言われている』


 何でそんなことを知っているんですかね、犀繰さん。それはさておき、私がやってきたのはトルネイアや土蜘蛛と出会った洞窟。聞くところによるとスカイクウェイクケイブって言うらしい。

 何故ここかと言うと私のレベル的に丁度いいんだよね。雑魚敵は犀繰で轢き殺せるし、それなりの敵もあまり苦戦することなく倒せる。遭遇した中で辛いのはマザーファンキースパイダーくらいかな?ただし、ゴスロリエルフのクレメオが一緒にいない個体とする。


『姉貴、次の分かれ道だ』

「んー、左じゃ」

『了解』


 目的地は特にない。――というか過去何回かは潜っているけどあんまり道順とか憶えてないんだよね。迷路とかあんまり得意じゃないんだよねぇ……このオウカとしてなら迷路の壁を壊しながら進んでも面白そうだけど。

 さて、そうして分かれ道に遭遇すれば、その場のノリと勢いで行き先を決めること数十分。何か見覚えのある場所にたどり着いちゃったんですけど……?


「のぉ、犀繰。もしかして同じ道を選らんどったんか?」

『いいや、最初の分かれ道から違う道を進んでいた』


 だよねぇ……流石の私でも最初の道くらいは覚えている。だからこそ不思議なんだよねぇ。あのぐるぐる巻きトルネイアと出会い、マザーファンキースパイダーと戦った空間に出るとは。どの道を選らんでもここにたどり着くようになってるのかな?

 私は、あの時の場所だと察すると隠れはしなかったものの周囲を警戒した。マザーファンキースパイダーが出現してないかと思ってたけど、どうやら杞憂だったみたいだね。そんな巨大なモンスターはいなかった。いなかったけど……はて、モンスターはともかく人いなくない?道中何人かすれ違ったよ?だからこそ、ここが共通した終着点なら誰かいてもおかしくないはずなんだけど。


 湖に近づいてみたけど、やはり何もない。いや、そこら辺をぽよぽよとスライムが移動していたり、湖に魚影が映っていたりするけど特に襲い掛かるって来るわけでも無い。犀繰に聞いてみても、敵性存在は確認されないとのこと。


『姉貴、これ以上この場にいても時間がつぶれるだけだろう。敵性存在はいないが、ダンジョンの入り口まで戻る魔法陣は見つけた』

「そうじゃのぉ……釣り竿でもあれば釣りしても良かったんかもしれんけど無いしなぁ、帰るかっと」


 そう言うと、私はその辺に落ちていた何の変哲もない石を拾い上げ、ポーンと放り投げた。石は大きく弧を描いて湖に着水。それほど大きくないのでポチャンと音を立てて終わり――なはずだった。

 犀繰が見つけたという魔法陣に向かうために踵を返したところで異変は起こった。何かお腹の奥に響くような音が聞こえるんですが?


「のぉ、犀繰。これって俗にいう地響きじゃないんか?」

『肯定する』

「これって俺が湖に石投げたから?」

『肯定できないが否定もできない』


 湖に石入れたら発動するギミックって何だよ、湖から女神さまが出てきて「この石を落としたのはあなたですか?」って金の石と銀の石出してくるの?……それただの金と銀では?うん、現実逃避は止めよう。今はこの地響きをどうにか……は無理だよね?


「"震脚"」


 はい、揺れに揺れぶつけたら収まるなんてあるわけありません。自然現象に人の力が勝てるわけないでしょ!む、何やら湖に気泡が?え?何か湧いてくるの?ボス?ちょっと待ってまだ不動嚙行構えてないんですけど。

 急ぎ不動嚙行を構え、徐々に大きくなる気泡を睨む。水中から出てくるということは魚とか蟹とかそういうモンスターかな?蟹であるならば、少々本気を出さざるを得ないね!だってあれでしょう?蟹ってことはドロップアイテムで蟹の足とかあるんでしょ?食べれるんでしょ?これを狩らずしてどうしろと言うのか!さぁさっさと現れて蟹ちゃん!倒せなくても腕の一本か二本はいただかせてもらうよ!

 瞬間、湖に黒い影が浮かび上がり確認するよりも先にそれは水面を突き破り姿を曝した。――同時に私の期待も突き破られた。何故なら現れた者の正体は


「うわぁ、トルネイアかぁ……」


 なーんだ、また死に戻り展開かー辛いー。

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