第119話 ファッションヤンキー、殴られ殴る
そこから私たちの殴り合いは始まった。
私は喧嘩術のフォームとか狙い目とか一切なしの滅茶苦茶な殴り方に対して、ノミコンはまさにボクシング選手のようにステップを踏み確実に私の鳩尾だの顎などを狙って来る。幸い、ボクシング選手であれば行うであろう回避行動を、ノミコンは一切せず殴り合いに応じてくれている。
「だらあああああああああああああ!!」
「うぉらああああああああああああ!!」
互いに息をつかせないほどの猛攻を繰り出す。元々ポーションは禁止されているけど、こんな状況じゃあ回復する暇もないよね。ってか私殴り合いしながらもこうして考えられているのは何でなんだろ。おかげで色々考えられるけど……っとここで、蹴る!
「おっらあ!」
「なめんなぁ!」
嘘ん!?完全に不意打ちだと思ったのに、あっさり払いのけられて防がれちゃったよ!?予想していたということなの?うぅん、私と戦うことを想定してたというだけはある。実はさっきからちょくちょく震脚もしているんだけど、あいつ一切転ばないしよろけることすらしない。極小規模だけど、地震みたいなもんだよ!?何すんなり耐えてんの!?
「ふん!」
「うげっ!」
なんて考えてたらお腹にいい一撃貰っちゃいました。我ながら女の子が出していい声じゃない。しかも最悪なことに、体から一気に力が抜け、私の意思とは関係なく膝から崩れ落ちてしまった。その原因はステータス画面を見て理解した。
やっばスタンしてる!!踏ん張り所等のお陰でそういう耐性はバッチリ――だと思いたかったけど100%じゃないもんね!仮に90%耐性でも10%引いちゃえば意味ないもんね!そして、思いきり隙を晒した私をノミコンが逃すわけもなく
「もらったぁ!!オラオラオラオラオラぁ!!」
どこかの主人公張りにラッシュを繰り出すもんだからたまったもんじゃありません。抵抗しようにも体が動かないから甘んじて受けるしかない。ちょくちょくコング・グローブの雷属性からくるビリビリ感が体を襲うが耐えきれないほどではない。スタン状態が解除されるまであと……
5。
「オラオラオラオラ!」
4。ちくせう。
「っしゃああああああああああ!!!」
3。うるさいですね。
「落ちろおおおおおおおおおおお!!」
2。いや、もうちょい静かに……
「死ねえええええええええええ!!」
1。まだだ、まだ1秒……
「とどめだあああああああああああああああ!!」
その言葉と同時に放たれた奴の拳。私はそれを――
「っ!?いっでぇ!?」
「こっちも痛いわ!!」
額で受け止めた。喧嘩漫画で額で拳を受けるのは基本的な防御だったと説明していたのを読んだから試してみたけど、上手くいったみたいで何より。さて、初めての防御方法だったけど……ってか防御と言っていいかわかんなかったけど、ターンアタックが残っている限り防御行動として認めてくれたみたい。
額での反撃を受けたノミコン、攻撃の手を止めたが、立ち上がった私を視認してすぐに顔の前で腕をL字に曲げ防御体勢をとる。なるほど?恐らく蹴りをしても防がれるんだろうなぁ。ならば、私のとる行動は1つ。っていうか、打って付けの物がある。
「オッラァ!!」
馬鹿正直に正面から奴の防御に拳を叩き込んだ。一見するかと愚策かもしれない。目に見えて明らかに防がれる盾に真っ向から攻撃する奴は滅多にいない。滅多にって言ったのは……私がいるからね!ただ、当然のことながら策がないわけじゃない。その証拠に、がっちりと防いだその両腕。私の拳は閉じられたはずの腕と腕の境目を無理やりとこじ開け――
「ぶげらっ!?」
その顔面に到達した!何を隠そうこれが私が修行して手に入れたスキルのうちの1つ"
御弾鬼
アクティブスキル
物理近距離攻撃のみ発動する。MPを消費することで、攻撃対象の防御行動を弾く、もしくは崩すことが出来る。相手のDEFに応じて消費MPが変動し、使用者の所有MPを超える場合は、MPを消費せず発動に失敗する。
ふふふ、このスキルを習得するまでに一体何体ものコング・コング・コングが犠牲になったことやら……2体より先は数えていないけど。メニュー欄にあるモンスター図鑑なるもの見たらコング・コング・コングが討伐数18体とかになってた。正直すまんかった。
しかしその甲斐あって手に入れたこのスキル。完璧に防いだと確信したノミコンの顔面に直撃する様はスッキリする他言いようがない。……でも吹っ飛ばないんだね。それは少し意外だったけれど、まぁいいや。どうせ私みたくノックバック耐性持ってるんでしょ。それに吹っ飛ばないなら吹っ飛ばないで……ラッシュし返せるからね!
「往生せぇや?」
「ちょ、ちょっと待っ」
問答無用!やられた分はしっかり返さないとねぇ!お金と一緒!
お返しとばかりに繰り出す私のラッシュ。さっきのノミコンが私をラッシュする場面で違うところと言えば、奴は防御していることだろう。だが!しかし!私の御弾鬼を止めるには程遠いんだよねぇ!なんせ奴の防御に対して、消費するMPは2。確かにINTに合わせてMPの貧弱な私にはすぐに無くなる数値かもしれないけど……私にはこの薄汚れたバンテージに備わったスキル、"MP極微吸収"がある。その名の通りバンテージで装備した状態で相手を殴ると相手のMPを吸収するスキルで、その吸収値は1。え?吸収するMPに対して消費MPが追いついてない?ご安心を。防御弾かれてすぐに構え直せる人なんていないでしょ?奴が再び構える前に2回殴れば事足りるもんね!オラオラオラオラ!
……それにしても私に負けず劣らずタフだなぁ……ノミコンって名前完全に名前負けしてるじゃん。なんて思ったその時、ガラスが割れる様な音がフィールド一帯に響いた。私には何のこっちゃ分からなかったけど、ノミコンはそうではなかったようで口をあんぐりと開いて間抜け面を晒している。
「な、何でだ!?まだMPは残って……いない!?」
あれ?ノミコン、私がMP奪ってたこと気付いてなかったの?それにあいつがMP消費して発動していそうなこと……あぁ、もしかして。
試しに背中に装着された不動嚙行に手を伸ばすと、あっさり掴めた。装備できちゃいましたねぇ……。不動嚙行とノミコンを交互に見やる。どうやら"長物禁止令"とやらはMPを時間経過で消費して維持しているようだね。それを私が横から奪ってったからノミコンの予定よりも早く解除されちゃったと。
…………
「ほぉ~ん?」
「や、あの、その……こう、解除されちゃったけどライバルとしては?最後まで拳で語り合いたいというか……」
そですか。
や、気持ちとしては分からないでもないよ?まぁライバルじゃないけれども。
でもさ。十分君に付き合ったと思うんだ?私は愛想笑いを浮かべるノミコンの肩をポンポンと叩き――
「すまんの!」
不動嚙行を袈裟斬りと同じ要領でノミコンの肩と首の境目に叩き込んだ。流石のタフさでもこれには耐えきれなかったようで
"『オウカ』WIN!!"
ひやりとした場面はあったものの、勝利することが出来た。
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