第118話 ファッションヤンキー、木刀の代わりに拳を振るう

 ふむ、いくら背の不動嚙行に手を伸ばしても掴めず、すり抜けてしまう。装備ではなく、投擲アイテムとしてしようとしてもダメみたいだなぁ……ノミコンが得意げに言っていたように不動嚙行の戦闘は封じられてしまったようだ。にしても研究されてたのか、私。


「ククク……お前のことはお前とシャドルが闘技場で戦っていた時から知っていた。そしてその戦いぶりを見て俺は感じたのだ!お前は俺のライバルになる存在だと!」

「はぁ」

「それがどうだ!お前、あれ以降闘技場来ないじゃないか!こっちはお前と戦えるよう、戦闘スタイルが近しいプレイヤーと戦ったりこのコング・グローブを買ったり準備していたというのに!」

「知らんがな」

「闘技場も結構いいランクにいるんだぞ!」

「知らんがな」


 いや、本当に知らんがなという他ないんだけども?私、PvPは好きだけど闘技場でずっと戦っているより冒険したいタイプなんで……それにしても懐かしいね、シャドルとの戦いも。言うてそんな日にち経ってないんだけれども。

 あの頃は不動嚙行は使ってなかったけどそれでも木刀は使っていた。だからこそ、それを封じる手段は有効なのかもしれない。


「だが!今こうしてお前は俺の目の前にいる!それだけでこのスキルも報われると言うもの!いざ覚悟するがいい、オウカよ!」


 そう言うと、ノミコンはコング・グローブを付けたその拳を連続して己の胸に叩きつける。これは、コング・グローブに備え付けられたスキル、ドラミングだろう。確か効果は攻撃に雷属性を付与すると言うものだったけど。しっかし、ああもゴツイ男プレイヤーなら様になってるからいいけど私がやったらあだ名絶対ゴリラ女になっちゃうよね。売ってよかったです。


「ほう?ドラミングを待ってくれるのか?武器が封じられたってのに余裕じゃねぇか」


 ドラミングを終えたノミコンがその拳に雷を纏わせ、不敵に笑う。

 その言葉の通り、私は奴のドラミングが終えるのを待っていた。ぱっと見隙だらけだし攻撃しても良かったんだけど……


「折角じゃけぇ、全力でやりたいじゃろうが」

「へっ!その余裕いつまで続くだろうな!」


 ノミコンは地面を蹴り私に接近。ステージがリングということもあり、1秒もしないうちに懐に潜り込まれた。そしてその勢いのまま――奴はその拳を私の頬に叩き込んだ。

 ううん、かなりの衝撃。私は一切回避行動も抵抗もしなかったからね、クリーンヒットするのは当たり前。ってかこれボクシングなら即KOあり得るよね?

 いやまぁ、KOされずにその場に直立してますけども。


「な、にィ!?」

「すまんのぉ、タフさには自信があるんじゃ」

「だ、だからって吹っ飛びもしねぇって……!」

「んじゃこっちの番じゃのぉ」


 それっぽく左手で右肩を抑え、右腕をグルングルンと回す私にノミコンは一瞬焦るがすぐにその顔を笑いで歪めた。


「はっ!良いだろう、武器も装備してない奴の拳など恐るるに足らん!」


 私のノーガードに感化されたのか、奴は両手を上げ一切の抵抗をしないという意思を示した。でも、私今武器はつけてないけど、鉄拳とかターンアタックとか補正乗るスキルあるんだけども。私の真似しなくてもねぇ。それに


「誰が付ける装備がないって言ったんなら」

「は?」


 言っている意味が分からなかったんだろう、呆けた顔をしてるけど、それに構わず私はパックンさんから購入したその武器を装備した。

 いや、これを武器と言ってもいいのか、普通だったら判断に困るところだけれど実際、AFWはこの装備を武器扱いとしている。それが、私の両の拳に装着された。


"薄汚れたバンテージ"

死してなお、己の拳の限界を確かめんとするゾンビ、ハンキスが拳に巻いていたバンテージ。元々は呪いのアイテムだが、プレイヤー"シャルロット"によって既に浄化されている。しかし、完璧に浄化されたはずなのにハンキスが装備していた時よりも性能は劣る。

ATK+12 INT-5 

スキル 霊触 MP極微吸収 


 パックンさん曰く、元いわく付きのバンテージだと。シャルロットというのはパックンさんにバンテージを売った張本人らしい。フレンドで例に漏れず高ランクのプリーストなのだとか。

 何か弱体化しているらしいけどバンテージという点に惚れたので買わせてもらったよ!ちなみに浄化されてなかったら絶対に買わなかったよ!呪いとか怖いからね。

 さて、このバンテージだけど中々にいいステータスをしている。ATKの代わりにINTにマイナス補正が掛かるけれど私には関係ない。元々馬鹿だからね!HAHAHA。


「んじゃ、殴らせてくれるんじゃろ?」

「お、おう!来てみろ!」


 では、遠慮なく――渾身の一撃を奴の腹に見舞った。

 ノミコンの体がくの時に曲がり、苦悶の表情を浮かべる。これで終われば楽なんだけれど……そもそもノミコンは超近距離タイプのプレイヤーだ。


「へ、へへへ……いい拳じゃねぇか……それでこそ俺のライバル……」


 当然パンチ1発で沈むわけはないよね。

 へっ、何だか嬉しくなっちゃうなぁ。まだ戦えるなんて。でもさ、ノミコン。一つだけ言わせて?


「ライバルじゃあないわ」


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今後出番が無いであろうキャラたちのスキル、ちょくちょく紹介しましょ


黒ビールのスキル


透明化

アクティブスキル

発動中、常にMPを消費し、自身の体・装備を透き通った状態にする。なお、透過出来るわけではないので地面には足跡が付き、ペンキを浴びせられれば見えるようになる。MPが尽きるかスタンすると強制解除される。

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