第117話 ファッションヤンキー、なぜ負けたのか

「うらああああああああああああああああああああああ!!!!」


 私、オウカ!今相棒のバイクゴーレムの犀繰に乗ってポートガス街道を爆走中!沸いてくるモンスター?んなもん轢いてしまえ!道行くプレイヤー達?勿論避けていきますとも。人身事故はダメだからね。


『姉貴、むしゃくしゃしてるな』

「分からん殺しはストレスたまるけぇのぉ……」


 そんな私を心配に思ってくれたのか、犀繰が声を掛けてくれるが……まぁ収まるわけもなく。

 ってか本当に何でやられたんだろう。私の真価は不動嚙行から繰り出される攻撃力や、威圧眼や震脚みたいな相手の動きを制限するスキルではない。そのタフさだと思っている。

 それがだよ!?踏ん張り所も残っていたはずなのに発動せずに即死……どないなってますのん。決め手とか教えてくれないしさー


『姉貴、状況を教えてもらえるか。ゴーレムとは言え第三者の考えも必要だろう』

「え?お、おう」


 そう言われたので、爆走しながらも猿飛半蔵との戦闘について憶えている限り事細かに説明する。……兼ねてから思っていたけれど、犀繰然りクリカラのシュバルツ然り、AI優秀過ぎない?金核でこれなんだから白金核になったら……考えるのは止めよう。専門家であるクリカラも持ってないんだから私が見ることはないでしょ。


『なるほど。推測だが、姉貴の敗因は窒息だ』

「窒息ぅ?」


 犀繰が言うには、まず私の視界が閉ざされたのは猿飛半蔵の術によって地中に引きずり込まれたか、土に覆われたから。それも一切の隙間のないところにだ。うん、確かにあの時ピクリとも動かせなかったよね。でも土に覆われたくらいで私が動けなくなるとはあまり思えないから前者だろう。

 で?人間は息が出来なければ死ぬ。それは当然の自明であり、それはこの世界の住人は勿論、プレイヤーも例外ではない。んでもって私の"踏ん張り所"は1回のダメージによって0になる場合に発動するスキル。どんどんと苦しくなって死に至る窒息では反応しない……ということらしい。確かに呼吸に防御力とか関係ないかもしれないけどさぁ。


「壊れじゃない?」

『しかし姉貴、それ以外で大したダメージを受けたか?』

「受け取らんのぉ」


 落とし穴に落ちた時とかロープに引っ掛かってすっころんだ時とか、罠に引っ掛かった時にダメージ受けたけど驚異的なものは無かったね。それ故おちょくられてる感はあったけど。

 じゃああれは猿飛半蔵の切り札?それ以外で私を倒せる術がなかったからこそ罠にかけ続けて時間を掛けてあれを完成させたと。『いや、散々罠に引っ掛かってリアクションしてくれて助かったでござる。この術は時間もろもろ掛かるでござるからなぁ』って言ってたし。


『姉貴のミスは猿飛半蔵に近づけなかったことだ。俺に乗れれば――』

「いや、無理じゃろ」

『無理だ。だからゴーレム的には勝ち目のある相手ではなかった、気にするな。ということになるが』

「その考え方も無理じゃのぉ」

『だろうな』


 ……。

 そうこうしているうちにウーノの街についたようだ。あー、うん。少しは落ち着いたかもしれない。

 私は犀繰から降り大きく伸びをした後、自分の両頬を思いっきり叩いた。我ながら良い音がしたものだ。周りのプレイヤーが何事かとみているよ。見世物じゃないんだからね!


「よし、うじうじするのは終わりじゃあ。行ってくる。」

『それでこそ姉貴だ』


 メニュー画面を開き再び再エントリーする。ふふふ、残念だったな次の私の対戦相手よ。敗北の味を知った私は面倒くさいよ?

 おっと、即マッチングしたね。でも、おいら負けないよ。


"2人のマッチングプレイヤーの了承を確認いたしました。あなたの対戦相手……『ロビンフット』。戦闘フィールド……森林になりました。5秒後にフィールドに転送いたします"


 さぁ!ここから巻き返しだよ!私の強さに恐れおののくがいい!



「負ーけちゃったよぉ」


 アカンて……森の中を木々を移動しながら上方から矢の雨はアカンて……折角木をぶっ倒してもすぐ次の木に渡って矢を放たないで……こっち来てよぉ。ゴブリン棍棒投げても枝に阻まれて威力落ちるしさぁ……分かりやすく相性の悪い相手でしたぁ!!


「うおおおおおおおおおお!連コじゃあああああああああああ!!」

『姉貴、このゲームは格闘ゲームではない』


 分かってますぅ!!


"2人のマッチングプレイヤーの了承を確認いたしました。あなたの対戦相手……『ノミコン』。戦闘フィールド……リングになりました。5秒後にフィールドに転送いたします"


 ノミコン?え?ノミコン?ネクロノミコン?……あのクトゥルフ神話的な意味で有名なあれ?魔術的な本のあれ?……もやだあああああああああああああああああああ!!まーた負け確じゃんかぁ!

 しかし私の心の叫びを待ってくれるわけもなく、対戦フィールドであるリングに転送される。

 ハハッ、ステージは肉弾戦向きかもしれないけど相手は相性の悪い魔法使い……あれ?何か、グローブつけてない?いや、5本指のグローブじゃなくて、ボクシンググローブ。それも見たことあると思ったらあれ、コング・グローブでは?ヒューマでガタイはよく、動きやすい格好をしている。その姿は少なくとも魔法使いには見ないなぁ?


"それでは『オウカ』対『ノミコン』の対戦を開始いたします。ready……"


"GO!"


「ハッハァ!オウカよ!お前の戦闘情報は把握済みだ!戦闘は取らせてもらうぞ、"長物禁止令"!」

「んぁ?」


 一歩踏み出そうとしたらノミコンがいきなりしゃべりだしていきなりスキルらしきものを発動させた。それ自体はいいんだけど……長物禁止令?なんぞそれ。と思ったその瞬間、異変が起こった。

 私の右手に握られていたはずの不動嚙行が――私の手をすり抜け背中の定位置に戻っていたのだ。

 どゆこと?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る