第116話 ファッションヤンキー、快進撃?

 黒ビールを倒したテンションそのままで3戦目、根使いの女性プレイヤーのソメイヨシノ。中華服を纏ってお団子ヘアーにしたそのお姿でアルアル言わないのはひどくないでしょうか。

 武器も中華姿から予想は出来ていたけれど、殴る蹴るの連撃を繰り出してくるタイプだ。ただ、如何せん攻撃力が足りないためぶっちゃけ私的には痒くはあるが痛くはない。とはいってもこのまま受け続けていいことないので軽く不動嚙行を払ったところ――吹っ飛んだ。ビックリしたけど、ソメイヨシノ自身はケロッとしていた。あれか?自分から吹っ飛ばされてダメージを軽減って奴。はぇーすごい。

 まぁ、改めて捕まえて一撃入れたら普通に勝ったけど。ごめん、ちょっと怖がらせてしまったかもね!


 4戦目、身の丈ほどのある大剣背負った男ドワーフのアルドバラブ。……うーん、男ドワーフ。マコト君を思い出しちゃうけど、ドワーフプレイヤーが全員あんなわけじゃないってのは当たり前な訳で。普通に戦ってくれた。

 訂正、戦ってくれるにはくれるけど「うおおおおおおおおおおお!!」だの「どりゃああああああああああ」だの「ひょえええええええええええ」だのアクションの際に出る声が一々うるさい。

 黙らせたろって威圧眼使ったけど、あれ喋れはするんだよね。もっとうるさくなった。やはり倒すことでしか黙らせないのか……悲しいけどこれ戦闘なのよね。ってことで不動嚙行――あれ、一撃じゃ倒れなかった。

 ほほう、タフさが自慢だと。奇遇ですね、私もですよ。でも二撃目はどうかな?あなた私と同じで鈍足だから逃げられないよね?ほいってことで決着。


連勝に次ぐ連勝。闘技場とかシャドルと戦って以降行ったことは無かったけど私って対人結構やれるのでは?丁度良く相性のいい相手とマッチングしたからかな?何にせよ、4連勝だ。この波に乗っていきたいところだね!



 そんな風に考えていた時期が私にもありました。


「いやぁ、斯様に引っ掛かってくれるとこちらも罠を張る甲斐があると言うものでござるよ」

「ぐぬぬ……」


 私は今、荒野で落とし穴に落ちています。比喩じゃありませんよ?ガチの落とし穴です。すっぽりです。

 そんな私を見下ろす対戦相手は猿飛半蔵。名前からして分かる通り忍者――いや、黒装束着てござるござる言ってりゃ大抵忍者か。知り合いにもう1人黒装束いるけども。

 いやこれがやり難いのなんのって。忍者漫画みたいに短刀なり術なりで攻撃してくるならまだ対応できるかもだけど、こいつ罠が主体だよ。さっきからいつの間にか仕掛けられた罠に悉く引っ掛かってる。


「うがぁ!今からお前を殴りに行くから待っとれやぁ!」

「ヤーヤーヤーってかでござる。ってかお主に殴られたら拙者即死でござるよ?」

「だからこそ殴る!」

「こわ」


 幸い、落とし穴はそこまで深くないから脱出することは容易だ。こういう時ばかりは高い身長に感謝だよ。よし、ようやく上がれた。今度こそあの忍者を……おん?何この黒い球?


「あ、爆弾だから気を付けるでござる」

「は!?」


 爆弾、その単語に驚いた私は転がるように穴から抜け出て距離を取る。取ったけど……爆発しなくね?


「実はそれ爆弾じゃないでござる」

「おま、いい加減にせぇや!」


 プークスクスとでも言いたげに口に手を当てる猿飛半蔵。これには温厚な私もブチギレ案件ですよ。流石にゲームってわかってるから心の奥からキレたりはしないけども。怒って見せた私は爆弾じゃないと言われた黒い球を跨ぎ、奴に近づこうとしたところで――急に黒い球が大量の白煙を放出し始めた。


「爆弾じゃなくて煙玉ってオチでござる」

「煙ならどうとでもなるわぁ!」


 そう、驚きはしたけど煙自体の対処になんら問題はない。大きく足を振り上げ、地面を踏み抜く。"震脚"の発動だ。その効果は地面を揺らすってものだけど――地面を踏んだ衝撃で煙を発散させるなんて簡単なんだよぉ!


「マジでござるか!?しかも揺れっ」


 よし、私の行動が予想外だったのか、猿飛半蔵は驚き、揺れに脚を取られている。

 さして距離は離れていない。急いで近づき、不動嚙行で殴る!奴の言葉が正しいのであればこの一撃でお陀仏だ!と思っていたんだけどなぁ……スコーンって音と殴った感触で察しました。逃げられてるわこれ。だってこの音丸太だもん。忍者を殴ったと思ってこの音が出たってことは……


「変わり身ぃ!」

「先に言われたでござる!?」


 背後から批判が飛んできたが気にしない。ってか忍者が術名を言おうとするんじゃない。忍びなさいよ。


「もう!ヤンキー殿酷いでござるよ!どや顔させて欲しいでござる!」

「俗っぽい忍者じゃのぉ」

「拙者、忍術使って『凄い凄い』って言われたいでござるよ!"縛縄の術"!」


 猿飛半蔵が忍者がよくやるニンニンポーズをすると、突如として私の足元から縄が蛇のように飛び出し私の体を拘束する。縄はギリギリと音が出る程私を縛り動きを封じ、封じ……ん?これってもしかして……


「ほいっ」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!忍術を暴力で解決しないで欲しいでござるぅ!」

「そう言われても知らんわ!」


 だってただの縄だったもん!特別堅いって訳じゃなかったもん!それなら拘束なんて力任せに抜け出すよね!

 さて、どうしようか。恐らく変わり身の術には、私の"踏ん張り所"同様にクールタイムがあるはず。なら今度こそ殴れば勝てるはず……って上手くいけばいいんだけれども。


「ふむ、ヤンキー殿。近づければどうとでもなると思っているでござるな?」

「……おう」

「その通りでござる」

「認めるんか」

「そりゃー拙者、数いる忍者プレイヤーの中でも耐久性はまさに紙でござるからなぁ。ぶっちゃけヤンキー殿に近づきすらしたくないでござる」

「そう言わんと来いや、歓迎しちゃるけぇ」

「遠慮するでござる!だって――近づく必要が無くなったでござるから」

「はぁ?」

 

 言葉の意味が分からず、疑問の声が出た瞬間、私の視界が暗転した。動こうにも動けない。身じろぎすらできない中、まだ半分以上残っていた体力が、一気に消失した。


「いや、散々罠に引っ掛かってリアクションしてくれて助かったでござる。この術は時間もろもろ掛かるでござるからなぁ……では、御免」


"『猿飛半蔵』WIN!!"


 何が起こったし。何で私負けたし。

 そんな疑問に答える者はおらず、私はこのイベント初の敗北を喫した。

 ……あれだ、ちょっと犀繰で走り回ろう。

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