第115話 ファッションヤンキー、次の戦いへ

 どうも、クマ殺しのオウカです、なんて冗談は隅に置いて。一撃ですか。クマさん牧場が死んだふりをしているのかもって思ったけどそれじゃあWinメッセージなんて出ないよね。私自身も驚いちゃってる。なんて思った次の瞬間には……見慣れたドヴァータウンの景色だ。私の帰りを待っていたのか、情報屋もそこにいた。


「あれ、ヤンキーちゃんまた早いお帰りで?まさかまた……?」

「いや、普通に勝った。一撃じゃった。」

「マジか。あー、でもヤンキーちゃんの武器とか相手も初戦の低レベルプレイヤーとか鑑みればそうなるのも有り得るのか」


 そうかもね。クマさん牧場さんがまだ序盤のプレイヤーという可能性だってあるもんね。いや、ぱっと見は歴戦の猛者だったんだけどね?リアル熊だったし。イベント抜きであったらお話してみたいくらいにはめっちゃ熊だった。あとモフりたい。

 っとと、そうこうしているうちにまた新しいマッチングが入ってきた。


「そんじゃまたマッチング入ったけぇ」

「そのようだな。俺は色々聞き込みして仕様とかフィールドとか確認してくるさ。健闘を祈ってる」

「おう、じゃあの」


"2人のマッチングプレイヤーの了承を確認いたしました。あなたの対戦相手……『黒ビール』。戦闘フィールド……草原になりました。5秒後にフィールドに転送いたします"



 はい、草原ですね。特筆すべきことの無い、石っころ1つも無いまぁ平凡な程の草原です。そこで相対すは私ことオウカと……中々にすらりとしたイケメン。まぁこのゲーム外見弄れるから中身はどうか知らんけども。その手に持っているのは鞘に収まってる日本刀かな?

 しかし、今回はクマさん牧場さんとの牢屋戦とは異なって結構離れているね。あ、お辞儀してきた。これは私も返さねば……待て?ヤンキーなら何かしら悪態をつくべきでは?いや、そういう雰囲気じゃないし相手方に不愉快な思いさせてもダメだね、やめとこ。


"それでは『黒ビール』対『オウカ』の対戦を開始いたします。ready……"

"GO!"


 開始の合図が示された瞬間、黒ビールの姿が見えなくなった。あれ?私目を離したつもりは無いんだけど?まさか、左右どちらか、瞬時に移動して視界から外れたかな?なんて横を向いたところで……腹に斬られた感覚が走る。それも横腹じゃなくて真正面に。


「あぁん?」

「おっと、削り切れなかったか。不味いなぁ」


 視線を下に下げると、黒ビールがいた。それも既に斬り終わったことを示すように鞘に収めてあった刀身がむき出しになっている。ふむ、色々驚くべきことはあるけど少しこの状況は不味い。乱暴に足を振るい、黒ビールに距離を離させる。


「驚いたのぉ。どうやって潜り込んだんじゃあ?」

「教えると思うか?」

「ワンチャンあるかなと」

「無いな」



 ですよねーっとまた消えた。んでもって斬られた。こういう攻撃の仕方、一撃しかもらってないけど土蜘蛛を思い出す。あいつは体勢を低くして高スピードで突っ込んできてたみたいだけど同じ手合い?

 元々のタフさで何とか耐えられてるけど、無防備に受け続けるのは当たり前に不味い。という訳で――黒ビールが消えたと同時に思いっきり地面を踏みしめ震脚を発動。

 今までの2回の攻撃は地に足が付いた状態での物。であれば転んでくれる可能性があるもんだ。さぁ、どうなる?


「うわぁっ!?」


 あれ?思ったよりも前方で声が聞こえた。んん?目の前の草の所……凹んでない?こう、人の形に。……まさか!

 脳裏によぎった可能性を頼りにその凹んだ地点目掛けゴブリン棍棒を投擲する。すると、スコーンと小気味いい音と共に、ゴブリン棍棒が何かにぶつかったようにあらぬ方向に飛んでった。

 あーこれは確定ですわ。


「透明化かぁ?」

「ご、ご明察」


 ゴブリン棍棒が跳ね返った地点に薄っすらと色が浮かび上がり――ヘッドスライディングのような体勢の黒ビールが現れた。今まで震脚で色々転ばせてきたけどそこまでのは初めて見たよ?

 それはいいや。重要なのは黒ビールは自白したように見えなくなる透明化のスキルを使って私の懐に潜り込んだんだろう。でもそれを差し引いてもDEXはかなりあるんだろう。じゃなきゃあの数秒で移動できないでしょ。

 何にしてもだ。今が絶好のチャンスというのは間違いない。ずんずんと大股で近づく私に気付き立ち上がろうとする。が、視線をこっちに向けたのがミスだったな!"威圧眼"発動じゃーい!


「うぇっ!?」


 突如として石のように固まった自身に驚く黒ビール。上手く作用してくれたようで良かった。

 むむっ、また黒ビールの姿が消えた!……や、でも


「見えてるんじゃけどのぉ……」

「ですよねー」


 はい、いくら透けることが出来ても草の凹みは隠せないわけで。ゴブリン棍棒が当たったということは視覚的に透けているだけで透過しているわけではないってのは分かっているので……

 威圧眼でのスタン効果が消える前に不動嚙行での一撃を見舞う!


"『オウカ』WIN!!"


 ……おや?これもしかして結構楽勝なのでは?

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