第113話 ファッションヤンキー、イベント開始の初戦に臨む

 ついにやって来ましたイベント当日。前日新武器の試運転をしたお陰で割と遅くまで起きていた私。イベントが楽しみで楽しみで寝られなくなって――なんてことは無く睡魔に負けてぐっすりでした。おかげでベストコンディションですわ。

 今ドヴァータウンの広場にあるベンチにいるんだけど……人がいっぱいだ。フィールド上でも大丈夫って説明にはあったんだけどね。まぁ、私も戦闘中に呼ばれたらちょっと怖いなーって思ったから外には出ずに街にいるわけなんだけど。


「しかし、こうして眺めるだけで面白いのぉ」


 つい独り言を言ってしまったけど、本当に面白い。友達同士、どういう風に戦うのか楽しそうに会話する人もいれば、ベンチに座って参加するであろう人達を観察している人もいる。あ、これ私もだ。まぁ私は強そうな武器だなーくらいしか感想は出ないんだけど。

 おっと、運営からのメッセージだ。なるほどなるほど……?メニュー画面にイベント用の項目を追加したからそこからエントリーしてください、と。イベント自体は10分後くらいだけど事前にエントリーが出来るみたいだからそうさせてもらおう。あとは10分待つだけだけど。どうしよか。


「やぁヤンキーちゃん、数日ぶりだね」

「お、情報屋」


 相変わらずの黒ずくめで顔を隠した情報屋が背後から現れた。こいつ、不意にやってくるから心臓に悪い。変な声が出ちゃうところだったじゃないか。おっと、そういえば――


「情報屋もイベント参加するんか?」

「おいおい、ヤンキーちゃん知ってるだろう?俺はATKがざこっぱちなんだぞ?イベントなんてとてもとても」

「嘘くせぇ」

「ひどくない!?まぁ嘘なんだけども」


 やっぱり嘘なんじゃないか。おおよそ負けてもいいから参加者の情報を集めるとかそんな感じでしょう?ふふふ、私に掛かればお見通しだっての。


「いやぁ、得意げな顔している所悪いけど負け続けるつもりはないんだなぁ、これが」

「ほぉ?」


 これも嘘……なのかな。続けざまに嘘を言ってもおかしくない奴ではあるけど、その言葉にどこか本気さが伺える。そもそもこのゲーム、ATKに関係なくてもダメージを与える方法はいくらでもあるみたいだから力が無くても勝ては出来るんだろう。それもこのゲームの情報を集めている情報屋ならその方法を数多に見つけ出すのも不可能じゃないか。


「そういう訳だからさ、マッチングしたらいっちょよろしく」

「絶対嫌じゃ」


 口元しか分からないけどいい笑顔浮かべてますよ、こいつ。あたかも「勝ち方分かってます」って言いたげだ。そんな相手と誰がやりたいもんか。ギリギリで負けるならいいけど手も足も出ない負けは嫌だからね!

 即答した私に情報屋はカラカラと笑うと私同様に画面を操作してイベントにエントリーしたようだ。っと、そろそろだね。周りでは気合の入ったような声やイベントの開始までのカウントを数える人もいる。うーむ、釣られて私もちょっと緊張し始めてきたぞ。


「ヤンキーちゃん、震えてるけど緊張してる?」

「武者震いじゃ!」


 えぇい、余計な茶々入れるんじゃないよこいつは!後10秒!5秒!2、1……スタート!

 ……ん?始まらない……あぁ、そうかマッチング探してるのね。このゲームの人口相当な物みたいだから一気にマッチングしちゃすぐには見つからんよね。ちょっと出鼻挫かれた感は否めないかな。

 周りは……おっと、ちょくちょく画面操作しては消える人が出始めてきたね。


「おっ、俺が先みたいだね。ってことは、ヤンキーちゃんとじゃないか。これは残念」

「そりゃ助かるわ。ま、健闘祈るってことで」

「そちらもね」


 軽く手を振るうと情報屋はその場から消え去った。対戦フィールドに行ったのだろう。私の番はまだかなーっと。



"マッチングが確認されました。 対戦を開始いたしますか? Yes/No"


 ようやく私にも対戦相手が決まったことを知らせるメッセージが届いた。ぼちぼち周りから人がいなくなりそうだったから実はエントリーしてなかったのかと何度も見返しちゃったよ。

 ま、こうして無事にマッチング出来たんだからいいよね!勿論YESを押すよ!


"2人のマッチングプレイヤーの了承を確認いたしました。あなたの対戦相手……『マコト』。戦闘フィールド……荒野になりました。5秒後にフィールドに転送いたします"


 ほう、荒野ですか。思ったより普通なフィールドで良かったよ。さて、どんな対戦相手かなーっと。

 5秒経つと視界が光に包まれ、すぐに晴れる。土色な景色に細々と生えた枯れた植物。まさしく荒野といった感じだね。むむっ、土煙で見えにくいけど私の正面少し遠くに立つ人影……彼奴が私の対戦相手だね!


"それでは『マコト』対『オウカ』の対戦を開始いたします。ready……"


 そのウィンドウが出た瞬間、土煙が晴れそこで私は対戦相手の姿を把握することが出来た。ずんぐりむっくりした体型に大きな口髭。典型的なドワーフか。となると力対力の勝負になるってことか!うっわ、楽しみ!


"GO!"

「おっしゃあ、来いやぁ!」

「ヒィッ!?」


 ん?何か対戦相手……マコトの様子がおかしいぞ?対戦が始まったって言うのに何かウィンドウを操作して――


"プレイヤーマコトよりサレンダーが選択されました。対戦を終了いたします。『オウカ』WIN!"


 え?


"なお、開始直後・戦闘ログが一切ない状態でのサレンダーのためポイントは追加されません"


 ちょっと待って?


"それでは両プレイヤーを元のフィールドに転送いたします。"


 あぁ、また視界が光に……



 あの、私今ドヴァータウンの広場のベンチなんですけれど。あの、周りにプレイヤー1人としていないんですけれど。

 あの、私の初戦……あの、あの……ひどない?

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