第112話 ファッションヤンキー、次の準備をする

イベントへの準備2日目。昨日は結構な豊作だったなぁ……コング戦以降も行ったことのあるフィールドに向かっては戦闘を繰り返していくつかのスキルを獲得することが出来たし、それなりには使えるようにはなった。

 さて、スキル面での強化はある程度済んだと言ってもいいでしょう。今日は装備だよ装備。

 防具はあまり期待できそうにないので武器の強化をね。不動嚙行は十分な性能だからメリケンサック――もとい拳装備を新調したい。そして私が頼る武器関連の人と言えば


「なんかええのない?」

「来るなり何ほざいてんのよ?」


 ほざっ……!?流石はパックンさん。言葉に容赦と言うものがないですね。まぁ私が決まって武器を頼りにする人となればパックンさん以外いない。というかパックンさん以外武器扱ってる知り合い知らない。

 それにしても、パックンさんトッププレイヤーなのにいまだに野外販売なのは何故。


「店?あるわよ?」

「あるんかい。でもじゃあ何でここで売っとるんなら」

「店はズィーベンシティってところにあってね。まだプレイヤー数えるほどしかいないのよねぇ……」

「聞いたことの無い街じゃのぉ」

「アンタ今活動してるのドヴァータウンでしょ?ズィーベンシティはもっと先だから知らないのも無理はないわ。まー住人もお客として来ると言えば来るんだけどやっぱりプレイヤー相手にしたいのよね。だから、お店は雇ってる住人に任せて私はこっちで初心者用向けを売ってるって訳」


 へぇ、そういう理由があったんだ。ズィーベンシティねぇ、口振りからしてトッププレイヤーしかいないのかな?シャドルもいたりしてね。しかし、プレイヤーと関わりたくて最初の街までわざわざ戻って商売してるなんて……もしかしてパックンさんって結構寂しがりなのでは?


「失礼なこと考えてるわね、絶対」


 疑問形とかじゃなくて確信して言ってる!?いやいや、失礼だなんてそんな。パックンさんのことは尊敬しておりますとも。えぇ、本当に。

 少しの間無言でにらめっこ……先に折れたのはパックンさんだった。


「ま、いいわ。それで?今回は木刀じゃないのよね?」

「おぉ、拳装備を新調したくてのぉ」

「拳ねぇ……アンタのくれたコング・グローブは売れちゃったし……」


 売れたの!?あーでも渡した時にコング・グローブはレアドロップだなんて言ってたし、欲しい人は欲しいんでしょう。いらない私は昨日もドロップしたけどね!物欲センサーというやつですね。

 という訳でこれも売っていただきましょう。


「じゃあこれ、お納めください……」

「まーたドロップしたのね、売れるからいいけど。で、拳装備となると……こんな感じね」


 そう言ってパックンさんが風呂敷に広げたのは何種類もの拳装備だった。シンプルなもののあればごってごての装飾が付いた物もある。


「結構あるんじゃのぉ」

「多種多様よ?拳装備の基本としては手甲ね。手から腕まで覆う装備だから防具としても使えるの。今持ってきてる手甲だけでも5はあるわね。シンプルなのもあればギミック搭載してるのも」

「ギミック?」


 私の疑問に答えるようにパックンさんは一つの手甲を手に取り私に渡す。持ってみた感じ、見た目通りずっしりとしている。こりゃ元々ATK持ってないと装備できそうにないね。私は出来ると思う。

 さて、ぱっと見ギミックらしいギミックは見当たら……うん?盛り上がっている所があると思ったら筒がある?


「この手甲にMPを注ぐとね、その筒から風が吹き出してパンチの威力を高めるのよ」

「ジェット的な?」

「そう。ただ、拳装備選んでる時点でMPってそんなにないから多用は出来ないのよね」

「俺も使えなさそうじゃのぉ」


 なんせまだMP一桁ですし。そもそもヤンキーっぽくないのでお流れ。


「これはどうかしら?一応メリケンサックよ?」


 次に渡されたのは確かにメリケンサック。メリケンサックなんだけど……


「とげとげし過ぎとらん?」

「攻撃力を求めた結果よ。」


 私が持っている初期メリケンサックは、殴る部分が丸くなっているタイプなんだけど、渡されたものはその部分にゴツイ棘が並んでいた。もう触れるものすべてを傷つけるような感じで。

 確かに攻撃力はありそうだけれども……これはなんというか


「人に使うのをためらってしまうのぉ……」

「そうね、製作者的には対モンスターに使うことをお勧めするわ」


 それを言ったら人斬る剣とかどうなんのとかなるけど……まぁ気分の問題。

 うーん、これはある意味ではヤンキーっぽいっちゃぽいけど、個人的に使いたくない。単純に怖いし。

 その後も色々と見せてくれたんだけれど、そのどれもがビビッと来ない。我ながらヤンキーRPって結構縛られるね。でも新調したいのは新調したい。でもヤンキーっぽいのがいい。その葛藤で呻く私。そこでパックンさんが大きくため息をついた。


「正直、これを出すのは鍛冶師としてはあんまりしたくないんだけど……」


 うん?そういうパックンさんは本当に嫌そうな顔をしてインベントリから何かを取り出すと、それを私に向けて投げ渡した。

 鍛冶師としてしたくないこと?気になる言葉だけどとりあえず渡されたものを確認しなきゃ……ってこれは――


 私は、(割とどうでもいい)運命に出会った。

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