第107話 ファッションヤンキー、助けられる

この場にいる誰の者にも該当しない声が聞こえたことに、土蜘蛛たちは反射的に身構えた。私も見える範囲で声の主を探してみるが見つからない。

 でもさ、この声聞いた覚えがあるというか……間違いなくアイツだよね。いい情報だのなんだの言っているし。何てことを考えていたらいつの間にか私の体に纏わりついていた蜘蛛が剥がれ落ちてるじゃん。なんで?拘束が外れたのは嬉しいけどまだ麻痺状態だからね?動くに動けないんだけど?


「あっ!あなた何で子供たちの拘束を――!」

「外させてもらっちゃったよ。この香、虫型モンスターの動き鈍らせるって情報本当なんだな。検証にお付き合い有難う!」


 クレメオが私の状況に気付いたが、それを遮るかのようにまたさっきの声が洞窟内に響き渡る。

 ……ん?ちょっと待って?私の正面の辺り……私とクレメオの間辺り。何かこう、蜃気楼のように歪んでない?クレメオもそれに気づいたようで自身の武器である競馬で使うような短い鞭を取り出し歪んでいる地点に振るう。が、その攻撃は空を切り、代わりに歪みから真っ黒なローブに身を包んだ何者かが現れた。いやまぁ私は正体知ってるんだけど。


「何者ですかぁ?」

「ちーっす、情報屋さんでーす」


 同じ黒ずくめでも倒れている黒ずくめ君――いや確かクレメオは奴をジェノサイドキング君って呼んでたね。――よりも軽薄そうなその声は間違いなく私がこれまで会ってきた情報屋のそれだ。


「情報屋ぁ、何でお前がここにおるんなら」

「君がこの洞窟に入ったって情報があってねぇ、おまんまの種があるかなーって思ってこっそり後を追ってみたらこれじゃん?」


 さらっとこいつストーカー発言しましたよ?ブトーレントルーパーの時も似たようなことしてたし、今回助けられたから強く言えないけどさぁ……って!情報屋の奴、こっちに顔向けて話しているうちに土蜘蛛が迫ってきてるが!?


「情報屋前見ぃや!」

「大丈夫大丈夫!」


 いやお前、もう大剣振りかぶってますけど!?私動けないからガードに回ったりできないんですけど!?見た感じ情報屋って私のようなタンク型じゃないしそのままキルされてしまうのでは!ああっ、剣が振り下ろされ……あれ?


「何?」

「残念、キレてなーい」


 情報屋はこちらに視線を向けたまま半歩だけ後退することで土蜘蛛の攻撃を紙一重で躱した。後頭部に目でも付いてんのって言いたいくらいだよ。

 大振りな一撃で土蜘蛛は一瞬動けずにいる。情報屋はその隙を狙って攻撃……あれ?何でこっちに向かってんの?あれ?何で私担がれてんの?ちょっと情報屋さん?めっちゃ恥ずかしいんですけど?


「おい情報屋何しとるんなら!」

「何ってほら、逃げるから」

「逃げるぅ!?」

「あらぁ逃がすと思う?」

「絶対ヤンキーは逃がしませんよぉ?」


 逃げると言われて勿論逃がすわけには行かないわけで。帰蝶が鉄線を、クレメオが鞭で攻撃を繰り出すが、情報屋は躱すどころか、2人の間をすり抜けその後方で待ち構える土蜘蛛の横一閃も、私を担いだまま跳躍することで回避しそのまま駆ける。って速っ!って待って!


「ちょ待て!犀繰は!」

「え?ゴーレムならステータス画面で戻せるだろ?」


 え?あ、ほんとだ。この機能離れてても大丈夫なのね……じゃあ戦闘中も戻して出せば少なくとも犀繰は拘束解除で来たのでは……?あーでもインベントリに戻した犀繰のエネルギーは僅かになってもう少しで動けなくなるところだったみたいだ。ごめんね、犀繰。


 その後も奴らの差し金か、異様な数のファンキースパイダーが飛び出してきたが、その全てを情報屋は回避し切り抜けた。私、結構な大きさなはずで、女子的には屈辱的だけど重さもある。そんな私を担ぎながらも速度を緩めず攻撃を躱す情報屋はそれなりのポテンシャルがあるのは分かるんだけど……


「なんで攻撃せんのんなら?」


 情報屋は一切の攻撃をどの相手にも繰り出さなかった。私を降ろして戦闘すればいいものを一切降ろすことなく回避行動に専念する。逆に一切の回避をとらずにノーガード戦法をする私には未知の領域だった。あ、回避してる時、情報屋は遠慮なく激しい行動するんで私ジェットコースターに乗ってる気分ですはい。

 さて、私のそんな疑問だが、情報屋は足を止めずそのまま語ってくれた。


「あー、ご存じの通り俺は情報屋してるだろう?その中でポリシーというか決めごとがあってな。死に戻りしたらその際に得た情報は売らないことにしてるんだよ。普通、死んだら情報を持って帰れないからな。こう言うとあれだな、ヤンキーちゃんのRPみたいだな」

「なるほど」


 RPと言われちゃ頷かざるを得ない。


「んで、情報を絶対に持ち帰るにはと考えたら行き着いたのが下手に戦闘せずの回避特化スタイルってだな。ちなみにあいつらとまともに戦ったら俺はもう溶けるように死ぬよ?――まぁこれくらいの情報なら金取らなくてもいいか」


 別のこと聞いてたら料金とってたのかこいつ。油断ならないなぁ……ってかいい加減私降ろしてくれませんかね?この状態だと私麻痺ポーションも使えないんですけど?と暗に言ってみたら拒否された。理由はこうだ。


「いやぁ、インベントリに入れられないアイテムの運搬の練習になるからな!」


 お荷物扱いですかそうですか。いや、助けられたんだから文句言えんけど。

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