第100話 ファッションヤンキー、ドラゴンに話を聞く

 このギラウェア火山の守護竜という異名を持つサラマーダさん。その名の通り、ギラウェア火山を守護していたところにムラムラマッサンが現れその見た目の怪しさに守護本能を掻き立てられ攻撃を仕掛けたのだとか。己は竜だから人間などすぐに屠れるだろうと思ったそうだが、ムラムラマッサンはこれを割とあっさりいなして――攻撃を避けながら何か会話しだしたという。


「我がブレスを吐いたらそれを刀を振った勢いで消し飛ばしたら『ここあつない?』とか聞いてくるし、尻尾で叩きつけようとしたら刀の鞘で弾き返して『このサングラス拾ったんやけどもらってもええ?』とか聞いてくるし……我は察した。この者は強いがギラウェア火山を脅かすものではないと。言動阿呆だし」


 そんな風に出会った時について話すサラマーダ。その目はどこか遠くを見ていた。ムラムラマッサン、やべぇことしてたよ。竜と話しながらも渡り合うとか並みのプレイヤーじゃないよ。そして、サラマーダの話を聞いてパックンさん、重苦しく頷かないでください。心当たりあるんですね。


「いやぁ、サラマーダがすぐに手を引いてくれて助かったわ。あのままやったら俺、死んでたかもしれんからなぁ」

「私、アンタが死ぬところ見たことないんだけど?そんな事よりもよ。ほら、オウカ」


 出会いの話はここまでと打ち切ったパックンさんが私にトルネイアの事について話すよう促す。そのために来てもらったんだもんね。でも……サラマーダに見下ろされるの、結構威圧感あるなぁ。私に威圧眼使われた相手もこんな感じだったのかな、悪いことしたかなぁ……今後も問答無用で使うけどね?便利だし。

 おっと、トルネイアの話ね。話す内容としてはパックンさんに話したものと同じだからそこんところは省略。かくかくしかじかで――

 サラマーダは話を止めることは無く頷きながら私の話に耳を傾け、終わった時には顎の部分に手を当てて考えるそぶりを見せていた。あ、逆鱗って顎にあるっていうけど顎触ってもいいのかな?なんてどうでもいいことを考えていたらサラマーダは口を開いた。


「そうだな。まず、我とトルネイアはあまり接点は無い。我が火で奴が水故、生息域がそもそも違う」


 でしょうね。属性的にはむしろサラマーダはトルネイアは苦手な部類だよね。でもその声音には嫌悪感は感じない。仲が悪いということは無いんだろう。


「だが、最後に会った――30年前か?それくらいの時に奴と話したが落ち着いた奴だったと思う。我のようにいきなり攻撃はせんだろう」

「自覚あるんじゃのぉ」

「俺は気にしてへんけどな」

「そんな奴が不意打ちまがいのことをするとは、相当その大蜘蛛に喰われかけたのが腹に据えかねたのか。別の要因があったか」

「マザーファンキースパイダーってモンスターじゃったけど、サラマーダならどうなん?」


 大蜘蛛としか言ってなかったけど、ここでモンスター名を出した。もしかしたらプレイヤーに知られていないだけでひっそりと竜特攻みたいな力を持っているのかもしれないしね。


「その程度のモンスターは一瞬で炭だ。トルネイアも水圧で圧殺だろう。が、それが出来なかったということは……毒でも盛られたか?」


 毒?ドラゴンに毒ってあまり効くイメージ沸かないんだけど?寧ろどんな状態異常も弾き返すイメージがある。


「我等ドラゴンには各自苦手な状態異常が存在する。他者に明かさないのでトルネイアの苦手な状態異常は知らんが。それを突かれると弱体化はする。無論、苦手ではあっても弱い毒には抵抗できるがな」


 裏を返せば強力な毒だったらドラゴンを弱体化は出来るのね。これ、かなり重要な情報なのでは?トルネイアの暴走とかじゃなくてドラゴンの討伐的な意味で。

 ま、私毒とか使うプレイヤーじゃないから関係ないけど……ん?毒?そういやカップル嫉妬仮面女も毒使ってたよね。……まさかね。

 じゃあ毒以外だと?


「力で抑えるってのは出来るんか?」

「出来ないことは無いが、相当な力がないと……ふむ。お前は中々そちらの方面には優れているみたいだな、どれ」


 そう言うとサラマーダは前脚を私の頭上に……え、え何してんのこのドラゴン。何ゆっくりを下ろしてらっしゃるのですか?


「その黒刀を使ってもいい。ゆっくり下ろすから受け止めてみろ」

「あぁん!?」


 非難の意味を込めて返したけど、意に介さず本当にゆっくりとサラマーダの前脚が迫ってくる。パックンさん!……あ、口パクで頑張れって……ムラムラマッサン!……お前何犀繰乗ろうとしてんの!?

 あぁもう、やるしかないの!?って本当にゆっくりだね。そんな風船が落ちるみたいな……あ、でもこれなら不動噛行を頭の上あたりで横に構えて――えぇ重っ!なにこれこんなの今まで感じたことないくらい重いんだけど!?流石ドラゴンですね!大蜘蛛とは本当に比べ物にならないですね!あかん、何か足の辺りが沈んでいる気ががが。ってよくよく考えたら力ってんならパックンさんの方が絶対あるよね!何で私なんですかね!?


 

「ふむ、10秒耐えたか。そのレベルでそれだけ耐えることが出来るのであれば優秀だ」

「そ、そうじゃろう」

「ただ、ドラゴンに挑むには足りんな。せめてムラッサン程でなくては。」


 あー疲れた。いやでも、10秒しか経ってなかったんですか?うっそぉ、絶対5分くらい経ってたって。そうだよね?パックンさん。あ、本当に10秒ですか。さり気に私のレベル分かってるみたいだしドラゴンパネェ。そしてムラムラマッサンレベルを求めないでいただけるとありがたいです。


「ところで、お主……名前はオウカか。オウカはその背のドラゴンのことは知っているのか?」

「ん?背?この黄金龍のワッペンのことか?」

「そうだ。そのドラゴンは――金華龍クリューソルスという」

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