第86話 ファッションヤンキー、試運転をする

 今私の目の前には、私の追い求めていた理想のものが存在していた。地をその三輪で踏みしめ雄々しく佇むその姿は圧巻の一言に尽きる。一度はパックンさんに無いと言われて諦めかけたバイク……その夢が今叶った……!ヤバい、木刀の時よりも嬉しいかもしれない!


「あれ?ヤンキーちゃん泣いてない?」

「泣いとらん!これは汗じゃけぇ!」

「言い訳古いな?」


 言われて気付いたけど本当に涙流してたよ私。でもそれも仕方ないことだと思うよ?ってか涙出るのねこのゲーム。乱暴に目に溜まった涙を拭い去り三輪バイクに手を当てる。おぉ、まさに鉄のような質感。


「じゃあそのままマスター認証するぞー?オウカー、バイクに触れたままウィンドウを開いてみろー?」


 クリカラに指示された通りにウィンドウを表示する。すると、新たに"使役MOB"という項目が増えていた。そこをさらにタッチすると"中立性ゴーレムに触れています。使役しますか?"と表示されたので、勿論YESを選択。

 すると今度は"ゴーレムの使役に成功しました。名前を付けてください。"と表示される。

 おおう、あっさりと使役成功しちゃうのね。クリカラに造られたものだから抵抗もするわけないか。これがモンスターとか敵性のゴーレムだったら話は別なんだろうな。

 うーむ、名前かぁ。よし、元々がサイ型ゴーレムのリノギガイアだから――


「よし、お前は犀繰サイクルじゃ。」

「ダジャレかー?」

「別にいいじゃろうが!犀を操ると書いて犀繰!漢字で書けば格好いいじゃろうが!」

『認証、完了。俺の名は犀操。オウカの姉貴に忠誠を誓う者。』


 うわ、ビックリした。クリカラに文句言っているとバイク状態の犀操が急に声を発した。リクエスト通りの重く低い声だ。ちなみに呼び方は兄貴とかにしたかったんだけど変更不可能らしい。そこは融通効かないのかよ。


「おう、よろしくのぉ犀操。早速じゃけど変形してくれるか?」

『ウス。』


 私の要望に短く返答すると犀操はガシンガシンと音を立てながら変形を開始する。さながらヒーローものに出てくるロボットのように。へへへ、気を抜いちゃうと顔が緩んじゃいそうだよ……にやにやしちゃう。情報屋も口をポカーンと開けて茫然としている。変形云々話していた時はまだ聞いていただろうけど実際に目にして驚いているんだろう。

 ものの数秒も経たないうちに出来上がったのが私の身長をも超える大型の人型ゴーレム。いや、シュバルツもそうだったけど、どう取り繕ってもロボットだわ。

 タイヤは収納されたが、その代わりに腕に私が提供したリノギガイアホーンが装着されていた。中々様になっているし、これで攻撃したらいい威力が出そうだね。


「動きに不具合はあるかー?」

『問題ない。』

「そうかー。じゃあもう一度バイクに――」

『姉貴以外の命令は聞かない。』

「……めんどくさい奴だなー。オウカー。」

「あー、犀操。バイクになってくれんか。」

『ウス。』


 面倒くさいって……いや、そういう性格にしてくれって言ったの私だけれども。こう、製作者権限で従順になるとかは無いんだね。

 犀繰は再びバイク状態へと変形が完了した。うん、やっぱり格好いい。汚れたりしたらしっかり綺麗にしたりしてあげなくちゃね。いやでも、汚れた機体ってのもそれはそれでいいね。


「変形ギミックに問題は無さそうだなー。じゃ今度は運転みてくれー」

「おう。犀操、いいか?」

『俺は姉貴の物だ。乗ってくれ。』


 ……聞こえによっちゃあ重いセリフだねこれ。間違いではないんだけども……これで勘違いされるようなことは……無いな!そもそも犀繰見た目バッチリバイクorロボットだし!

 シートに座ってみる。おぉ、特に固すぎず柔らかすぎない良い座り心地だね。えーっと確かハンドルを掴んで――こう!


「おおう!?」

「あっぶねぇ!?」


 思いっきり捻ったからか思いっきり加速した犀繰は一直線に情報屋に突っ込み、追突寸前に情報屋が華麗に交わした。いや、回避後すっころんだ。華麗度減点。

 んー?おっかしいなぁ。こんな感じだと思ったんだけど?


「いやーすまんすまん。」

「もしかしなくてもヤンキーちゃんバイク乗ったことない?」


 そりゃあ自宅から徒歩登校可能な女子高生がバイク乗る事なんてそうそうないでしょ、免許も持ってないし。バイク運転したことなんてレースゲームの中でしかないですよーだ。

 なんて女子高生とかリアル個人情報は出すわけにはいかないので乗ったことないことだけ言っておこう。


『姉貴、指示してくれれば俺自身で運転することも可能だ。』

「……本当なん?じゃあクリカラの作業小屋をサクッと一周。」

『ウス。』

「えっ、待ってくれー?表はともかく裏は悪路――」


 クリカラが何やら言い終わる前に犀繰は走り始めた。私はハンドルを回してないし特別何か捜査しているわけではない。本当にハンドルを掴んでいるだけでクリカラが勝手に走ってくれているのだ。

 ……にしても静かすぎませんかね。なんかこう、思ってたんと違うような……ってあれ?小屋の裏に回ったところで私の目にあるものが飛び込んできた。砂利!?


「ちょ、犀操!前!砂利!」

『問題ない。』

「えぇぇ!?」


 私の制止の声に犀繰は全く焦らず砂利道に飛び込む。あぁ、こけたら大ダメージなんだろうな。最悪死に戻りだろうな……なんて思ったが、それは杞憂だった。犀繰はでこぼこ道をものともせず突き進んでいる。多少揺れはあるが苦になるほどでもない。思った以上に犀繰は優秀なのかもしれない。――ただ、問題ないならもうちょっと言葉を増やしてほしいな。



 何事もなく戻ってきた私を出迎えたのは少し焦った様子のクリカラだった。クリカラは犀操のボディを隅々まで観察すると安心したようにため息をついた。


「焦ったけど問題ないみたいで何よりだぞー?」

「おぉ、どうなるかとは思ったけどのぉ。ところでよ、エンジンって無いんか?」

「んー?そりゃゴーレムの力で動くからなー?エンジンなんて存在しないぞー?エコだぞー?」


 ゲームの世界に対してエコロジーを考える必要があるのかはよく分からないけど。そうかー、エンジンないのかー。通りで運転中静かなはずだよ。


「どうした、ヤンキーちゃん?物足りない物でもあったのか?」

「やっぱりこんだけゴツイバイクだと重いエンジン音が欲しいなと……」

「そうかー。でも残念だけどそんな機能は――」

『姉貴、出来るぞ。』

「「「へ?」」」


 3人とも犀繰の言葉の意味が理解できず、間の抜けた声を上げて犀操に視線を集中させる。そして、犀操はそれに応えるように――大型バイク特有の心臓の音をボリュームアップしたような重いエンジン音を響かせたのだ。

 まさかの行動にまず声を上げたのはクリカラだった。


「え、えぇー?ちょ、そんな機能つけた憶えないぞー?」

『今付けた。ゴーレムネットワークにアクセス。"ビルド"のクギに依頼し、エンジン音をダウンロードしてもらった。』


 え、何やってるのあの妖精AI!?

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