第87話 ファッションヤンキー、風になる

 クギにエンジン音をダウンロードしてもらったという犀繰は見事にブォンブォンと重点音を響かせていた。……うん!まさかの協力者に驚いたけれど理想のバイクになったんだ、気にしない!気にしないけど今度教会で祈っておこう。

 そう言えばとクリカラに聞いたが、ゴーレムの燃料はアイテムとのこと。それこそドロップアイテムでも料理でも渡せば勝手にエネルギーに変換してくれる。これで燃料がMPとか言われたら私詰んでたね。MP未だに一桁だし。

 次にゴーレムはアイテムとしてインベントリに収納できるらしい。収納しているときは燃料を消費せずに済むらしい。……バイク入るのか……プレイヤーってすごい。


「もし聞きたいことがあったらメッセージで聞いてくれー。破損したら対応してやるからなー?あとはー、また金核とかゲットしたら売ってくれー?高額で買い取るぞー。俺も乗り物作ってみたいからなー」

「銀核とかじゃ出来んのんか?」

「ミニチュアサイズなら出来るんだけどなー?乗るサイズとなると金核以上じゃないとなー」


 ミニチュアでも需要有りそうだけどね。それこそカメラ搭載してラジコンみたいにして偵察ーとか出来そう。……それだとゲーム変わりそうだね。

 ところでさっきから情報屋は何犀繰の周りをぐるぐる回ってるんの?あ、スクショ撮ってるんですか。一部の層から人気ありそうだから?まぁいいけどさぁ。


「ヤンキーちゃん、この犀繰の情報は売ってもいいのか?」

「別に流れてもクリカラの所に殺到するだけじゃろ?俺はどうでもええよ。」

「紹介はいいけどー、あんまりうるさいのは連れてくるなよー?」

「分かってるさ。」


 作ってもらった私が言うのもなんだけど、このバイクゴーレムはプレイヤーからしたら一種の革命だからね。今まで徒歩や馬車が主な移動手段だったのに一気に楽になるものが出来たのだから。入手がちょっと困難だけど。

 さて、情報屋の犀繰スクショが終わったところで私はクリカラに約束の金額を支払い犀繰に乗り込む。私は今すぐにでも風になりたいのだ。


「それじゃあ、クリカラありがとうのぉ。」

「仕事だからなー。」


 クリカラに軽く手を振り、私は力強くハンドルを回す。それに合わせて犀繰がエンジン音を響かせる。お腹に響くいい音だぁ。


「発進じゃあ!」

『ウス。』


 私の言葉を合図に犀繰は走り出す。そのスピードは徐々に高まり私が出せる猪突でのスピードをすぐに追い越した。ってかこれ凄いね、風を切る感覚が鮮明に感じられる!……リノギガイアに突き上げられて落下してる時も味わってたわ。



 ところ変わり私は今ポートガス街道でツーリングを楽しんでいた。理由?単純に私が知ってる中で一番走りやすいフィールドだからだよ。ワンズフォレストその名の通り森だし。林だったらワンチャンかもしれないけど森は無理だよ。

 という訳で走ってるんだけど、これが凄い快適。徒歩のプレイヤーなんて余裕で追い越すし、馬車すらもなんてその。追い越す度にバックミラーで確認するけど誰もかれもが大きく口を開けて、茫然とこちらを見ていた。目立ってるぅ。


「犀繰、走りに問題は無いんか?」

『俺に問題ない。が、前方にゴブリンチーフだ。』


 犀繰の言った通り、進行方向にゴブリンチーフが立っていた。近くには他のゴブリンはいないようだね、1体だけだ。うーん、もうちょっと走っていたいし、わざわざ降りるのもなぁ……そうだ。

 

「犀繰、突っ込んで倒せるか?」

『可能だ。』

「よしやれ。」

『ウス。』


 短いやり取りの後、言葉の通り犀繰は一切スピードを落とさず――いや、更に加速しゴブリンチーフに突っ込んだ。突然の追突に反応できなかったゴブリンチーフは私がリノギガイアに吹っ飛ばされた時のように上空に打ち上げられた。バックミラーで確認すると、落下し地面と抱擁したチーフは消え去っていた。彼は何が起こったか分からず逝ったのだろう……南無。にしても轢き逃げアタックやばいな……モンスターならともかくプレイヤー相手にはしないようにしよう。

 そしてゴブリンチーフを轢いてから数分後、ある事に気付いた。ドロップアイテム拾うの忘れてた。


「はっや。」

『これくらい当然だ、姉貴。』


 どこか誇らしげに返答する犀繰。私達はドヴァータウンの門前に着いていた。所要時間半分以下の時間で着いちゃったよ。転送の間を使えば一瞬とかそんな野暮なことは言いっこなし。走るという行為が重要なのだよ。

 さて……ドヴァータウンに着いたことだし、今度は……


「もっかいウーノまで行くぞぉ!」

『ウス。』


 まだだ、まだ私は走りたらんよ!後ろから誰かが声を掛けてきた気もするけどすまんな!エンジン音で良く聞こえない!機会があったらまた聞いてね!私はまだ風になり切れてないのだから――!


『姉貴、残り10分程走行したのち燃料は尽きる。補給を迅速に頼む。ちなみに燃料は元々半分以下だった。』

「クリカラ補給位満タンにしといてくれやああああああああああああああああ!!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る