第80話 ファッションヤンキー、狙うは…!

 リフトアップを発動したおかげか、成人男性のはずであるムラカゲの体を私は易々と持ち上げることが出来た。既にムラカゲの足は床から離れて宙ぶらりん状態だ。ふはは、自慢のスピードも走れなければ意味もないねぇ?なんて悪役っぽいかな?


「全く。その細腕のどこに儂を持ち上げるほどの筋肉があるのやら。」

「さぁての!」


 軽口を叩くムラカゲを私は持ち上げたまま、近くの壁に思いきりぶつけようと歩を進める。その狙いに気付いたのか、ムラカゲは竹刀での攻撃を繰り出す。多少のダメージこそあれど、踏み込みの入ってない攻撃なんて私にとっては塵に等しい。とは言えオークよか痛いけど。


「どらっせぇい!」

「ぬぐ……っ」

「「「師範っ!」」」


 抵抗むなしく、ムラカゲは掛け声とともに壁に強く叩きつけられた。これには流石のムラカゲも効いてくれたようで、苦し気な呻き声をあげ、今まで静観していた弟子たちからも焦るような声が聞こえた。

 だが、残念ながらこれで終わりじゃあないんだよね。まだ私はムラカゲの襟から手を離していない。ふふふ、さっきのは一番最初に会った時一撃でHP1まで削られた私の分!そして次はその後に掌打でやられた私の分だ!


「喰らえぇや!」


 スキル、"ハンマーヘッド"で私のおでことムラカゲのおでこをごっつんこだ!……正直あまりタイプでもないおっさんの顔に急接近するのは抵抗あるけど、一番効果のあるスキルだろう。

 大槌で大木を殴りつけた様な鈍い音が道場に響き渡る。……あっ、ヤバい。ムラカゲ思ったよりも頭固いんですね、私もダメージ受けてら。

 にしても私これ、道場破りというより道場荒らしの方が文字的にはあってる気がする。荒らしてるよこれ……

 さて、ムラカゲはと言うとハンマーヘッドをもろに受けたおかげでスタン効果が入って……あれ?軽い?あれ?でも襟はまだ掴んで――道場着しかない!?


「やれやれ、今のは効いたぞ。」

「テメェ……服を脱いでうごっ!?」


 脱いで逃げたんか、私はそう言いたかったんだけど、紡ぐことは出来なかった。何故なら喋っている途中でムラカゲの竹刀が私の喉を突いたのだから。

 結果から言うと、私はまだ生きていた。いやでも、変な息しか出ない。あ゛、あ゛ーよし、声は何とか出るね。

 ……うん?待って、道場着を脱いだってことは今アイツ上半身真っ裸って事!?え、ムラカゲ男だからいいけどこれ女性キャラの場合どうなんの!?特に胸の辺り……!私から逃げるために上着を脱いだムラカゲに視線を向ける。そこには――!


「ほう、生きているか。」

「ぶっふぉっ!!」


 吹いた。吹いてしまった。何故かってそりゃ……!お胸の、乳首の部分が眩く光ってるのだから!頭よりも!いや、間抜けすぎません!?しかもムラカゲが真剣な表情なのがさらにシュールさに拍車をかけている!あー駄目だ、落ち着け。私はヤンキーだ。こんなことで負けるとか私が私を許せなくなる。ふー……よし。


「こちらこそ、元気そうでなによりじゃのぉ。足に来てないんか?」

「なんの。まだまだ衰えておらん。が、歳なのは変わりない。そろそろ、仕舞にしたいところだが。」

「そうはいかんのぉ。俺もアンタも両の足で立っとるじゃろうが。漢と漢の喧嘩ってのは倒れたほうが負けってのが常識じゃろうが。」


 私女だけど。


「くくっ、そうかそうか。相すまぬな、腑抜けたことを言った。そうだ、儂も漢だ。お前と同じくな。ならば漢と漢の決着を付けようか。」


 私女だけど。

 そんな私の心の声は当然のことながらムラカゲには届かず、互いに木刀と竹刀を構える。私は片手で持ち、ムラカゲは剣道のように両手で構える。あ、ムラカゲの道場着はもういらないや。ばっちいし、流石にここで目くらましに使うほど私は腐っちゃいないよ。

 静寂が道場を包む。先程までどったんばったんやっていたのが、嘘みたいだ。1秒、また1秒と時が過ぎ――

 全く同じタイミングで動いた。


「しっ!!」


 だが、同じタイミングと言えどスピードは兎と亀のそれだ。ムラカゲは瞬時に距離を詰め私の懐に潜り込み竹刀を叩き込む。剣道の胴打ちのような感じだ。

 急激にHPが減少する。そりゃまぁ、思いっきり打たれたからね。ムラカゲの力の籠った一撃は私のタフさをもってしても、体力極僅かしか残せなかった。あっぶなああああああああ!


「耐えきったぞ……!!」

「見事!」


 ムラカゲは私の腹部に竹刀を置いたまま、薄く笑った。別に私は拘束していないが、避けるつもりは無いのだろう。避けられたら私終わりだからね。ムラカゲの思惑はよく分からないけどここは有難く。

 不動噛行を振り下ろす。その行き先は、ムラカゲの肩でも腹でも顔でも胸の光でもなく……最初から狙っていたそのつるぴかりんな頭の方じゃああああ!!


「おっらぁ!!」


 鈍い音が響き、次に竹刀が力の抜けたムラカゲの手から離れ、床に落ちた音がした。そして最後に、ムラカゲ自身の体が床に倒れ……る前に私が抱えた。別にこのまま追撃するわけじゃない。そこまで非情じゃないよ私。ただ、そうしなきゃ失礼かなと思っただけ。道場破りっぽくないかもしれないし、ヤンキーっぽくないのかもしれない。でも、私は受け止めるべきだとそう思った。


"特殊クエスト 道場破りをクリアしました!"

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