第79話 ファッションヤンキー、ムラカゲに挑む
「ちぃとは痛がってくれんのんか?」
「これくらいで痛がって師範なんぞ努められるか。」
仰る通りでございますね。脚を降ろし少しだけ後退する。改めて確認するけど、本当にダメージを負った様子には見えない。やっぱり何も装備してないただの靴じゃダメージも期待できないか。となると次の目標は安全靴もしくは鉄下駄かな?――なんて考え事してる場合じゃないですよね!
距離を詰めるようにムラカゲは一歩踏み出しその勢いのまま拳を叩き込もうとする。これがゴブリンとかそこらのモンスターならそのままノーガードで受けてましたけどね、ムラカゲはそんなレベルじゃない。ので腕を交差させ、一撃を防ぐ。……結構痺れたけどね。
「やはり、前回とは全く違うな。しかしどうする?お前の蹴りは儂には届かんが。その木刀を使うか?」
「そうじゃのぉ……出来れば竹刀を持たせたかったんじゃけど、しょうがないのぉ。」
もっと言うとこの木刀でも一撃食らわせたかったんだけど、ぶっちゃけ壊されそう。テレビで見た回し蹴りでバット折るみたいにボッキリいかれそうで怖い。なのでトレントの木刀をアイテムボックスに収め、代わりに不動噛行を取り出す。
「ほう?黒いの。それにその木……まさか。」
私が取り出した不動噛行を見るや否やムラカゲは方眉を上げ、凝視する。え、もしかして素材に気付かれた?確かにテキストには分かる人が見れば云々書いてたけどムラカゲって分かる人なの?かと思っていたら大爆笑し始めたんだけどおっさん。ほら、弟子たちもポカーンとしてるよ。
「ハーッハッハッハ!まさか、一財産を投げ捨て木刀とするものがいるとは!なるほど、お前にぴったりだ!」
私にぴったりとかなんだそれは馬鹿にされているのかよく分からないな。ってか笑い過ぎでは?そんなにツボることなの?よし、気持ちよく笑っているところに申し訳ないけど攻撃を仕掛けさせてもらおう、卑怯かもしれないけど。
私はムラカゲの鳩尾目掛け、突き攻撃を繰り出す。この攻撃は蹴りの比ではない。喰らえば大ダメージは免れないだろう。それどころか、倒せるかも――
なーんて、我ながらフラグ立てちゃったよ。
「それを出されてはこちらも出さねばな?」
「漸くかぃや。」
はい、竹刀で防がれちゃいました。どこから取り出したのやら。だがしかし、これで第一の関門というか目標である竹刀を持たせるというのは達成できた。
でもさ、ちょっと納得いかないというか気になることが出来た。あの竹刀、打撃も斬撃も兼ね備え、破壊道の効果も載った不動噛行の一撃に耐えている。明らかにただの竹刀じゃないよね。それかムラカゲの能力か?
「ほれ、ぼさっとしとらんと。行くぞ。」
「ってぇ!」
嘘でしょ、考えてはいたけど目は離してなかったのに気づいたら肩の付け根あたりに一撃入れられた!HPの大部分を持っていかれるほどの攻撃力ではなかったのは幸いだけど、この調子で喰らわされ続けたらいずれ負けてしまう。
見ると、ムラカゲは竹刀を学校でまるで男子がやっているのを見た剣道のように構えている。もしかしてバディウス流剣術って剣道?……なわきゃないか流石に。それだったら剣道プレイヤー全員バディウス流になっちゃうしね。
っと危ない!飛んできた竹刀の一撃を不動噛行で何とか払う。そのまま大きく振るうが紙一重ともいえる程ギリギリで躱されてしまう。そして振り終わってガラ空きの私に近づき今度は頭かよ!こんななりしてるけど女の子だよ!?
「ふむふむ、やはり遅い。確かにお前の頑丈さや力は見事だ。しかし、速さが伴っていなければ避けるのも容易いと言うものよ。」
「そりゃ当たり前じゃあ。俺ぁ速さなんぞに興味ないけぇのぉ。」
「それはそれで結構。だが、速さが足りなければ儂には及ばぬと知れ。」
分かってますって、速さが足りないことくらい。シャドルとの対戦でも感じていたからね。でも遅いからってなにも対策がないわけじゃない。
「及んでやろうじゃねぇか!」
足を大きく振り上げ、床を強く踏みしめる。"震脚"の発動だ。少しばかり床が減り込んじゃったけどそこは許してほしい。渾身の力を込めた震脚は道場を大きく揺らす。何かが落ちる音が聞こえ、後ろでは弟子たちのものだろう、悲鳴が聞こえる。そしてムラカゲはというと――
「ぬぅっ……!」
突如の揺れに身を屈め、足を止めていた。これを見逃す私ではない。未だ揺れる床を踏みしめ、今度こそ近づき大振りの一撃を叩き込む!
「いやはや、踏みつけるだけでこれほど揺らすか。見事。」
悔しいまでに平然とした顔で受け止めたよこのおっさん!もうちょっと焦ろうよ。
だから焦らせてみせるよ。今の攻撃だってアンタを抑え込むための一撃だったんだ。
前回は気にしてなかったけど、私とムラカゲとでは私の方が身長は大きい。
「のぉ、ムラカゲさんよぉ……男なら力比べしようやぁ。」
「っ貴様!」
気付いたところでもう遅い。私は鍔迫り合いのまま、上からムラカゲを押しつぶさんとする。
……にしてもこうしても竹刀壊れないかー。軋む音とかも聞こえないし、これはもう壊れないものだと思うしかない。それならそれで好都合だしね。いきなり折れてバランスを崩すなんてことが無くなるし!
しかし、拮抗するなぁ……無理な体勢なはずなのにねぇ、それほど差があるのかな?ただまぁ……ここまで近づければ届く。
私は残った片腕で、奴の道場着の襟をつかみ、リフトアップを発動させる。
「つぅかまえたぁ」
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