第35話 ファッションヤンキー、助けた相手と話す

 誤解が解けそうなわけだけど、それでも何でリヒカルドとやらは私が無害な存在だと分かったんだろう。こんな見た目だから絶対誤解されるのにリヒカルドは盗賊ではないと言い切った。そんな私の困惑の視線に気付いたのか、リヒカルドは苦笑いを浮かべ話始める。


「実を言うと、私もプレイヤーなんですよね。あなたをプレイヤーだと判断したのは私のスキル、"顧客判断"です。これ、操作なしで人が犯罪を犯しているプレイヤーか住人か分かるんですよ。」

「ほぉ、便利なスキルじゃのぉ。」

「でしょう?結構重宝しているんですよ。……あ、そろそろソレイユさんから降りていただけますか?」


 言われてみれば馬乗りしたままでしたね。忘れていただなんて言ったらもう一回襲われそうだから黙って離れますとも。

 拘束を解除されたソレイユはぶつくさ言いながらも立ち上がり、お嬢様を守るように私との間に位置どった。いや、お嬢様に手を加える気さらさらないってば。

 そのお嬢様はソレイユからひょこっと顔を出し恐れ無き眼でこちらを注視しているし……何だこの状況。


「さて、改めて自己紹介しましょうか。私はプレイヤー名リヒカルド。しがない商人です。それとソレイユが隠している通称お嬢様、彼女もプレイヤーでして。」

「お嬢様もなん!?」

「そーだよー!」


 私の驚きの声に反応してお嬢様は大きく手を振り声を上げる。マジか、パックンさんは女ドワーフだからロリ体系なんだろうけど、それ以外の種族でこんなに小さな女の子は見たこと……あったけどそれはNPCの話だ。プレイヤーでこんなに小さな子は少なくとも私は見たことない。

 もしかしたら身長いじくって小さくしている人もいるかもしれないけど、お嬢様もそのタイプ?


「あの子のプレイヤー名はキュルピンキー……私の実妹です。」


 実妹かよ!そしてキュルピンキーって確か前年度のプリキュルシリーズの主人公の変身した後の名前だっけ?

 それをプレイヤー名に持ってくるあたり、これは本物ですね間違いない。それに……お嬢様の衣装もよく見ればどこか魔法少女チックな服装だ。

 にしても兄妹で一緒にゲームするとは仲がいいなぁ、私一人っ子だからちょっと憧れる。


「いやぁ可愛いでしょう、うちの妹。あの子ったら『お兄ちゃんと一緒にAFWやりたーい!』だなんて言い始めちゃいましてね?もうこれは兄として頑張らなくちゃということで寝る間も惜しんで懸賞サイトだったりゲーム販売サイトに張り付いて何とかAFWを手に入れまして。それを妹に渡した時、何て言ってくれたと思います?『お兄ちゃん大好き!』ですよ!はー、これはもう何度思い出しても天にも昇る気持ちですよ。」


 これアカンタイプの人間だ。見た目好青年っぽいリヒカルドだったけどその中身はシスコンのようです、それも超が付くほどの。妹ちゃんの話しているとき段々早口になってきているし顔も紅潮してきているし……真正だ。

 そんな彼だが急に真顔に戻ったかと思うと


「あ、あと護衛役でしたが解雇を考えています住人のソレイユさんです。」

「雑じゃのぉ」

「ちょ待って!リヒカルド解雇って待って!」


 解雇という単語に超反応し、ソレイユは凄まじいスピードでリヒカルドに迫る。住人とは言え結構な美人に迫られりゃ大抵の男ってそれなりに戸惑ったりすると思うんだけど、迫られたリヒカルド平静を保っている。


「ソレイユさんあなた、僕の言葉無視して突っ込んだじゃないですか。」

「だって!お嬢様が危ないと思ったからアレに襲われるって思ったから!」


 アレで私を指さすんじゃあない!失礼だろうが!なんて茶化せる雰囲気じゃないなこれ。何も事情を知らない人が見たら別れたがらない彼女と別れたがってる彼氏みたい。


「だ、大体!リヒカルドだって盗賊に囲まれているとき焦ってたじゃないか!」

「そりゃ焦りますよ。道中に何か起こる可能性は低いって聞いていたのに良くてモンスターかと思ったら盗賊イベントですよ。数が多くてソレイユさん1人では難しいし、ピンキーもクソ盗賊のせいで怖がっちゃうし……その点あなたには本当に助けられました。」

「それは構わんけど……そいつ解雇するん?」


 確かに雇用主を無視して助けた私を襲ったのは問題かもしれないけど、見た目が悪そうな私にも1%くらい悪い点はあったと思うし……何よりソレイユはピンキーちゃんを護るための行動をしてたわけだしすぐに解雇するというのはどうなんだろう。私が口出す問題じゃないかもしれないけど。


「このようなことが二度あっては困ります。商人は信用が第一ですからね、その護衛が恩人に手を出すなんて言語道断です。彼女とは短い時間ですが、友好的な時間を過ごしました。心苦しいところはありますが、ここは解雇すべきかと――」

「お兄ちゃん、ピンキー、ソレイユと別れるのいや!」

「解雇取りやめ!ソレイユさん、これからもお願いします。」


 なんだこれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る