第36話 ファッションヤンキー、謝罪を受ける
「――と言ってもソレイユさんが彼女を勘違いして襲った件は消えていません。謝罪してくださいね?」
「う゛っ」
言われてみれば謝られていないな。でも、別にダメージ受けたわけでも無いし……いや、剣を受け止めたことで木刀の耐久が減ったかもしれないな。損失と言えばそれくらいかな?
そのソレイユというと、ぐぬぬと言わんばかりに顔を歪めている。リヒカルドの言うことも納得できるが、素直に謝りたくもないという思いが滲み出ている。
そんな彼女の服の裾を引っ張る者が1人いた。キュルピンキーちゃんだ。ピンキーちゃんは純粋な眼でソレイユに語り掛けた。
「ソレイユー?悪い事したらあやまんないといけないんだよ?わたしも謝るからいっしょにあやまろ?」
「お、お嬢様……っ!」
「怖い顔のおねーちゃん、わたしの護衛のソレイユがこうげきしちゃってごめんなさい。」
とてとてという擬音が聞こえるように私の前に歩み出たピンキーちゃんは私の目をしっかり見て謝るとペコリと頭を下げた。怖い顔のおねーちゃんて、流石は子供直球だなぁ。
さて、こんなに小さな子が謝ったんだし、アンタはどうなの?と視線をソレイユを向けたときには……あれ?いない?え、リヒカルド?下?下に何が……うおっ!?ソレイユ土下座してる!
「偶然とはいえ゛、私だちを救ってくれた貴女に剣を向けて申し訳あ゛りませんでした!伏してお詫びを申し上げます!」
「分かった!分かったけぇ顔を上げんさい!許すから!」
やめろぉ!私みたいなヤンキーファッションしている奴に土下座はダメだ!肩がぶつかっただけでボコって土下座させる悪いヤンキーみたいに、私がやらせたみたいじゃないか!ほら、リヒカルド背を向けて肩振るわせて、あれ絶対笑っているよね?殴っちゃダメ?
それよりもソレイユ起こす方が先か。怒ってないよーほら、勘違いは誰だってあるからね?私だってこの前アンパンの粒あんと間違えてこしあん買っちゃったからね?死にたくなったよ。
何とか起こしたソレイユの目は真っ赤に腫れていた。
「お前泣いとったんか。」
「私のせいでお嬢様に謝らせた罪は重い……」
それでも泣くほどか。このパーティ、ピンキーちゃんを中心に回り過ぎじゃない?
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「って、俺の自己紹介忘れとったのぉ。オウカじゃ。」
「あぁやはり貴女がオウカさんでしたか。」
うん?その口ぶりだと私のこと知っていたみたいじゃないか。どこかで会ったことは……無いはずだよね。
とは言え、名前を出すような事した覚えはない。強いて言うならシャドルとのPVPくらいかな?でも、リヒカルドは商人って言っていたし、闘技場に顔出すかなぁ……?
「失礼、昨日生産ギルドで中々目を引く依頼を見つけましてね、女だけど男物の特攻服が欲しいという……あまりにも衝撃的だったので、依頼者の名前を憶えていたんですよ。」
「あーあれかぁ……」
依頼は受ける受けない関係なく内容は見れるからね。割と早めに竹輪天さんが受注してくれたけど、見た人はそれなりにいるよね。見られて困るわけでも無かったし別にいいけど。
「こんな依頼誰も受けないだろうなとは思ってましたが、その恰好を見るにいい人に出会えたみたいですね。」
「おぉ竹輪天って奴に作ってもらってのぉ。」
「竹輪天さんですか!これは偶然ですね、ピンキーのこの衣装も竹輪天さんに作っていただいたんですよ。」
「えへへぇ、かわいいでしょー」
嬉しそうに魔法少女風ドレスのスカートの裾をちょこんと持ち上げ、見せびらかすようにふりふりするピンキーちゃんは確かに可愛い。竹輪天さん、こんなのも作れるのか……凄いし世間狭いな。
そして後ろの2人はそんなピンキーちゃんを見てニマニマすな。私とは別のベクトルで近寄りがたい人になっているよ……?
「あゝ天使……さて、オウカさん。実はあなたに依頼したいことがありまして。」
「依頼?護衛か?」
「その通りです。今回の出来事で少し慢心していたと気づきましたよ。ソレイユさんも戦えるのですが、彼女は良くて少数の盗賊であれば戦えるレベル。先ほどのような大多数はぶっちゃけ無理です。」
「本当の事だが、こうもさらっと言われると傷つくぞ?」
リヒカルドの頭に軽く拳骨を落とすソレイユ。力は全然籠ってないのだろう、リヒカルドは何もなかったかのようにそれを無視して話を続ける。
「しかも嫌な予感がしてクエスト欄を見たんですがね?受注した覚えのないクエストが発生しているんですよね。」
「そんなことあるん?」
「あるんですねぇ、これが。私は初めての経験ですけどね……どうやら私の馬車、盗賊の一団にマークされちゃったみたいで。これからドヴァータウンに着くまでの間盗賊のエンカウント率上昇ですって。」
「それ、俺が来とらんかったら詰んでなかったか?」
「詰んでましたね、だから依頼するんです。」
この地点から近いウーノの街に戻るという選択肢もあるらしいが、それでもエンカウント率は変わらないので盗賊に出会ってしまえば、数によってはお終いとのこと。それにその選択肢だとクエスト達成にはならないらしい。ならば私を護衛として同じ目的地であるドヴァータウンに向かえばリヒカルドはクエストの報酬でプラスになり私はリヒカルドから報酬をもらえwin-winとのこと。
「……ポーションは?」
「経費として出しましょう。これでも商人ですからね、そういう在庫はありますよ?」
ふむ、悪い話ではないよね。どうせドヴァータウンに行くつもりだったし……ヤンキーの癖にソロじゃないというのはまぁ、たまにはということで目をつぶろっか。
それよりもピンキーちゃんみたいな小さな子を置いてさっさと行く方が私の目指す仁義あるヤンキーに背いちゃうからね。
「分かった。その依頼を受けるわ。」
「えぇ、ありがとうございます。是非ともお願いしますね?」
契約成立の意を込めてリヒカルドと握手を交わす。それを見たピンキーちゃんも「私もやる―!」と声を上げ手を重ねた。さらにソレイユもその上に手を重ねた。
うーん、こういうのもいいなぁ……ってあれ?そういえば……
「ピンキーちゃんは戦えんのん?」
「何を言いますか!ピンキーをむさくるしい盗賊の前に出すなんて!」
あ、そう。
「プリキュルはね?人攻撃しちゃダメなんだよ?モンスターだけなの。」
あ、そういうこと。
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