第34話 ファッションヤンキー、誤解される
「やっと片付いた……あー、たいぎかったのぉ」
雑魚盗賊を殲滅し終えた私は、長い戦いの倦怠感から脱力し、そこらに転がっていた盗賊を椅子代わりに座る。
ぐぇっと呻くような声が聞こえたから生きてるでしょ。
それにしても長い時間闘戦っていたなぁ……体感で言うとコング・コング・コングよりも戦っていた気がする。やはり数は暴力だよ兄貴。私、一人っ子だから兄貴と呼べる存在いないけど。
ふと、盗賊たちが狙っていた馬車に目を移す。
さっきまでは戦いに集中していたからよく見ていなかったけど、随分作り込まれた装飾をした馬車だなぁ……確かにこれは盗賊の立場からしたら狙うのも当然と言える。絶対金目の物いっぱい持っているもん。
……ん?何か扉ちょっと開いてない?そんでもって誰か覗いてない?あ、開いた。何か剣持った女性が出てきた。え、何かこっちすごい睨んでません?
「のぉ、あんt」
「覚悟っ!」
は!?声を掛けようとしたら、いきなり距離を詰めて斬りかかってきやがりましたよ!?
もちろん大人しく斬られるわけにもいかないですし?戦闘終ってだらけてたから、ポーションまだ飲んでないし、このまま斬られたらスキル関係なくお陀仏してしまうからね!座ったままだけど私だって木刀を振るう。
座ったまま鍔迫り合いとか……もし、私が持っているのが普通の木刀だったら木刀ごと斬られていたよ……パックンさんマジありがとう。ゴッド。ゴッドオブドワーフ。
なんて変なこと考えている場合じゃないよ!?座っているとはいえ私結構押されてる!?これでもATKには自信があったんだけれどこんな華奢な女性に押されるほどなの!?アカン、このままだとやられちゃう!誤解を晴らさねば!
「待たんかい!お前、何か勘違いしとるぞ!?」
「何が勘違いだ、貴様も奴らの一味なのだろう!大方、戦利品の独占をしたかったのだろう、同士討ちを始めたときは驚いたが、今は疲弊した貴様1人。であれば私が貴様を討てば終わりだ!」
盛大に勘違いしておられるじゃんか!私盗賊の一味なんかじゃないよ、ただの善良な一渡界者だよ!?
あぁもう、震脚!震脚!……あれ、発動しない!?震脚って立っていないと発動しないスキルだったの!?知らないよそんなの!
「何だ?いきなり地団太を踏んで……そうか、図星ということか!」
「違うわダアボ!俺は渡界者じゃ!」
「渡界者だと?何を根拠に……!」
渡界者だという根拠?そういえば、どうやって渡界者だって証明できるんだろう。教会で証明書発行だなんて聞いた覚えもないし……あれーこれ証明できないやつ?
だとしたら困ったなぁ。ほら、私の木刀どんどん押されていってね?今私の胸に着きそうなのよ。あ、やっべ威圧眼忘れてた!あるじゃん起死回生の一手!私の思う出来るだけ怖い顔をして女性を睨みつけ"威圧眼"を発動!
「く……っ!?」
「恨むなよぉ!」
私の目を直視した女性の目には、恐れが混じりその身を静止させた。私にかかる力が弱まったのを感じ、その隙にテレビのスポーツニュースで見たラグビーのタックルを見様見真似でかます!体格差もあってか、女性の体は容易く持ち上がりそのまま地面に背中から叩きつけ馬乗りになる。
あっぶな、威圧眼がなかったら私本当にやられていたよ。だが、これで形勢逆転だ。近くに転がってる女性の剣をポイして腕を押さえつける。これで彼女は攻撃できない……はず!
「何をするつもりだ!」
「何もせん。」
「嘘をつけ!くっ……私を辱めるつもりか!だが私は屈しないぞ!」
「俺は女じゃし、そんな趣味もない。」
おい?女性がキョトンとして私の顔と胸部分を交互に見始めたんだが?視線が露骨ですねぇ!やめーやちょっと恥ずかしいでしょうが!
「で、では何故お嬢様が乗る馬車を襲った!」
「お嬢様とか知らんし……そこに転がっている奴らが気に食わんこと言ったから吹っ飛ばしただけじゃ。」
「仲間ではなかったのか!?」
「そう言うとるじゃろうが!そもそも、何で襲う前に仲間割れするんなら!襲い終わった後に仲間割れした方が明らかに楽じゃろうが!」
おい、この人「確かに!」みたいな顔したぞ。キリっとしといて頭残念かこの人。私が言えた義理じゃないかもしれないけど。
それにしてもお嬢様かぁ……そういうやんごとなき人乗っていたのね。
ん?でもそのお嬢様って
「そこで見とる奴がお嬢様か?」
「は?……お嬢様!?ちょ、何で外出てるんです!?」
そう、いつの間にか可愛らしい小さな女の子が私が組み敷いている女性の傍に立っていたのだ。私もこの場にそぐわない女の子の不意の登場に心臓バクバクだよ。
うん?女の子1人じゃないな。彼女の後ろに線の細い優男が控えているな。……もしかして新手?
「あはは、ソレイユが負けちゃってるーおもしろーい!」
「お嬢様!?おもしろーいじゃありません!リヒカルド!お前何故お嬢様を外に出した!危ない状況だと見て分からないか!」
「ソレイユさん……あなた僕の言葉を聞かずにさっさと行ってしまったでしょう?あなたが負けたその顔の怖い人は、本当に盗賊ではありませんよ。それどころか助けてくれたのですから、感謝こそすれ襲うなんてあなた本当に……」
額に手を当てやれやれと頭を振るリヒカルドという男。お嬢様とやらは女性……ソレイユの頬をぷにぷにと突いて楽しそうだ。
あれ?これは……誤解解けた?
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