第33話 ファッションヤンキー、盗賊と相対す

「死にさらせぇ!」

「お前がのぉ!」


 5人目の盗賊の攻撃を腹に受け、ターンアタック状態にしたうえで木刀で殴り返す。

 殴られては殴り返しの繰り返しで倒せてはいるが、如何せん私の戦い方では数の多い盗賊の相手にその戦法は辛いところではある。だって殴られなきゃ一撃で倒せないし、かと言ってターンアタック無しの状態だと攻撃力が微妙に足りなくて倒しきれないんだよ!

 あーもう!囲まれて鬱陶しいなぁ!"震脚"じゃい!

 震脚の効果によって地震が発生、私を取り囲む盗賊たちが突然の揺れに対応しきれず転げまわる。


「テメェら何遊んでやがる!」

「だってお頭!こいつ攻撃しても攻撃しても倒れないんスよ!?」

「倒れねぇ人間なんているもんかよ!俺がやる!」


 そう言うとさっきから指示を飛ばしていたリーダー格っぽい男……お頭が倒れ伏す盗賊の1人を蹴り飛ばし大股でズンズンと私に近づく。

 おぉ、お頭結構大きいね。私よりかは小さいけどさ。お、ゴツイ鉄の棍棒持ってるね。昔話に出てくる鬼さんですかっての。


「オイオイ、よく見りゃ女かよ!野郎かと思ったぜ!」

「お前は思ったよりも小さいのぉ!ガキかと思ったわ!」


 挑発してきたので挑発し返しました。奴の挑発はただの言葉かもしれないけど私のそれは相手を本当に怒らせることのできるスキルだ。私の言葉を受けたお頭は額に青筋を立て棍棒を振り下ろす。

 その攻撃を私は防御態勢をとらずに頭で――受け止める!大丈夫、こいつの攻撃がコング・コング・コングより強いとも思えない!でも棍棒が迫ってくるのは怖いな!

 頭に強い衝撃が走る。が、それだけだ!私の体力は0に達していないし何なら思ったより体力減ってない!

 ご自慢の一撃で私が倒れると思ったのだろう、得意げな顔をして振り下ろした棍棒を肩に担ごうとしたが、その顔がすぐに驚愕に変わる。


「痒いのぉ、それで頭張っとるんか?」

「なっ……!バケモンか!?」

「盗賊にバケモン呼ばわりとは傷つくのぉ?」


 ターンアタック状態でお頭の腹に喧嘩キックを叩き込む。これでお頭もノックダウン……そう思ったんだけど意外や意外、お頭は腹を抑えながらも倒れることなく私を睨み返している。


「ゲホッ!オイオイ、軽すぎて咳が出ちまったじゃねぇか……ま、女の蹴りだとこんなもんだよなぁ!」


 お頭は今度は棍棒を横薙ぎに払う。横腹に棍棒が減り込むが、それでもHPは少ししか減らないし防御態勢を取らないことで不動スキルの発動した私を動かすことは叶わなかった。

 そして殴られたということで私も木刀で首と肩の境目の辺りを殴り返す。倍返しまでとはいかないまでも、奴には十分なダメージのようで苦し気に顔を歪め片膝をついた。


「グガッ……!」

「おぉ?どうしたんなら、女の攻撃で片膝ついちゃってるけど、眩暈でもしたんかぁ?」

「よく分かってんじゃねぇか。あまりの貧弱さにクラっと来ちまって……よぉ!」

「そりゃ大変じゃのぉ。楽にしてやるけぇの!」


 強い言葉を吐いて己を鼓舞し立ち上がろうとしたのか、膝に力を籠めるお頭だが、私はそれを許さず顔面に蹴りを喰らわせ今度こそお頭を地面に伏させた。

 それでもなお、怒りか恐怖かで震える手で何とか起きようとするお頭。凄いな……他の盗賊たちはターンアタック込みで一撃で気を失っているけどこのお頭は私の攻撃3発食らっておいて意識を保っている。相当タフに設定されているのだろう、あくまでもワンズフォレストに出てくるモンスターに比べてだろうけれど。

 さて、そんなお頭の最後の抵抗もむなしく、彼は私の振り下ろした木刀で漸く意識を手放し力なくおねんねした。


「お、お頭が……!」

「やべぇよやべぇよ!おいどうするんだよ!」

「お、俺は逃げるぞ!お頭を倒した化け物に勝てるわけがねぇ!」

「なっ!テメェらお頭に拾ってもらった恩を忘れたのか!」


 うわ、お頭が負けた途端、一部の盗賊が尻尾をまいて逃げ始めた。さながら蜘蛛の子を散らすように逃げる盗賊たちを私は追いかける気になれなかった。単に面倒だし、脚遅いから追いつかないだろうし……

 ただ、全員が逃げたわけではない。残った盗賊は、一時は戦意を失った目をしていたが、信頼していたお頭が負けたことによってようやく奮起したのか、その目にはもはや恐れはなく私を射殺さんとばかりに睨み付ける。

 もはや必要はないと思うけどとりあえず挑発しておこう。その方がぽいし


「おぉ?そこに転がっとる無様なお頭のやられ姿見られて漸くケツ叩かれたか?」

「お頭を……馬鹿にすんじゃねぇ!」

「なら俺を倒して口閉じさせてみぃや!雑魚盗賊団が!」


 私の言葉に堰を切ったように残った盗賊たちが襲い掛かり――そして普通に散った。

 奮起したところで覚醒するわけじゃないし……むしろ数が減ったから戦いやすかったです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る