第26話 ファッションヤンキー、対戦を終える

「何したんじゃシャドル!変なことしやがって!」

「うんうん、いい調子!種明かしは戦闘が終わってからね!」


 フレイムがいきなり軌道変更するという明らかにシャドルが何かしたであろう事態だが、ニッコニコとそれはもう楽しそうに私の周りを走り回り続ける当人。彼女が言っている通り、今は答えるつもりはなさそうである。

 くそう、矢継早にフレイムを放たれているので、私のHPもどんどん減って、今では半分通り越して3分の1までになっている。

 勿論、私だってただ手を拱いているわけではない。近づいて攻撃しようとしたり棍棒を投げつけたりしているんだよ。でも近づいては当たり前だけどその分距離をとられ、棍棒は普通に避けられる。……あいつ、そういえばいつまで走り続けるんだよ!?


 なんて考えている間にもフレイムは飛んできて、それを避けようにも1つは軌道がほぼ直角と言っていいほど変わり私に向かって被弾する。

 これはもう詰んだのでは?まともな遠距離攻撃もない私に離れて攻撃のできるシャドルは相性悪すぎだ。救いがあるとするならシャドルの火力では未だ私を削り切れていないというところかな。


「終わりー!?終わりなのオウカー!私は構わないよー!降参するなら言ってね!しないならフレイム受け続けてねー!」

「誰が降参なんてするかい!」


 ヤンキーは簡単に降参なんてしない!たとえ無理でも当たって砕けてやるわい!

 威勢のいい事言ったけど、このままでは本当に何もできないまま負けてしまう。HPすでに限界であと数発も喰らってしまえば負けてしまう。せめてシャドルが足を止めてくれれば……!

 

 あ、あった、可能性が。


「シャドルぅ!こっち見ぃや!」

「え、何!?」


 私の声に反応して走り続けるシャドルの目が私の顔を捉える。よし、ここで"威圧眼"!

 レベルの上がった威圧眼はまだ試したことなかったけど、単純に考えて硬直の時間が長くなったとか硬直させられる対象が増えたはず。

 シャドルは現実世界でも私と話すときは、怖い怖いと言いながらも目を合わせて話してくれる。であれば今回もと思って声を掛けてみたが……正解だったようだね!

 雪の中を走り回る犬のようだったシャドルは、私に視線を残したまま硬直していた。威圧眼の効果が無事通ったようで何より。だけどまだ安心できない。だって今思い返してみると、威圧眼の硬直時間をよく調べていなかった!

 すぐさま行動に移らないと、また動き出してしまう。その前にと、私はシャドル目掛け棍棒を投げつけると同時にシャドルに向かって走り出す。


「"リスクバリア"!」


 棍棒が命中する直前、動かないと思っていたシャドルの口が動き魔法が発動される。彼女を覆うように薄い障壁が生じ、棍棒の一撃を防……げてないな、棍棒普通に障壁突き破ってるわ。でも硬直状態って口動かせるの!?

 いや、そのことは後だ!頭部に棍棒が命中したシャドルは背中から倒れる。そこから動こうとしないということは、未だ硬直状態は続いているはずだ。

 すぐシャドルの元に到達した私は、木刀を振り上げ彼女に向けて勢いよく振り落とす!よし、勝った!


「勝ちを確信した瞬間、一番油断するって知らないの?オウカ。」

「へ?」

「"フレイム"!」


 動かないと思っていたシャドルの手が、タクトが私を指していることに気付いたときにはすでに遅かった。

 そこから発生したフレイムはまたも私の顔面に命中。ダメージこそギリギリ耐えられたが、不意の顔面炎直撃に驚いた私は大きく仰け反る。

 くそっ、やられた!倒れてから動かなかったの演技か!でも接近はしているんだ、体勢を取り直してもう一回攻撃すれば……!あ、シャドルいない!こういう時は――


「後ろじゃろうが!」

「あっぶな!」


 振り向きざまに木刀を振るう。私の狙い通りシャドルは背後に回っていたようだけど、しゃがんで躱された!

 屈んで回避したシャドルはそのまま、タクトを私に向けて告げた。終わりだよ、と。


「"出力上昇""フレイム"!」


 今まで浴びたフレイムとはまた一段とデカいフレイムが私を襲い、視界が炎に包まれ――私の体力が底をついた。


"YOU LOSE"



「いやぁー!流石オウカ!思った以上に強かった!だからあの、そのね?下ろして!頭持ち上げないで!負けたことそんなに悔しかった!?」


 PVPが終わった私たちは、少しのインターバルを置いて闘技場の受付のところに転送された。

 シャドルを持ち上げている理由だが、別に悔しかったから訳ではない。そう、悔しかったわけではない。断じてない!

 持ち上げたシャドルをそのままに、私は小声で話しかけた。


「お前、俺のプレイスタイルをよくもまぁ大声で話してくれたのぉ……?」


 そう、こいつは多くのプレイヤーが見守る中、私の戦い方をそれはもう気持ちよくバラしてくれちゃっているのだ。いやまぁ、何れバレるとは思うけど、普通話すかね!?

 それ故の頭の持ち上げなのだ。遠巻きに見られているが気にしない!


「い、いや違うんだよオウカ!聞こえてないから、聞こえてないから大丈夫!」

「証拠はあるんか?」

「公式サイトに!公式サイトにごぜぇますだ!闘技場は特別な状況を除き対戦者の音声を聞き取ることは出来ないって仕様になっていますって書いてありますだ!」

「特別な状況?」

「多分、イベントかなーって。」


 AFWはまだイベントそのものをやっていないため、そこは定かではないみたいだ。

 だけど、音声拾われてなくてよかった。……読唇術持ってる人いたら口の動きから会話内容読み取ってそうだな。怖っ


「ね?だから下ろして?」

「……しょうがないのぉ。」

「しょうがないの!?」

「せめて対戦前に聞こえないとか言ってくれれば良かったとは思うんじゃけど?」

「あっはい、ごめんなさい。」


 反省したようなので下ろしてあげました。頭をさすっているけど痛みそのものは無いでしょうに。

 さて、対戦が終わったわけだけれど、私は気になることをシャドルに聞いてみることにした。


「のぉ、シャドル。シャドルから見て俺はどれぐらい強い?」

「え?中の下。」


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シャドルのスキル一部解説


リスクバリア

自分のスキル・魔法によって発生する自傷ダメージを軽減もしくは無効にする。

敵からの攻撃からも守れるが、自傷ダメージと比べると軽減率は下がる。あと脆い。

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