第6話 パイロットスーツ
M.
男性アイドル5人はえらく粘着質でした。佳澄さんを捕らえて離しません。
ただ、彼らに乱暴を働く意思はないようなのです。
誰の力もやんわりと優しい。それなのにどうしても振り解けない。
加えて5人の眼差しでした。軽薄な口調や態度とは裏腹に、彼らの目は真剣そのもの。最初の怖さが遠のいた代わり、佳澄さんは自分が切実に必要とされていることを感じずにはいられませんでした。
『行こうよ。ね?』
『僕らと一緒に』
『ホラ早く』
『大丈夫だって』
『怖い事なんて少しもありませんから』
もみくちゃにされながら、佳澄さんが思い浮かべたのは自分の子供たちのことでした。遥さんにも奏太くんにも、同じくらい無心に彼女を必要としていた頃があったものです。
そのとき知った、強く求められる喜び。そして快く与える喜び。今はそれらがとても懐かしい。子供たちはだんだんと自分の手から離れつつある。そのことが嬉しいと同時にたまらなく寂しい。
佳澄さんは忘我のうちに思いました。
アイドルたちが自分を導こうとしているどこか。
そこでは、もう寂しい思いなんかしなくて済むのかもしれない。尽くすことや気遣うことに手応えのなさを覚えることも、ないがしろにされることも二度となくて、献身には喜ばしい報いがあって、奉仕には必ず感謝が帰ってきて――。
そんな満ち足りた世界に陶然とする佳澄さんの耳を野太い悲鳴がつんざきました。
『うわああ!』
『な、何だよコレ』
『誰だ畜生!』
『逃げられない』
『こんなのってないよ!』
ストームの面々が消えていきます。彼らも、照明も音楽もライブステージめいた辺りの景色も、まるで曇ったガラスでも掃除するように拭い去られていくのです。
とっさに握ろうとした誰かの手に、佳澄さんの指先は届きませんでした。
気付けば辺りは静かに広がる真っ白な世界。
佳澄さんはその場にへたり込みました。
募る寂しさ。
今の今まで強く求められていた反動でしょう、喪失と孤独は深かったのです。
『泣いているんですか』
ふいに差し伸べられたのは白い手袋をした右手。
パイロットスーツを着た優しげな男性がすぐ側に立っています。
加納翔。
公私にわたって世間を賑わせる、今もっとも話題の俳優の一人でした。
『そんな寂しそうな顔をしないで、僕と一緒に行きませんか』
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