失情
私は笑えない。
3年前、父親から性的な悪戯をされた。
それ以来、コメディを見てもバラエティを見ても。頬の筋肉は一切動かなくなってしまった。
幸か不幸か、拒食症や鬱というわけではなく。日常生活に支障はなかった。
特に不満はなかった。
両親は離婚、母親に引き取られた。母親は充分に私に良くしてくれた。
友人も遊びに誘ってくれたり、食事に誘ってくれたり。
優しい彼氏は、前よりも優しくなった。
学校も先生が上手くサポートしてくれたおかげで、そこまでの苦痛にはならなかった。
しかし、しかし。私を蝕む何かは落ちず。常に心の臓へと向かって歩みを進めていた。
何故?理由は分からない。強いてあげるなら、動かなくなった頬だろうか。
「ありがとう、引き受けてくれて。」
私は、貯めたお小遣いで見届け人を引き受けてくれた男性に軽く一礼をした。
3万2000円。見届け人の相場は分からないけれど、決して多くはないだろう。
それでも引き受けてくれた男性。
帽子を目元まで深く被り、マスクをしているせいで年齢はよく分からないけれど。おそらく父親と同じくらいの年齢だろう。
「ばいばい」
私は、頬が少し緩んだのを感じながら。1歩前に。
見届けて 味噌煮込み白木 @yasai69batake
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