第174話 ローシュの思い

 夜の町を歩き続ける俺はため息を吐きながら頭の中を整理する。

 メルラになんて答えれば良いかわからないのだ。

 別に彼女が嫌いなわけではないのだが、どうしても脳裏にちらつく他の女性の姿があった。


「こんな事で悩んだ事ないんだけどな...」


 今まで恋というものはしたことがなかった。

 俺とは無縁の物であり、一生関わり合いのない物にすら思えていた。

 そう、彼女の姿を見るまでは...。


「明日だったよな、カリンのショーがあるの、見に行かないと...」


 俺が明日ショーを見にいく理由。

 カリンの活躍が見たいのも理由の一つではあるのだが、今回はそちらがメインではない。

 俺は多分...。


 〜エルシーという女性に一目惚れしたのだ〜


 彼女を見ていると動悸が激しくなるのを感じる。

 最初はカリンの先生程度の認識だったのだが、あの時彼女のダンスを見てぐ〜っときてしまったのだ。

 10分にも満たない時間だったのに、俺の心は突き動かされた。

 今も脳裏に浮かぶのは、あの時に振りまいた笑顔。

 あの表情を見た時、俺はときめきの様な物を感じてしまったのだと思う。

 適当な店で酒を買い少し嗜む。

 あまり酒を飲む方ではないのだが、今日は何故か飲みたくなったのだ。

 アルコール度数の限りなく少ないほぼ水のような酒だったのだが、ほろ酔いくらいで充分。


「ふぅ...」


 夜の賑やかな町の様子をつまみに飲む酒はなかなかいける。


「美味いな...」


 王国祭はまだ3日目なのだが、自分の中では明日が最終日のように感じられる。

 もう一度彼女の踊りを見て、それでもまだこの胸の高鳴りが収まらないようであれば...。

 いや、やめておこう。

 俺はそっと考えるのをやめた。

 ぼんやりと盛り上がりを見せ続ける夜の町の声を聴きながら、俺は1人酒を飲み干した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る