第138話 よかったよかった

「いや〜よかったよかった!カリンが機嫌を直してくれて本当に良かった〜!」


「もうっ!!、にーに煩い!」


「すまねぇなカリン、ちょっと嬉しくなってな」


 はにかみながら謝ってくる彼を見ていると全身の力が抜けてきます。

 この異世界に来て結構な日にちが経っているので兄さんとの対話にも慣れていました。

 今では結構自然に兄妹をやれていると思います。

 両手を広げて兄さんに向かって怒る私は、いつしかローシュの事を本当の兄さんができたみたいに思っていました。

 ちょっぴり妹思い過ぎるところもあるけれど、強くて優しい自慢の兄さんだと思います。

 彼に背を向けて、さっき買って貰ったばかりの月の髪飾りを付けて見ました。

 前髪よりちょっとだけ左に付けて噴水の水を覗き込みます。

 幼い女の子の顔が写りこみ、光に反射して輝く月の髪飾りもちゃんとありました。

 私に似合うかどうかちょっと不安だったのですが、こうしてみるとよく似合っていると思えるので拳をぎゅっと握りました。


「どう?、似合ってるかな?」


 私が兄さんに来てみると、兄さんはこう微笑みながら言いました。


「ああ、似合ってるよ...」


 嬉しくなった私は満面の笑みで髪飾りに触れました。

 始めてのお祭りで、兄さんから貰ったプレゼント。

 そう思うと嬉しくないはずがありませんでした。


「ありがとうにーに!、一生大切にする!」


「ハハッ、一生は流石に厳しいんじゃないかな...、でもまあ、物を大切にすることはいいことだけどな!」


 私の頭を撫でながら笑う彼を見ていると、自然と心が落ち着きます。

 思わずハフゥという呑気な声を出した時に、私は突然恥ずかしくなり顔が真っ赤になりました。


「にーに...、今の聴いてた?」


 恐る恐る私が聴いてみると、彼はそっぽを向きながら「おう!ばっちし聴いてたぜ!やっぱカリンは可愛いなぁ〜」と全くデリカシーのない答えを返してきたので、ついつい怒りたくなってしまいます。


「もうっ!!こういう時は聞いてないよって答えるのが普通でしょ!」


「おお...、そうなのか悪かったなカリン!」


 そう言いながらも、彼の顔は明るいままだったので本当に理解しているのかはわかりません。

 もうっと呟きながら私はお城の方を見ていました。

 何となくお祭りの様子を見ていると、パニラの事を思い出した私。

 王族ってこういう祭りごとの時、何をしてるんだろうか?。

 私がぼーっとお城を見ていると、兄さんの周りに鎧を着込んだ人が3人ほど集まってきて、何やら話し合っています。

 騎士ってのはこういう祭りごとの時も大変なんだろうなと考えていると、私は何者かに手を握られました。

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