第137話 月の髪飾り
むすっとする私をあやすように、兄さんはアイスクリームを買ってきてくれました。
「悪かったって...、これはお詫びだ」
「もうっ...、にーにがちゃんと教えてくれていたらこんな事にならないで済んだんだからね!」
「わかったわかった、わかったから機嫌を直してくれ」
それを受け取った私は、それを舐めながらそっぽを向いて歩いていきます。
別に兄さんが悪い訳ではないのですが、ちょっと恥ずかしくなったのでした。
「おいおい!待ってくれよ!」
「にーになんて知らない!」
完全に無知だった自分が悪いのですが、この時の私は、彼が教えてくれていなかった事であんなに驚いたのだと考えていた為、どうしても彼を許すことができないのでした。
剣幕を立てながら歩いていくと、小物の出店があったのでちょっと気になってしまい見て見ることにします。
出店に近づき、小物を見ているとお店の人が私にこう言ってきました。
「お嬢ちゃん、何かお探しものかい?」
「いえ、ちょっと気になって見ているだけです」
異世界の小物を見ていると、不思議な物もたしかに多いのですが、それよりも普通のアクセサリーに目がいってしまいます。
やはり餅月林華だった時の記憶の所為か、そういう普通な小物の方が目につきやすいのでした。
結局私が手にとって見ていたのは、月の形をした髪飾りでした。
簡単な作りで、誰でも作れそうな物なのだが、私の目に留まったのはそれで、なんだか月という単語に惹かれてしまっています。
私の真実の名に月という字があるので、なんだか運命のような物を感じずにはいられないのでした。
「それが欲しいのか?」
突然後ろから声をかけられたのでびっくりしました。
「きゃっ!...、なんだ...にーにか...」
「なんだとはなんだ...、まあそれはいいとして、カリンはそれが欲しいのか?」
そう言いながら月の髪飾りを指差してくるので、私は頷くました。
「うん...、なんだか惹かれちゃって...」
「じゃあこれください!」
兄さんが店の人にお金を払おうとしたので止めます。
「いやいや、にーにに払わせる訳にはいかないよ!、自分で払うからお財布をしまって!」
私がそう言っても彼は笑いながらお代を払いました。
「今日はお祭りだぜ、こういう時は兄が妹に何か奢るもんだろ?、ちょっとくらいにーににもカッコつけさせてくれよ」
「おっ!、兄ちゃんいい兄貴だね〜、ちょっとおまけしといてやるよ!」
「おっ!サンキューオヤジ!、だったらついでにこの太陽のアクセサリーも買うぜ!、妹が月の髪飾りを買うんなら俺は太陽を選ぶぜ!」
すっかり出店の店主と意気投合した兄さんが無駄な買い物もしました。
「毎度あり〜、来年も頼みますよ!」
「おうっ!またくるぜ!」
(なんか上手いこと乗せられたと思うのは私だけかな...?)
そう思いながらも、私は小袋に包まれた髪飾りをぎゅっと大事そうに抱きしめています。
それを見た兄さんが微笑んだ時に、私はこれを買ってよかったと思うのでした。
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